
監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
交通事故の被害に遭いケガをしたとしても、仕事が忙しかったり、家事や育児に追われたりして、こまめに通院できないこともあるかと思います。
しかし、どのような事情があるにせよ、ケガの状態などに照らしてあまりに通院日数が少なすぎると、慰謝料がそれほど多くならず、被害者が十分な賠償を取り逃すおそれがあります。
そこで、このページでは、通院日数が慰謝料にどのような影響を与えるのか、適正額を受けとるための方法などについてご紹介していきます。ぜひお役立てください。
目次
通院日数が少ないと慰謝料にどのような影響が出るのか
交通事故の慰謝料は、治療期間や実際に入通院した日数、ケガの状態などをベースにその金額が算定されます。そのため、通院日数が少ないと、被害者が受け取れる慰謝料が少ないままとなるおそれがあります。
ただし、慰謝料の計算方法は自賠責基準と弁護士基準で変わります。以下で見比べてみましょう。
自賠責基準の場合
慰謝料を計算するにあたって、「自賠責基準」という基準が使われることがあります。
自賠責基準とは、事故被害者に対する最低限の救済のための基準をいいます。自賠責基準による入通院慰謝料の計算式は、以下のとおり定められています。
入通院慰謝料=日額4300円×対象日数
- 対象日数:①治療期間(初診日~治療終了日または症状固定日)と、②実際に入通院した日数×2のうち、いずれか短い方の日数を採用
- 2020年3月31日以前に起きた事故は日額4200円を採用
実際に具体例を使って計算してみましょう。
(例)治療期間3ヶ月、実通院日数50日の場合
・治療期間90日<実通院日数50日×2=100日であるため、少ない方の90日を採用
・4300円×90日=38万7000円
(例)治療期間3ヶ月、実通院期間22日の場合
・治療期間90日>実通院日数22日×2=44日であるため、少ない方の44日を採用
・4300円×44日=18万9200円
このとおり、自賠責基準では通院日数が少なくなると、入通院慰謝料が低額になることがわかります。
弁護士基準の場合
弁護士基準では、「損害賠償額算定基準」(赤い本)に掲載された慰謝料算定表ⅠやⅡを参考にして、入院期間と通院期間から入通院慰謝料を算出します。表Iは骨折など重傷用、表Ⅱは打撲やむちうちなど軽傷用となっています。
いずれも、入通院期間が長期になるほど、金額は多くなる傾向にあります。そのため、通院日数や入院日数が少なく、入通院期間が短ければ、慰謝料は少なくなります。
また、通院日数が実日数に比べて少ない場合は、ケガの状況などを踏まえて、軽傷では実通院日数の3倍、重傷では3.5倍程度を「みなし通院期間」として、慰謝料を算定することがあります。
みなし通院期間を使って慰謝料を計算しても、入通院実日数よりも少なくなる場合は、実期間をもとに算出した慰謝料よりも低額となります。
例えば、被害者が重傷で6ヶ月通院していても、実通院日数が10日だと、みなし通院期間35日(10×3.5=35日)をもとにした慰謝料しか受け取れないことになります。
どれくらいで通院日数が少ないと判断されるのか
月1~2回だけでなく、月4回ほどの通院であっても、通院日数は少ないと評価される可能性は高いです。適切な通院頻度は、ケガの状態や治療経過などによって変わるため、基本的には主治医に指示された通院頻度をキープするようにしましょう。
その上で、慰謝料の視点からいえば、3日に1回ほどのペースで通院するのが望ましいとされています。
ただし、通院日数が少ないといっても、ケガの状態によって慰謝料額への影響も異なります。詳しくは以下で確認しましょう。
骨折等で自然治癒を待つために通院日数が少ない場合
交通事故で骨折を負った場合は、通院して治療を受けるというよりも、まずは骨折した部分を固定してギプスを装着し、骨が自然に癒合されるのを待つという治療が施されることが通例です。
この場合はそもそも頻繁に通院する必要がないため、月1回の通院による経過観察が行われるなど、通院日数が少なくなることが多々あります。
このように、経過観察など正当な理由によって通院日数が少なくなっている場合には、慰謝料額の算定においてマイナスの影響は与えないものと判断されることがあります。
加害者側の保険会社から、「通院日数が少ないから、実通院日数の3~3.5倍ほどのみなし通院期間に基づいて慰謝料を算定します」などと主張された場合は、ケースによっては、ケガの状態や経過観察の必要性などを説明して適切に反論する必要もあるでしょう。
むちうちなど軽傷であるために通院日数が少ない場合
むちうちなど軽傷を負った場合は、早期回復のために定期的な通院が必要です。
骨折など重傷のケースと異なり、通院日数が少ないことに正当な理由が見当らないため、通院日数が少ないと、慰謝料の算定において不利となる可能性があります。
