監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
相手方の保険会社から交通事故の示談案が提示されたときに、「これだけしかもらえないのか」「こんな金額では受け入れがたい」などと納得できない方は少なくないと思います。
すべての結果には必ず原因があるため、慰謝料が少ないことには何らかの原因が隠れているはずです。
このページでは、事故の被害者が適正な慰謝料を受け取れるよう、なぜ慰謝料が少なくなるのかその原因や、それを防ぐための防止策などについてご紹介していきます。ぜひお役立てください。
目次
交通事故の慰謝料が少なくなる原因は?
まず前提として、交通事故にあったときに請求できる慰謝料として、以下が挙げられます。
- 入通院慰謝料
ケガで痛みを感じたり、入通院を余儀なくされたりするなどして生じた精神的な苦痛に対する慰謝料。治療期間や通院日数、ケガの状況などに応じて算定される。
- 後遺障害慰謝料
入院や通院をして適切な治療を行っても症状が完治せず、後遺障害が残ったことに対し請求できる慰謝料。
申請により認定された後遺障害等級に応じて算定される。
これだけ事故で辛い思いをしたのに、なぜ慰謝料が少なくなってしまうのか・・・腑に落ちない方は多いでしょう。交通事故の慰謝料が少なくなる原因として、以下が考えられます。
- 低い算定基準で計算されている
- 通院日数が少ない、または過度に多い
- 後遺障害の認定がない、または等級が低い
- 被害者側の過失割合が高い
それぞれ詳しく見ていくと同時に、その防止策についても確認していきましょう。
低い算定基準で計算されている
交通事故の慰謝料は、以下の3つの算定基準のいずれかを使って算出します。
- 自賠責基準
- 任意保険基準
- 弁護士基準
どの基準を選択するかで、同じ事故でも慰謝料の金額に隔たりが生じるという特徴があります。
慰謝料の金額は基本的に自賠責基準で算出する場合が最も安く、次いで任意保険基準での算出額となります。弁護士基準で算出した場合は、この中で最も高額となることが多いです。
自賠責基準≦任意保険基準<弁護士基準
そのため、低い算定基準で計算されると、慰謝料が安くなってしまう可能性があります。
慰謝料が少ない気がすると感じた場合は、相手方の保険会社がどの算定基準を使って計算しているのか確認する必要があります。
被害者としては、弁護士基準による慰謝料額を目標金額として相手方と交渉すべきですが、弁護士基準は弁護士が交渉しないと基本的に認められづらい基準となっています。
各算定基準の内容を以下に挙げましたので、ご確認ください。
自賠責基準 |
自賠責保険が用いる、基本的な対人賠償を確保するための基準。 被害者に過失がない事故の場合は最も低い保険金額となる傾向がある。 入通院慰謝料や治療費など傷害部分の保険金について120万円の支払上限額がある。物損は適用外。 |
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任意保険基準 |
各任意保険会社が独自に設ける基準。 保険会社により金額が異なり、非公開。賠償額は自賠責基準より多少高い程度で、弁護士基準よりは低くなる傾向がある。 |
弁護士基準 |
交通事故の裁判例をもとに作られた支払基準。 弁護士が代理人となって示談交渉する場合や裁判などにおいて使われる。被害者に過失がない場合の賠償額は基本的に最も高額となる傾向がある。 |
慰謝料の比較
実際に具体例を用いて、慰謝料額を計算してみましょう。
任意保険基準は社外に公表されていないため、ここでは自賠責基準と弁護士基準を使って計算し、その金額を比較してみます。
(例)むちうちで14級9号認定(他覚症状なし)、通院期間90日、実通院日数50日
このケースでの入通院慰謝料と後遺障害慰謝料は、下表のとおりです。
自賠責基準 | 弁護士基準 | |
---|---|---|
入通院慰謝料 | 38万7000円 | 53万円 |
後遺障害慰謝料(14級9号) | 32万円 | 110万円 |
計 | 70万7000円 | 163万円 |
以下で、計算の根拠について見てみましょう。
①入通院慰謝料
(自賠責基準)
自賠責基準では、入通院慰謝料の計算式は、次のとおり定められています。
入通院慰謝料=日額4300円×対象日数
- 対象日数:①治療期間と②実際に治療した日数×2のうち、いずれか短い日数の方を採用する。
