監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭われた方は、とても大きな精神的ダメージを受けることと思います。
被害に遭われた方の精神的苦痛や、被害者が亡くなられた場合の遺族の方の精神的苦痛に対して、どんな慰謝料を請求できるのか、またその計算方法や、納得がいく金額を獲得するためにはどのようにしたらいいのかを解説していきます。
目次
交通事故における慰謝料とは
交通事故に遭われた方は交通事故の規模によらず、大変なショックを受けることでしょう。
交通事故で怪我をしたときには、加害者に対し慰謝料を請求することができます。
軽度の怪我で済む場合もあれば、治療が長引く場合や、後遺症が残って交通事故以前と同じような生活が送れなくなる場合もあるでしょう。また、被害者本人の精神的苦痛だけでなく、交通事故によって大切な方を亡くされた遺族の方も精神的苦痛は計り知れないでしょう。このように、怪我の程度や通院状況、後遺障害の程度等により精神的苦痛の度合いが測られ、慰謝料の金額の目安が決まります。
交通事故によってもらえる慰謝料の種類には、「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」があります。それぞれについて以下で解説していきます。
入通院慰謝料
入通院慰謝料とは、交通事故によって、怪我やリハビリなどのために医療機関への入院や通院をしなければならなくなったことによる精神的苦痛に対する慰謝料のことをいいます。
入通院慰謝料の算出方法には「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つがあります。具体的にいくら請求できるかは、怪我の部位や程度、通院・入院の日数や期間によって算出されます。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料とは、交通事故による怪我が治らず生活に支障が出る場合に、後遺症による日常生活の不便に対する精神的苦痛に支払われる慰謝料のことです。
後遺障害慰謝料を請求するためには、症状固定という「治療を続けていてもこれ以上症状が改善する見込みがない」との医師による診断を受けた後、後遺障害が認定される必要があります。
では、具体的にいくら請求できるのかというと、後遺障害慰謝料の計算方法にも、「自賠責保険基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つがあります。
死亡慰謝料
交通事故により被害者が死亡してしまうことは、被害者本人ならびに近親者の方にとっては耐え難い精神的苦痛を感じることと思います。
そのような心労に対し、加害者または保険会社に対し、慰謝料を請求することができます。
死亡慰謝料には「被害者本人の慰謝料」「被害者遺族の慰謝料」の2つがあります。
「被害者本人の慰謝料」は被害者の方に支払われるものなので、本来被害者本人が請求権を持ちますが、死亡事故の場合は、被害者がお亡くなりなので、相続人となる遺族の方が請求権を相続します。
また、死亡事故の場合は「被害者本人の慰謝料」の他に「被害者遺族固有の慰謝料」を請求することができます。被害者遺族固有の慰謝料は、配偶者、親、子などに支払われるべき慰謝料であり、それぞれが請求権を持ちます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
適正な交通事故慰謝料を算定するための3つの基準
慰謝料には「入通院慰謝料」「後遺障害慰謝料」「死亡慰謝料」の3種類あり、それぞれどのくらい慰謝料を請求できるかの算定基準は「自賠責基準」「任意保険基準」「弁護士基準」の3つがあります。
3つの基準の違いについて、以下に詳しくまとめていきます。
自賠責保険基準
自賠責保険とは、自動車、バイクを所有した際には必ず加入することが義務付けられている保険です。自動車、バイクに関与する交通事故については自賠責保険により人身事故について最低限の補償を受けられるようにすることで、被害者救済はもちろん、自動車・バイクユーザーが安心して所有、生活できるようにすることを目的としています。
このことにより、事故に遭ってしまったときに加害者が任意の保険に加入していない場合でも被害者は最低限度の保障を受けることができます。
しかし、自賠責基準は負傷した被害者に対して法令で決められた最低限の保障を行うことを目的とした基準であり、基本的に3つの基準の中では一番低い補償金額となるほか、補償対象は人身事故に限られ、車両などの物損には使用できないといった特徴もあります。
任意保険基準
