監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭い、傷害、障害を負うこととなると、せめてなるべく多くの賠償金を受け取りたいと思うものです。一方、加害者側の本人や任意保険会社からすると、賠償額はなるべく低い方が負担の軽減となるので、基本的には賠償額をなるべく抑えようとします。この相反する双方の立場の中で、賠償金の増額を目指すためには、賠償金額の算定のための基準が複数あることと、その中で高額となる基準はどのようなものであるかを知っている必要があります。
ここでは、基準の中でも一番高額となりやすい弁護士基準と呼ばれるものがどのような基準であるのか等について解説します。
目次
弁護士基準とは
弁護士基準とは、交通事故の慰謝料の金額を算出するときに用いられる基準の1つです。過去の裁判例を参考に作られた基準であることから、裁判基準とも呼ばれます。
弁護士基準は、基本的に、最低限の補償をするために作られた自賠責基準や、任意保険会社が定めた任意保険基準と比べて高額です。そうであれば、被害者は弁護士基準の賠償金額を受け取りたいと思うでしょう。しかし、被害者が自分で交渉しても、任意保険会社は支払額をなるべく抑えたいと考えるために、弁護士基準による支払いを容易には認めてくれないという現実があります。
弁護士基準の入通院慰謝料相場は2種類ある
弁護士基準においては、慰謝料額の算定は通院期間と通院実日数を表に当てはめ行うこととなりますが、表は2種類に分かれています。2種類表の違いは、通常の怪我の場合に用いるものと、むち打ちで他覚所見がない場合等の比較的軽症の場合に用いるものです。表は、横軸である入院した月数と、縦軸である通院した月数によって入通院慰謝料を算出するものです。なお、1ヶ月は30日として計算され、端数については日割り計算を行います。例えば、入院期間が30日で通院期間が70日のケースでは、入院期間が1ヶ月の列の金額を見て、通院期間が2ヶ月の金額に、3ヶ月から2ヶ月の金額を差し引いた金額の3分の1を加えます。
通常の怪我の場合
骨折、脱臼等客観的に傷害が見て取れる通常の怪我の場合は、別表Ⅰによる算定がなされます。この場合、例えば入院期間1ヶ月、通院期間4ヶ月であれば、弁護士基準の入通院慰謝料は130万円になります。
この例において、実通院日数が60日であったとすると、自賠責基準により算定される入通院慰謝料額は、実通院日数を2倍すると120日(60日×2=120日)であり、入院及び通院期間の合計は5ヶ月、150日であるため、少ない方の120日を算定の基礎として51万6000円(120×4300円=51万6000円)となります。
つまり、この場合は、弁護士基準であれば自賠責基準の2倍以上の入通院慰謝料を受け取れることになります。任意保険会社が用いている任意保険基準は、自賠責基準に近い基準であることが多いため、弁護士基準を適用することのメリットの大きさがご理解いただけるでしょう。
他覚所見のないむちうち等、比較的軽傷の場合
目視や、レントゲン、MRI等の画像上で特段の異常が見て取れない程度の打撲、挫傷、捻挫等による負傷の場合には、別表Ⅱによる算定がなされます。この場合、入院期間1ヶ月、通院期間4ヶ月であれば、弁護士基準の入通院慰謝料は95万円になります。
この例において、実通院日数が60日であったとすると、自賠責基準における入通院慰謝料は、やはり51万6000円となります。こちらのケースであっても、弁護士基準であれば、自賠責基準の2倍近い入通院慰謝料を受け取れることになります。
なお、別表Ⅰ、Ⅱともに、治療期間の長期化に伴う慰謝料額の伸びは、次第に鈍ってはいきます。また、治療総期間に対する実通院日数が少ないケースでは、実通院日数に対して別表Ⅰでは3.5倍、別表Ⅱでは3倍程度を乗じた日数を基準に用います。
弁護士基準の後遺障害慰謝料
後遺障害の等級ごとに、弁護士基準による慰謝料額の水準があります。自賠責基準と異なり1級と2級について介護の要否による分類と金額の差異は設けていませんが、どの等級でも自賠責基準を上回る金額が定められています。
弁護士基準では、原則として、以下の表にしたがって慰謝料が決められます。
後遺障害等級 | 後遺障害慰謝料 |
---|---|
1級 | 2800万円 |
2級 | 2370万円 |
3級 | 1990万円 |
4級 | 1670万円 |
5級 | 1400万円 |
6級 | 1180万円 |
7級 | 1000万円 |
8級 | 830万円 |
9級 | 690万円 |
10級 | 550万円 |
11級 | 420万円 |
12級 | 290万円 |
13級 | 180万円 |
14級 | 110万円 |
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
弁護士基準の死亡慰謝料
被害者死亡の場合の慰謝料額についても、弁護士基準による目安があります。これにおいては、死亡した被害者が家庭においてどのような立場であったかによって、金額目安に差が生じます。死亡慰謝料の金額は下の表のとおりであり、被害者が一家の支柱となる存在であった場合に、慰謝料が最も高額になります。
なお、加害者が飲酒運転・信号無視等の悪質な運転をした場合や、虚偽の供述を繰り返す等の不誠実な態度を取った場合、あるいは被害者の遺族の受けたショックが精神疾患の状態にまで至っていると認められる場合等では、慰謝料の増額が認定される可能性があります。
亡くなった被害者の属性 | 死亡慰謝料 |
---|---|
一家の支柱 | 2800万円 |
母親、配偶者 | 2500万円 |
その他(独身の男女、子供、幼児等) | 2000万~2500万円 |
自力で弁護士基準による交渉をするのは難しい
弁護士基準の存在を知っていても、被害者本人が保険会社と交渉するのであれば、弁護士基準に基づく解決に応じてもらうことは難しいです。なぜなら、保険会社としても支払額が高額になるのは避けたいものであり、本人からの要求だけでは弁護士基準に基づく解決を拒否する可能性が高まるからです。
そこで、交渉は弁護士にお任せすることをおすすめします。弁護士であれば、解決のための必要、十分な知識を持っており、また訴訟等の手続を視野に入れやすくなるので、保険会社に弁護士基準に基づく解決を認めさせやすいでしょう。
弁護士基準の慰謝料請求はお任せください
交通事故に遭ってしまい、弁護士基準に基づく解決を目指したい場合には、弁護士にご相談ください。また、弁護士にご依頼いただければ、保険会社との交渉を全て任せていただくことが可能であり、治療に専念することもできるようになります。また、通院の頻度や受けておくべき検査についてアドバイスをすることも可能であり、後遺障害等級認定についても有利になるケースもあります。
交通事故による負傷、その治療で大変な折に、保険会社の担当者との交渉まで抱え込むこととなると、精神的な負担も大きくなってしまいます。事故に遭ったら、なるべく早い時点で弁護士へのご相談・ご依頼をご検討ください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)