- 2020年3月31日以前に起きた事故については日額4200円とする。
上の例では通院期間90日<実通院日数50日×2ですので、90日が対象日数となります。そのため、入通院慰謝料は、4300円×90日=38万7000円となります。
(弁護士基準)
一方、弁護士基準では、日弁連が発行する「損害賠償額算定基準」(赤い本)に掲載されている入通院慰謝料の別表Ⅱを根拠とするため、53万円となります。
②後遺障害慰謝料
自賠責基準と弁護士基準ともに、認定された後遺障害等級に応じた慰謝料額が定められていますが、同じ14級でも、80万円ほどの金額差があることが分かります。
通院日数が少ない、または過度に多い
入通院慰謝料は、治療期間や実際に通院した日数に応じて金額が決まります。
治療期間が長期にわたるにもかかわらず、通院日数が極端に少なかったり、不規則であったりすると、慰謝料が減額されてしまう可能性があります。これは相手方の保険会社から「もうケガは治っているのにわざと通院期間を延長させようとしているのでは?」「治療期間が長引いたのは被害者が積極的に通院しなかったためでは?」などと疑われるおそれがあるためです。
また一方で、ケガの状態に見合わない過剰な通院を行うと、「通院日数を多くして慰謝料を不正に請求しようとしている」などと治療の必要性を怪しまれ、慰謝料が減額される可能性があります。
慰謝料の減額を防ぐには、主治医と相談しながら、ケガの状況に見合った適切な通院頻度を保つことが重要です。
後遺障害の認定がない、または等級が低い
治療を続けても、事故前の状態に回復せずに症状固定した場合に、自賠責保険を通じて後遺障害等級認定を受けると、後遺障害についての慰謝料を請求することができるようになります。
後遺障害等級認定は自動的に受けられるものではなく、認定を受けたい被害者が自らアクションを起こす必要があります。後遺障害診断書や医療画像など必要な書類や資料をそろえたうえで、認定申請しなければなりません。たとえ後遺症が残っていたとしても、基本的に、後遺障害認定を受けない限り、賠償協議で後遺障害慰謝料を受け取ることはできないため注意が必要です。
また、後遺障害等級は1級~14級に分けられ、1級が最も症状が重く、14級が最も症状が軽く、1級に近づくほど慰謝料額も高額となります。この等級が1級違えば支払われる慰謝料に大きな差が出ますので、後遺症の状態に応じた適切な等級に認定されることが重要です。
被害者側の過失割合が高い
被害者の過失割合が高い場合には、慰謝料が少なくなってしまいます。
過失割合とは、加害者と被害者の交通事故における責任の割合を示したものをいい、9対1、8対2のように表します。
実際の事故では、加害者のみが悪いというケースは少なく、被害者にも何らかの過失があり、これらが重なった結果不幸にも事故が発生することが多いです。
被害者にも過失割合が認められると、加害者が被害者に対し支払うべき損害賠償金の計算では、損害額から被害者の過失割合分の金額が差し引かれてしまいます。これを過失相殺といいます。
被害者の過失割合が高ければ高いほど控除される金額が多くなるため、受け取れる慰謝料などが少なくなってしまいます。例えば、慰謝料含めた損害賠償金が100万円で被害者の過失割合が1割であったら90万円、3割であったら70万円などと減ることになります。
自分の慰謝料が少ないかわからない場合はどうしたらいい?
相手方の保険会社から提示された慰謝料が相場よりも少ないか分からない場合は、交通事故に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士であれば、損害賠償項目に不備がないか、過失割合は適正であるか、後遺障害等級認定は適切かなど精査できるため、慰謝料が適正額であるかどうか検討、判断することが可能です。
弁護士法人ALGにも交通事故に精通する弁護士が多く在籍し、慰謝料の相談を随時受け付けております。示談案を見せて頂ければ、弁護士が、保険会社が提示した金額が適正であるか、どのぐらい増額する可能性があるかなどについて診断いたしますので、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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適正な交通事故慰謝料をもらう方法
それでは、適正な交通事故の慰謝料を受けとるにはどうすれば良いのでしょうか?