任意保険は、自賠責保険とは異なり、加入は強制でありません。自動車・バイクの所有者がたくさんの保険会社の中からどの保険プランにするか、または加入をしないか選べる任意の保険です。
とはいえ、自賠責保険ではカバーしきれない損害を補償することを目的としているので、ほとんどの方が加入されていると思います。
しかし、任意保険会社が事故被害者に対してあまりにも多額な示談金を支払うことになると、自社の財政基盤が損なわれ、会社として成り立たなくなってしまうおそれが生じます。
そのため任意保険の算定基準は公開されておらず、保険会社独自のものであり、自賠責基準よりは高いものとなりますが、なかなか適正な救済というまでには足りないことも多い程度の算定基準となりがちです。
加害者側の任意保険基準による被害者への示談金交渉金額は本来受け取る金額の基準より低い水準となるため、安易に受け入れるべきではありません。
弁護士基準(裁判基準)
弁護士基準とは、弁護士や裁判所が慰謝料を計算するときに用いる算出基準のことで、これまでの交通事故の判例をもとに基準化されました。
実際に裁判を起こした場合に得られる相場額を示すので、任意保険基準よりも高額であり、「被害者が本来受け取るべき金額の基準」といえます。一方、協議による解決の場合は、訴訟にまでは至っていないため、この基準がまま適用されるわけではないことが基本となります。
弁護士や裁判という言葉を聞くと堅苦しい印象や、自分に起こった事故が裁判までするような事故かどうかとためらってしまうと思います。
しかし、裁判までしなくとも、弁護士に示談交渉を依頼するだけで弁護士基準になるべく近い水準の金額を受け取ることも可能となります。
また弁護士に示談交渉を依頼することで加害者の方または相手方保険会社とのやり取りを弁護士が代わりにするので、話合いがスムーズに進むことや、被害者の方が治療に専念できるなどのメリットもあります。
交通事故慰謝料の算定方法
交通事故慰謝料の算定方法には以下の3つがあります。
①自賠責基準
自賠責保険の保険金を算定するための基準です。しかし、自賠責保険は最低限の保障を行う保険であるため、基本的に算定基準の金額も低くなっていきます。
②任意保険基準
算定基準は各々が加入している保険会社により異なり、さらにその算出基準は公開されていません。そのため、算定方法の説明については割愛します。
③弁護士基準
慰謝料の算定を過去の裁判に基づいて算出しています。そのため、自賠責保険や任意保険より慰謝料が高額になり、本来受け取るべき金額といえます。
入通院慰謝料
自賠責基準
交通事故の人身損害を算定するにあたり、自賠責基準での入通院慰謝料は1日あたり4300円となっています。ただ、「1日あたり4300円」との記載の一方で、実務上は、少し複雑な考え方をしており、4300円に「実通院日数×2」と「治療期間」を比較して少ない方を掛けて慰謝料を算出することになります。
例えば、実通院日数50日(×2=100日) 治療期間90日の場合、「実通院日数×2」より治療期間の日数のほうが少ないため、計算式は「4300×90=38万7000円」となります。
同じように、
実通院日数44日(×2=88日) 治療期間90日の場合、「実通院日数×2」と治療期間を比べると、治療期間のほうが少ないので計算式は「4300×88=37万8400円」となります。
※ただし、自賠責保険の損害に対する賠償額は120万円が限度となっています。この120万円は、治療費、通院費などの治療関係費用、休業損害、入通院慰謝料など損害の合計額です。そのため、これらの合計が120万円を超えてしまうと上記の計算方法による慰謝料の全額は支払われないことがあります。
弁護士基準
弁護士基準による入通院慰謝料については、「赤い本」と呼ばれる日弁連交通事故相談センター東京支部によって定められた算出表があり、入院と通院の期間によって慰謝料額が算出されます。
弁護士基準で用いる入通院慰謝料算定表には重傷用と軽傷用の2種類の算定表があり、骨折など重傷の場合は別表Ⅰ、むちうち症でレントゲンやMRIといった客観的にとらえることができる症状がないなど軽傷の場合は別表Ⅱを用いて算出します。
ただし、別表Ⅰより別表Ⅱのほうが低額になっており、怪我についてレントゲンやMRIの結果など客観的にとらえることができれば別表Ⅰを、むち打ち症以外でも他覚所見がなければ別表Ⅱを使用することが実務で定着しています。このため、弁護士基準による慰謝料の算出には他覚所見があるかないかが重要になります。
後遺障害慰謝料
自賠責基準
後遺障害別等級表は別表Ⅰと別表Ⅱに分かれています。
別表Ⅰというのは、「介護を要する後遺障害」とされており、生命の維持が必要なほど、重篤な後遺障害です。いわゆる、寝たきりや植物状態となった場合をイメージしてください。
後遺障害等級 | 慰謝料相場 |
