
監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
ご家族が交通事故に遭ってケガをした場合に、一人で大丈夫かと心配になって入通院や通勤、通学に付き添うこともあるかと思います。この付き添った費用については、「付添費」として加害者に請求できる場合があることをご存知でしょうか?
ただし、付添費として請求するためには、一定の要件をクリアする必要があります。このページでは、
- 付添費と認められるための要件
- 付添費の相場 など
について解説していきますので、ぜひ参考になさってください。
目次
付添費とは
付添費とは、被害者の入通院などに家族等が付き添った場合に、その補償として支払われる費用をいいます。
例えば、骨折や脳の障害により単独での歩行が困難であるときや、幼児や高齢者であるため1人では通院できないときなど、家族等の付添いが必要と認められる場合に、付添費の請求が可能となります。
プロの職業付添人(看護師や介護福祉士など)が付き添った場合は実費全額を、家族など近親者が付き添った場合は一定の日額を、付添費として加害者に請求することが可能です。
付添費が認められる条件
例えば、妻が事故でケガをして入院し、夫が心配で付き添ったとしても、必ずしも付添費の請求が認められるわけではありません。
付添費として認められるには、原則、それが医学的に必要であったことが大前提となります。つまり、「医師から付き添いが必要との指示を受けた」場合に、基本的に付添費の請求が可能となります。
そのため、付き添いの必要性があることについて、医師から証明(診断書やカルテ、診療報酬明細書などへの記入)をもらっておくことが必要です。
もっとも、医師の指示がない場合でも、ケガの部位や程度、被害者の年齢などにより、付添の必要が認められることがあります。例えば、被害者が重篤な脳損傷や脊髄損傷であったり、幼児や児童、高齢者であったりする場合は、付添費の請求が認められる可能性が高いです。
子供に付き添う場合は条件が緩和されている
交通事故の被害者が子供であれば、ケガの状態や医師の指示にかかわらず、付添費の請求が認められることが多いです。幼児や児童は心身が未熟であることから、たとえ軽傷であっても、親などの付き添いが必要と考えられるからです。
一方、被害者が一定年齢以上である場合は、一人で病院に通ったり、身の回りのこともある程度できたりすると判断されるため、ケガが重篤であるなど特別な理由がない限りは、付添費の請求は認められない可能性が高いです。
付添費の内訳と相場
付添費には、入院や通院の際の付添費用だけでなく、自宅療養や通学の際の付添費用など、いくつか種類があります。以下で付添費の内訳と相場について見ていきましょう。
入院付添費
入院付添費とは、入院期間中に家族などが付き添った場合の補償として支払われる費用です。
被害者の入院に付き添えば必ず認められるわけではなく、付添の必要性があることが要件となります。具体的には、医師の指示やケガの程度、被害者の年齢などにより判断されます。
重篤な脳損傷や脊髄損傷である場合、骨折している場合、被害者が幼児や児童、高齢者であるような場合は、一人で身の回りのことができず、通常付添が必要であるため、付添の必要性が認められる可能性が高いです。
他方、日用品の用意など簡単な介助やお見舞いでは、必要な付添とは認められ難いです。また、入院期間中でも、治癒してきたために付添の必要性がなくなったと判断されると、それ以降の入院付添費の請求は認められにくくなる傾向にあります。
入院付添費の相場
入院付添費の相場は、以下のとおりです。
- 自賠責基準:1日あたり4200円(2020年3月31日以前に発生した事故は1日4100円)
- 任意保険基準:自賠責基準とほぼ同額
- 弁護士基準:1日あたり6500円
なお、弁護士基準においては、被害者のケガが重篤である場合や、被害者が幼児・児童であるような場合などで、長時間かかりっきりの付き添いが必要となった場合には、さらに増額されることがあります。
通院付添費
通院付添費とは、被害者が1人では通院できないため、家族などが通院に付き添った場合の補償として支払われる費用です。
例えば、骨折により単独歩行ができない場合や、高次脳機能障害の症状がある場合、被害者が幼児や高齢者、障害者であるケースなど、世間一般の感覚からして、とても一人では病院に行けないだろうと判断される場合に、通院付添費の請求が認められます。