特にむちうちの厄介な点は、レントゲン等で撮影しても客観的な症状がわかりにくいという点です。さらに通院日数も少ないとなると、治療の必要性を疑われて、慰謝料が減額されるおそれがあります。
むちうちで適正な慰謝料をもらいたいならば、週2~3日、月10日ほど通院することをおすすめします。この根拠として、むちうちでは、①実通院日数×3と、②治療期間を比べて、短い方をもとに慰謝料を算定するのが通例です。
そのため、実通院日数の3倍が治療期間を下回らない場合、つまり週に2~3日ほど通院していれば、治療期間で算定できるので慰謝料が少なくならないことになります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
一般的な通院日数と通院日数が少ない場合の慰謝料相場の比較
では、通院日数が慰謝料にどのような影響を与えるのか、通院日数が少ないケースと一般的な通院日数のケースとで実際に計算して見比べてみましょう。計算結果は次のとおりです。
【入通院慰謝料】
(通院期間6ヶ月、入院なし、2020年4月1日以降に発生した事故)
通院日数 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
①通院日数が少ないケース 週1日通院 (実通院日数24日) |
20万6400円 |
むちうちなど軽傷 42万8000円 骨折等の重傷 60万4000円 |
②一般的な通院日数のケース 週3日通院 (実通院日数72日) |
61万9200円 |
むちうちなど軽傷 89万円 骨折等の重傷 116万円 |
また、計算結果をみると、週1日・週3日通院いずれも、自賠責基準より弁護士基準で算出した方が高い慰謝料額になっていることが確認できます。
交通事故の通院日数に関するQ&A
それでは、交通事故の通院日数についてよくある質問についてご紹介したいと思います。
通院日数が1日しかなくても慰謝料をもらえますか?
通院1日であっても慰謝料を受け取ることができます。
たとえ通院したのが1日だけであっても、事故の影響でケガをして通院治療を受けた以上、入通院慰謝料は発生するからです。
したがって、交通事故の被害に遭った場合は、事故当時は痛みがなかったとしても、むちうちなどのように数日後に痛みが現れる可能性もあるため、整形外科などの病院を受診し、検査してもらうことが必要です。
もっとも、これまで述べたような基本的な計算内容から、通院日数が少ないと慰謝料額が伸びない可能性があることにご注意ください。
通院日数を多くするため、痛くないのに通院してもいいですか?
そのような行為は望ましくありません。
治療の必要性がないのに通院しても、本来は慰謝料に影響しないためです。
慰謝料の算定のベースとなる「通院日数」としてカウントされるのは、医師の指示のもと、ケガの治療に必要かつ合理的な治療をしたと認められる日数のみです。
事故状況やケガの状態から見て、治療に時間がかかるとは到底思えないケースで、慰謝料目当てにむやみに通院すると、必要のない過剰な診療を受けているとして賠償を拒否されたり、目に余る場合などは保険金詐欺を疑われたりするおそれもあります。
その結果、保険会社から治療費の支払いが打ち切られたり、過剰診療分の慰謝料額が差し引かれてしまったりするおそれがあるため、慎むべきです。
リハビリでの通院も通院日数や通院期間に含まれますか?
リハビリでの通院も、慰謝料の算定のベースとなる通院日数や通院期間に含まれることが通常です。リハビリは、ケガによって落ちた筋力や運動機能を回復させるためのものであり、治療に関連すると考えられているからです。
ただし、リハビリの頻度が低い場合や、リハビリの内容が治療の効果が期待できない漫然治療である場合、医師の了承なく整骨院等でリハビリした場合などは、その分慰謝料やリハビリ費用を受けとれなくなるおそれがあります。
また、リハビリ期間中の入通院慰謝料の補償は、原則としてケガの完治・症状固定前に限定されるため注意が必要です。
弁護士に依頼することで、適正な慰謝料額を請求できる可能性があります
たとえ通院日数が少ない場合でも、事故でケガをして辛い思いをしたことは事実ですから、しっかりと加害者へ慰謝料を請求するべきです。
しかし、通院日数が少ない場合は、保険会社から「それほど大したけがではないのでは?」「そもそも治療する必要があるのか?」と疑いの目を向けられる可能性があるため、これらのリスクを回避するための対策を講じる必要があります。このような場合は、弁護士のサポートを受けると有用です。
弁護士に依頼すれば、慰謝料請求に向けた通院方法のアドバイスを受けることが可能です。また、最も高額となることが多い「弁護士基準」で算出した慰謝料を請求できるため、慰謝料増額の可能性も広がります。
適正な慰謝料を受け取りたい場合や、通院日数と慰謝料の関係について知りたい場合は、交通事故問題の対応を得意とする弁護士法人ALGにぜひご相談ください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)