---|---|
1級 | 1650万円 |
2級 | 1203万円 |
別表Ⅰの第1級は日常的に常に介護が必要な場合で、この場合の慰謝料額は1650万円、第2級は随時介護が必要な場合で1203万円です。扶養家族がいる場合は第1級で1850万円、第2級で1373万円となります。
一般的な後遺障害は、別表Ⅱに記載されています。
例えば、交通事故で最も多い、症状としてむち打ち症がありますが、むち打ち症で得られる後遺障害の多くは「局部に神経症状を残すもの」として14級9号です。この場合の慰謝料は32万円となり、これのみでは、多くの場合、とても納得がいく金額とは言えないでしょう。
後遺障害等級 | 慰謝料相場 |
---|---|
1級 | 1150万円 |
2級 | 998万円 |
3級 | 861万円 |
4級 | 737万円 |
5級 | 618万円 |
6級 | 512万円 |
7級 | 419万円 |
8級 | 331万円 |
9級 | 249万円 |
10級 | 190万円 |
11級 | 136万円 |
12級 | 94万円 |
13級 | 57万円 |
14級 | 32万円 |
弁護士基準
弁護士基準でも自賠責基準の同じように後遺障害に対する等級が1級~14級まで定められています。
後遺障害等級 | 慰謝料相場 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
例えば自賠責基準と同じようにむちうち症で「局部に神経症状を残すもの」として14級9号に認定された場合、弁護士基準では110万円となり、自賠責保険より78万円も高額になることがわかります。
弁護士基準では実際の裁判の判決を参考にしているので、被害者にとって本来受け取るべき金額といえます。
死亡慰謝料
自賠責基準
自賠責保険基準での死亡事故の支払限度額は、逸失利益や慰謝料、葬儀関係費等のすべてを含めて3000万円となっています。
そのうちの慰謝料の支払い基準は、死亡者本人は400万円、遺族の慰謝料は請求者が1名の場合は550万円、請求者が2名の場合は650万円、請求者が3名以上の場合は750万円となり、被害者に扶養家族がいる場合はそれらに200万円が追加されます。
遺族については、「義父母を含む父母、配偶者、養子・認知した子および胎児を含む子」となっています。
弁護士基準
弁護士基準の場合は被害者本人分と遺族分の金額をあらかじめ合計した金額が定められています。
死亡慰謝料の金額は、被害者の家族内での立ち位置(一家の大黒柱であったかなど)、残された家族の家族構成に応じて目安が示されています。
被害者が一家の大黒柱である場合は2800万円、母親、配偶者の場合は2500万円、その他の場合は2000万~2500万円です。「その他」には独身の男女、子供や幼児、高齢者などが含まれます。これらは、遺族に対する慰謝料も含めた総額としての目安です。
上記金額のうち、遺族への慰謝料は個別的な事情によって左右されますが、100万~250万円程度の間で決定されることが多いです。
いずれの場合であっても自賠責基準と比較して1000万円程度高額になっていることがわかります。
弁護士がサポートすることでこれら基準による慰謝料の請求に、相手方側としても応じてくる可能性が高まります。
遺族が精神的に強い苦痛を受けていることを弁護士が証明することによって、適切な補償が受けられます。
通院期間別の入通院慰謝料相場比較
(例)通院期間3ヶ月・実通院日数30日の場合
自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|
25万8000円 | 軽傷53万円(重傷73万円) |
自賠責基準の場合、通院期間3ヶ月は90日と考えます。実通院日数については30日×2=60日と考えます。
この2つの数字の小さいほうと通院1日当たりの賠償額4300円を掛け、この場合は60日×4300円で通院慰謝料の合計額は25万8000円となります。
弁護士基準について見ると、通院期間3ヶ月に多い症状はむち打ち症や打撲ではないかと考えられますが、これらは弁護士基準では軽傷として扱われます。MRIで靭帯の損傷が映っている場合や、レントゲンで骨折が明らかになっている場合は、軽傷ではない一般の算定基準を使用し、慰謝料は73万円となります。
(例)通院期間6ヶ月・実通院日数(85日)の場合
自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|
73万1000円 | 軽傷89万円、重傷116万円 |
自賠責基準の場合は通院期間6ヶ月180日と考え、実通院日数は85日×2=170日と考えます。