通院付添費は、付き添いをしたことそのもの対する補償であるため、被害者本人や付添人の通院にかかった交通費については、別枠で請求することが可能です。
通院付添費の相場
通院付添費の相場は、以下のとおりです。
- 自賠責基準:1日あたり2100円(2020年3月31日以前に発生した事故は1日2050円)
- 任意保険基準:自賠責基準とほぼ同額
- 弁護士基準:1日あたり3300円(ただし、個別の事情に応じて変動)
通院付添費は、おおよそ入院付添費の2分の1ぐらいとなる傾向が多いです。
自宅付添費
自宅付添費とは、自宅療養中に家族などが付き添った場合の補償として支払われる費用です。
ケガの状態や被害者の年齢、日常生活への支障の程度などを考慮して、自宅での付添いの必要性が判断されます。例えば、ケガが重症であったり、被害者が小さな子供であったりする場合など、日常生活の動作(移動や食事、着替え、トイレ、風呂など)に支障があり、介助を必要とするケースで認められることが多いです。
自宅付添費の請求が認められる期間は、退院した後から症状固定日(これ以上治療を続けても改善の見込みがない状態)までとなります。症状固定日以降の自宅付添費については、後述する将来介護費で補償されることになります。
自宅付添費の相場
自宅付添費の相場は、以下のとおりです。
- 自賠責基準:1日あたり2100円(2020年3月31日以前に発生した事故は1日2050円)
- 任意保険基準:自賠責基準とほぼ同額
- 弁護士基準:明確な基準なし
弁護士基準では一律の基準がないため、介護の内容が金額に反映されます。付き添いの程度が見守りや助言で済む場合は1日あたり3000円ほど、常時介護が必要である場合は1日あたり6500円以上が相場となること傾向があります。
将来介護費
将来介護費とは、将来にわたって必要となる介護費用をいいます。
交通事故により重い後遺障害(遷延性意識障害や高次脳機能障害、脊髄損傷によるマヒ)が残り、症状固定後も介護なしでは生活できない状況となった場合に認められるものです。
基本的には、自賠責保険の後遺障害等級認定において要介護認定を受ければ(別表第一1級・2級)、将来介護費は認められるケースがほとんどです。
ただし、要介護認定のない後遺障害についても、個別の状況に応じて、介護の必要性が認められる場合があります。例えば、日常生活において見守りが必要な場合、歩行やトイレ、食事、風呂など日常生活上の動作に支障が生じるような場合については、将来介護費が認められる可能性があります。
将来介護費の相場
将来介護費は、基本的に一括で加害者から受け取ることになります。その相場は以下の計算式により計算されます。
将来介護費=必要な介護にかかる費用の日額×365日×将来的に介護が必要な年数に相当するライプニッツ係数
「将来的に介護が必要な年数」とは、基本的に症状固定時から被害者の平均余命までの年数になります。また、「ライプニッツ係数」とは、中間利息を差し引くために使う係数のことです。
さらに、「介護費日額」は、付添人が近親者か職業付添人かで金額が異なります。
プロの職業付添人(看護師や介護福祉士など)については、原則として実費の全額が認められます。
一方、近親者の付添で常時介護を要する場合は1日あたり8000円~9000円程度が認められます。ただし、随時介護の場合には、介護の程度によりこの金額が増減されることがあります。
通学付添費
通学付添費は、被害者がまだ学生であり、親などが通学の付き添いをしなければならなかった場合に、その補償として支払われる費用です。
付添の必要性については、ケガの状態や程度、被害者の年齢、通学の距離、通学の方法などから総合的に判断されます。
また、通学付添費以外にも、事故による学習の遅れを挽回するための家庭教師代や、留年して新たにかかった授業料などについても、事故との関連性を証明できれば、請求が認められる場合があります。
通学付添費の相場
通学付添費に一律の相場はなく、個別の事情に応じて判断されます。
例えば、裁判例では、腰など全身の痛みがあるため電車通学が困難であった18歳の専門学校生について、母が事故後1ヶ月間送迎を行った事案につき、通学付添費として日額3000円×通学日数15日=4万5000円の支払いを命じています(神戸地方裁判所 平成22年7月13日判決)。