現在治療中である方と、後遺障害等級認定が済んでいる方とで対応方法が異なるため、以下で別々に解説します。
まだ治療中の方は
まだ治療中の方が適正な慰謝料を受けとるためには、以下のポイントを守ることが必要です。
- 主治医と相談の上、適切な頻度の通院を続ける
- 整骨院への通院は医師の指示のもとで行う
- 簡単に、保険会社の言うとおりに治療を打ち切らない
なお、後遺症が残りそうな方が守るべきポイントとして、以下が挙げられます。
- 後遺障害等級認定のために必要な通院を行い、検査も必要に応じて適切な時期に受ける
- 通院において自覚症状をできるだけ伝える
- 認定基準を満たしていることが明確に分かるような後遺障害診断書を書いてもらう
後遺障害等級認定がお済みの方は
すでに後遺障害等級認定がお済みの方については、基本的に、弁護士基準で計算した後遺障害慰謝料を相手方の保険会社に請求していくことが必要です。
弁護士基準で計算した慰謝料は、弁護士費用を控除しても、なお自賠責基準や任意保険基準で計算した慰謝料よりも高額となる可能性が高いためです。
ただし、これを実現するためには、弁護士に依頼して示談交渉へ介入してもらう方がよいです。
弁護士基準での請求は、基本的に、弁護士が行わないと相手方の保険会社は受け入れてくれないことがほとんどであるからです。
交通事故で慰謝料以外にも獲得できる損害賠償金
交通事故によって被害者が獲得できる損害賠償金は、慰謝料だけではありません。
例えば、以下のような損害賠償金も請求することが可能です。
- 治療関係費:治療費、入院費、接骨院等の施術費など
- 通院交通費:通院の際にかかった交通費
- 付添看護費:付き添い看護した人に対する日当
- 入院雑費:パジャマや洗面具、寝具などの費用
- 器具等購入費:車いす、松葉づえ、義足などの費用
- 休業損害:事故が原因で仕事を休んだために減った収入
- 後遺障害逸失利益:後遺障害が残ったことで失われた将来の収入
- 車の修理代(全損の場合は買い替え費用)、休車補償、代車使用料など
交通事故の慰謝料が増額した事例
ここで、弁護士の介入により交通事故の慰謝料が増額した、弁護士法人ALGの解決事例をご紹介します。
(事例の内容)
依頼者が青信号の交差点に直進で進入した際、信号無視の左方車とぶつかったという事例です。
治療を尽くしたにもかかわらず腰の痛みや足のしびれといった後遺症が残ったため、後遺障害を申請したが非該当となり、その結果に疑問を抱き、弁護士法人ALGに依頼されました。
(解決結果)
異議申立てから行うこととなりましたが、あらためて通院先にかかり検査をしてもらったところ、神経症状を示す結果がいくつか出ていました。主治医にも意見を聴き、それらを添付して異議を申し立てたところ、14級9号との認定を受けました。その結果、当初相手方の保険会社が提示していた、慰謝料含めた約70万円の賠償金を、約210万へと増額させることに成功しました。
慰謝料が少ないと感じたら弁護士にご相談ください
交通事故の慰謝料について「何だか少ない気がする」と感じた場合には、保険会社が提示する示談案にサインすることはちょっと待ってください。まずは弁護士に相談して、示談案を確認してもらうことをおすすめします。いったん受け入れてしまった示談は、基本的に撤回できないためです。
また、被害者の方は、提示された慰謝料額が適正かどうかを判断する十分な知識を持ち合わせていないことがほとんどかと思います。弁護士に任せれば、事故状況やケガの症状などを精査したうえで、相手方が提案する慰謝料が適正額であるかどう判断することが可能です。また、弁護士基準を用いて交渉するため、慰謝料の増額の可能性も高まります。
慰謝料について何かお困りの際は、交通事故を得意とする弁護士法人ALGにぜひご相談ください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)