この2つの数字の小さいほうと通院1日当たりの賠償額4300円を掛け、この場合は170日×4300円で73万1000円となります。
弁護士基準の場合、別表Ⅰでは、116万円、別表Ⅱでは、89万円の慰謝料となっています。
通院期間が6ヶ月に多い症状は軽傷ではむち打ち症、重傷では骨折などがあります。
しかし、一般には軽傷とされる傷害内容でも、レントゲンやMRIなどによる他覚症状がある場合は重傷として考えることがあります。
(例)通院期間8ヶ月・実通院日数(140日)の場合
自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|
103万2000円 | 軽傷103万円、重傷132万円 |
自賠責基準の場合は通院期間8ヶ月240日と考え、実通院日数は140日×2=280日と考えます。
この2つの数字の小さいほうと通院1日当たりの賠償額4300円を掛け、この場合は240日×4300円で103万2000円となります。ただし、自賠責保険の上限が120万円となり、通常治療費が高額となっているため、103万2000円もの慰謝料が自賠責保険からの支払で得られることはまずないでしょう。
弁護士基準の場合、別表Ⅰでは、132万円、別表Ⅱでは、103万円の慰謝料となっています。
通院期間が8ヶ月では、多くの苦労があったことと思います。
例えば骨折をし、リハビリ期間があったとしても、それは通院日数に含まれます。
また、医師から症状固定という話になり、後遺障害が認定されれば、別途後遺障害慰謝料を請求することができます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
慰謝料以外にも請求できるものがある
慰謝料は、交通事故に遭った痛みや苦しみなどの精神的苦痛を金銭に換算したものです。
ただし、交通事故では、慰謝料以外にも損害賠償請求できるものが多くあり、慰謝料は、その一部にすぎません。
交通事故に遭ったにもかかわらず、慰謝料ばかりに目がいき、他の項目について請求漏れがあるまま示談してしまうと、適正な賠償は得られませんので、慰謝料以外の他の項目についても見ていきましょう。
休業損害
休業損害とは、交通事故によって怪我を負い、仕事を休まなくてはならなくなってしまったために得られなかった収入や賃金のことをいいます。
仕事をしていて交通事故により休まざるを得ない場合は、事故直後から相手方保険会社と休業損害についての話し合いがされることが多いので、請求し損ねることはないでしょう。
しかし、自営業の場合や主婦の場合は、休業という概念が難しい場合があり、請求し損ねてしまっている場合もあるでしょう。特に、保険会社はなかなか「主婦休損を請求できますよ」と教えてくれません。
忘れずに、請求しましょう。
自賠責保険では、
休業損害=1日当たり6100円×休業日数とされています。
この6100円という金額は被害者の職業に左右されないため、これを下回る収入しかない場合でも「6100円×休業日数」で計算されます。源泉徴収票や確定申告書などで、日額6100円を上回ることを立証できれば、日額19000円までですが増額されます。
逸失利益
逸失利益とは、交通事故に遭わなければ本来得られたはずの収入のことであり、後遺障害が認定されたときに、後遺障害逸失利益として請求できます。
後遺症が残り、後遺障害が認定されると、一般的に交通事故前より仕事がしにくくなり、収入が下がります。もしくは、収入が維持されても、被害者の努力により収入の減少が抑えられていると考えられます。
そこで、被害者の収入や年齢、怪我の部位や程度、後遺障害等級に応じて、後遺障害逸失利益が請求できます。
その他に請求できるもの
慰謝料のほかにその他代表的なものとして、治療費、通院交通費、入院雑費、付添看護費、器具装備などがあります。
入院雑費とは、パジャマなどの日用雑貨品、栄養補給品、電話、郵便等の通信費、新聞などに使う費用です。1日当たり自賠責基準で1100円、弁護士基準で1500円と決められています。
付添看護費は、通院時、入院時に家族等が付き添わなければならない場合に請求できます。通院の場合の付添看護費は自賠責基準で近親者等については1日当たり2100円、弁護士基準で原則1日につき3300円とされています。また、入院の場合は自賠責基準で1日当たり4200円、弁護士基準で原則6500円とされています。
通院交通費についても、バスや電車などで行った場合には、基本的にはその金額が支払われます。ただ、タクシーについては、必要性が無い限り出ないこともあるので注意が必要です。また、自家用車で通院や送り迎えをしてもらう場合でも、ガソリン代(1km=15円)や駐車場代を請求できます。
交通事故慰謝料を受け取るまでの流れ