また、両足に重いケガを負った6歳の被害者について、母親が車椅子での登校に付き添ったとして、日額1000円×61日=6万1000円の通学付添費を認めた裁判例も存在します(東京地方裁判所 平成26年8月27日判決)。
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仕事を休んで付き添いをした場合は付添看護費と休業損害と比較する
被害者のことが心配で、仕事を休んで介助しているご家族の方もいらっしゃるでしょう。
付き添いのために仕事を休む必要があったと認められた場合は、仕事を休んで減った収入分を補償してもらうことが可能です。実際の収入から1日あたりの収入を計算し、それに会社を休んだ日数をかけて、損害額を算出します。
ただし、休業による損害と付添費をダブルで受け取ることはできません。
この場合は、「近親者の休業による損害」と「近親者の付添費」とを比べて、いずれか高額である方の補償を受けることになります。
また、「休業による損害」が「職業付添人に依頼する費用」よりも高額となる場合には、職業付添人に頼むべきだろうと判断されるため、職業付添人の付添費が支払い上限額となります。
プロに付き添ってもらった場合の付添費は実費精算
家族だけでの付添が難しいような場合に、プロの職業付添人を雇って付き添ってもらうケースもあるかと思います。
その場合は、基本的に支払った実費全額を加害者側に請求することが可能です。
ただし、家族が付添できない理由やケガの状態によっては、プロによる付き添いの必要性がないと評価されることもあり、その場合は支払った付添費を請求することができなくなります。
主治医の指示があると、プロの付添費が認められる可能性が高くなるため、主治医から職業付添人に依頼する必要性を記入した証明書をもらっておくことが必要です。
交通事故の付き添いに関するQ&A
交通事故の付き添いに関してよくある質問をご紹介します。
子供が通院を嫌がり暴れたため、夫婦で仕事を休んで付き添いました。付添費は二人分請求できますか?
複数の方が付き添った場合でも、基本的には付添費として認められるのは1人分だけです。 ただし、ケガが重篤で24時間体制での付き添いが必要な場合など、ケガの状態や必要となる付添看護の内容によっては、複数人分の付添費の請求が認められることもあります。
子供の付添看護料は12歳以下しか支払われないと聞きましたが本当ですか?
子供の付添看護料は、自賠責保険のルールでは基本的に近親者が12歳以下の子供に付き添った場合に支払うとされています。 ただし、主治医の指示やケガの状況、病院の事情などにより、13歳以上でも付添看護料が認められる場合があります。また、12歳で入院して間もなく13歳となった場合も、13歳以上でも付添看護料の支払いが認められる場合があります。
姉に子供の通院付き添いをお願いしました。通院付添費は支払われますか?
自賠責保険において通院付添費の支払い対象となっているのは、3親等以内の親族(親、祖父母、兄弟、叔父、叔母など)です。付添いの必要性が認められるのであれば、お姉様が付き添った場合でも通院付添費が支払われます。
両親が入院している病院まで来てくれました。駆けつけ費用は請求できますか?
近親者の通院付添費は、付添人が支払った交通費や雑費などすべてを含めた費用となっているため、基本的に付添人に発生した交通費を別枠で請求することはできません。 ただし、遠方に住む近親者が付添いのため病院に駆け付けたような場合は、ケガの状態や近親者の付添の必要性などあらゆる事情を考慮して相当な範囲で、交通費の一部の請求が認められる可能性があります。
交通事故の付き添いに関して、お困りでしたら弁護士にご相談ください
付添費については、保険会社から提示される損害賠償金の中から漏れている可能性もあるため注意が必要です。また、実際に付添費を請求したとしても、その必要性や金額について保険会社ともめるケースも少なくありません。
このような場合、なぜ付き添いが必要であったのか、証拠を示しながら説得的に主張する必要があるため、弁護士に相談することをおすすめします。弁護士法人ALGには、交通事故に精通する弁護士が多く所属しております。
適正な付添費を算出するだけでなく、保険会社に直接交渉することも可能です。交通事故の付き添いに関してお困りの場合は、ぜひご相談ください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)