交通事故に遭った後、慰謝料を請求するまでどのような流れになるか、ざっと見ていきましょう。交通事故に遭ったら、まずは、警察に連絡をしましょう。また、どうすればよいか分からない場合は、自分が契約している保険会社に連絡するのも良いでしょう。警察が来ると、事故状況、身元確認、車検証、自賠責保険の証書、怪我の状況や物損の状況などが確認されます。また、相手方と連絡先の交換や任意保険会社の有無の確認もしておくべきでしょう。
自分に過失割合がない0:100の事故でも、自分が契約している保険会社に連絡をしておきましょう。
怪我や痛みがある場合は、我慢せずに、すぐに病院に行って下さい。
その後、通院治療を続け、治療が終了すれば、示談交渉に入ります。
ただし、後遺症が残り、後遺障害認定をする場合には、多くの場合、示談交渉は後遺障害認定の結果が出てからになります。
示談交渉の場合は、基本的には、治療終了時または後遺障害認定結果が出た際に、保険会社から損害賠償案が送られてきます。
ここで注意が必要となるのは、保険会社から提案される損害賠償案が、必ずしも適正な金額とは限らないことです。
金額も適正で、心から納得がいくのであれば、示談をしてもいいかと思いますが、少しでも不安や疑問が残るのであれば、弁護士に相談すると良いでしょう。
損害賠償案について、協議を行い、示談が成立すれば、数週間程度で、慰謝料を含む損害賠償が入金されます。
慰謝料の支払い時期について
慰謝料の支払いは示談成立後になるのが通常です。示談交渉は金額のみが争点で事実関係に争いがないケースなら1ヶ月~3ヶ月程で示談成立となるケースが多いです。
一方事実関係に争いがあり、過失割合も争点になるケースでは期間が長引く可能性があります。
なお、上記の期間は弁護士が対応した場合のケースであり、被害者本人で示談交渉する場合はより期間が長引く可能性が高まります。
しかし、被害者の方は病院までの通院費や治療費がかかり、その上仕事を休んで減給となり、示談交渉を終えるまでの生活が立ち行かなくなってしまう恐れがあります。
そのような場合には、相手方保険会社に対し、内払いを請求してみるのも一つの方法です。
内払いとは、被害者が慰謝料などを請求できることが明らかな場合に、相手方保険会社が、示談前に予想される損害賠償額の範囲内で、慰謝料など損害賠償の一部を前渡ししてくれることです。
しかし、全ての事案で応じてくれるものではなく、事故の状況や被害者の状況により対応は異なります。ただ、交通事故により生活が立ち行かない場合は、一度相手方保険会社に尋ねてみると良いでしょう。
慰謝料の増減要素
慰謝料の金額は、3つの基準に沿って決められることが多いですが、基準はあくまでも基準です。そのため、事案によっては基準を上回る慰謝料増額が可能であり、逆に減額されてしまうケースもあります。
慰謝料が増減額するケースには次のようなものがあります。
慰謝料が増額するケースとは?
被害者の精神的苦痛が通常の事故に比べて大きいと思われる場合は慰謝料が相場よりも増額される可能性があります。
具体例として次のようなものがあります。
- 交通事故加害者の無免許運転、ひき逃げ、酒酔い運転、著しいスピード違反、赤信号無視等悪質な行為が原因であるもの
- 事故後に加害者が被害者に暴言を吐いたり、反省の態度がまったく見えないもの
また、後遺症の場合は障害の程度が重傷で被害者本人や介護する親族の精神的負担が大きいと判断される場合に、後遺障害慰謝料が増額される傾向にあります。
慰謝料が減額する要素
交通事故の慰謝料はさまざまな理由で減額されてしまうことがあります。
以下に慰謝料を減額されてしまうケースを挙げていきます。
怪我が軽傷で、通院に日数が少ない
交通事故による怪我がむちうち程度で他に他覚症状がないときは通院日数も少なくなるため、入通院による精神的苦痛が少ないと考えられ、入通院慰謝料が減額される可能性があります。
被害者にも過失があるケース
交通事故の場合、加害者側だけでなく被害者側にも一定の過失がある場合があります。
例えば前方不注意があったり、交差点の周囲に配慮していなかったり、減速していなかったりすることなどです。
こうしたことで、被害者の過失割合が20%あったとすると、賠償金が2割減になってしまいます。
被害者による事故の損害を大きくする素因があった場合
被害者に持病や精神的な要因があるときに賠償額を減額することがあります。これを、素因減額と言います。
例えば、被害者にもともと椎間板ヘルニア等の持病があり、そのことで事故による怪我の治療が必要以上に長引いたり、本来なら残らないはずの後遺障害が残ることがありますが、そのような場合に素因減額が主張される可能性があります。
事故により損害賠償以外の利益を得たとき
被害者は、交通事故の処理の中で、健康保険や労災等からお金を受け取ることがあります。
そのような場合に交通事故の損害賠償額を全額認めると、二重取りになると考えられます。
その場合は、これらにより給付を受けた分は差し引いて賠償金が支払われます。
もっとも、相手方へ求償が行なわれるわけではない生命保険の受取金、労災保険の特別給付金などは、通常損益相殺の対象とはなりません。
適切な慰謝料を請求するために
必ず整形外科で見て貰う
交通事故の治療をすることになった場合、病院(整形外科)で医師に診断してもらうことで適切な慰謝料を支払ってもらえる可能性が高まります。
事故直後は自覚症状がなくても数日後に体が痛むといった症状が出ることもあります。そのため、特に症状が出ていない場合でも病院でレントゲンやMRIなどを受けることをお勧めします。
また病院で診察をしてもらった際は必ず忘れずに診断書を作成してもらいましょう。
交通事故直後に病院(整形外科)に行く理由として、症状が完治せず症状固定の診断を受ける際に、治療の過程を詳細に診てきた医師に、その怪我が交通事故によるものだと、後遺障害診断書を作成してもらえることが挙げられます。
また、整骨院では診断はできないため、整骨院のみの通院にしてしまうと、事故の怪我との因果関係を証明することも難しくなってしまうので注意しましょう。
人身事故で処理する
人身事故と物損事故の大きな違いは、「人が死傷しているかどうか」です。
違いは簡単ですが物損事故として取り扱うと、当然には自賠責保険が適用されなかったり、加害者に適切な処罰が下らないといったことが起こり得ます。
加害者から「どうしても物損にしてほしい。迷惑かけないから」等と言われ、その場では怪我をしていないので物損事故でいいや。と思うかもしれませんが、事故直後に症状が出なくても数日後に痛みが出てくることもあります。
一度物損事故として警察に届け、後から人身事故に切り替えることは可能ですが、時間がたつと警察が人身事故への切り替えを認めてくれなかったり、そのため事故状況を明らかにするための実況見分調書が十分に作られなかったりと、不利益を被る可能性があります。
人身事故に切り替えるには、病院に行って診断書を書いてもらい、警察署に診断書を提出し、人身事故への切り替え(だいたい、事故発生から10日程度まで)をする必要があります。
慰謝料が減額する要素
交通事故に遭ったときに、弁護士に相談しよう・依頼しようと考える方は、まだまだ少数ではないでしょうか?
ただ、これまで見てきたことからわかるように、弁護士に依頼するのと、ご自身で交渉するのでは、そもそも慰謝料を計算する基準が異なります。ご自身で交渉した場合、自賠責基準や任意保険基準といった裁判になったときに支払われる相場よりも低い基準で計算されるため、慰謝料が減額してしまう危険があるのです。
また、保険会社の担当者は年間何十件・何百件も示談をこなしており、自動車事故について加害者側の示談交渉のプロといっても過言ではありません。
このような交渉のプロに対し、ご自身で交渉するのは、十分な知識を身につけ、保険会社とのやり取りについて適切に対応するための能力や胆力が必要となるでしょう。
交通事故に詳しい弁護士に依頼すれば、保険会社は民事裁判へ発展するのを警戒したりするのか、裁判を起こさずとも示談交渉で、弁護士基準による計算を基にした金額を獲得できる可能性が高くなります。
また、弁護士は保険会社の担当者とも対等な立場で交渉することができるため、不当な減額圧力に屈することはありません。
このように、弁護士に相談・依頼せずご自身で対応しようとするのは、慰謝料が減額する要素になりかねないので、適切な慰謝料を獲得するためには、交通事故に詳しい弁護士に相談しましょう。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故に関して不安があれば、弁護士へご相談ください
交通事故に遭われた方は、不安やショックも大きいでしょう。
また、心や身体の傷が癒えないまま相手側保険会社との示談交渉がはじまり、提示される金額が合っているのか、混乱することと思います。
そんな中、弁護士を介入させるだけで、相手側保険会社とのやり取りを弁護士が行うため、被害者の方はストレスなく治療に専念できます。
また、特に治療頻度や後遺障害等級認定については後の示談金交渉や慰謝料に大きく関わり、法律の知識や医学的な知見が必要になるため、弁護士に相談するといいでしょう。
本当に慰謝料が増額できるのだろうか、些細なことで相談していいのだろうかと心配な方もいらっしゃることと思いますが、どんなに些細なことでもそのモヤモヤを弁護士は一緒に解決していきます。交通事故に対して不安がある場合は、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)