残業代請求対応、未払い賃金対応

公開日:2020年10月6日
  • 残業代問題

賃金、残業代など、労働者に対して支払われるべき金銭の未払いは、労働紛争の中でも典型的なものです。これは、当該未払いが労働者側からすると生活に直結すること、金銭の支払いは正確に計算できる具体的な事柄で請求をしやすいこと、そういった事情があるからでしょう。

これはつまり、未払いの賃金等の問題の予防は、労使紛争防止の第一歩と位置付けられるくらい重要であるということです。

未払い賃金・残業代請求のリスク

未払い賃金等が生じると、請求を受け、紛争化する可能性は高くなります。労働者側からすると生活の原資が得られていないということになり、多くは請求をせざるを得なくなるからです。特に、残業代で顕著ですが、法に適合しない状況を漫然と放置してきた結果、額が積み重なると、請求額を支払うことができない状況に至ってしまうこともあり得ます。

その他、未払い賃金等の請求については、併せて付加金も求められるといったリスクもあります。

未払い賃金等は、甘く見ることのできない危険性を秘めた問題です。そういった事態を招かないため、予め対応に注意するべきでしょう。

賃金の支払いに関する法律上の定め

賃金の支払いに関する法律上の定めは、種々あります。基本原則的には、通貨払いの原則、直接払いの原則、全額払いの原則があります。額の修正要素としては、時間外労働、休日労働に対する割増賃金の規定があります。最低賃金額についても、法律で規制があります。

これらのところで漏れがないように予め賃金額体形、計算システムを整備しておかないと、意図しないままに未払いの事態を起こしかねないこととなります。

残業代支払いの事前防止策

残業代については、時々の繁閑の状況などがかかわってくるため、事前には見通しを立てにくい面があります。また、ともすると非効率的な業務処理を招き、ダラダラと残業代ばかりがかさむことともなりかねません。むろん、支払うべきものを支払わないというのは問題ですが、極力残業代が生じない、生じても管理をしやすい、そういった方法がないか制度を知ることは大事でしょう。

・変形労働時間制の導入
変形労働時間制は、一定単位の期間内における所定労働時間の平均が週の法定労働時間を超えなければ、同期間内の一部の日や週における所定労働時間が法定労働時間を超えても時間外労働とは扱わない制度です。
作業を始めると長時間操業を余儀なくされる性質の業務や、時期による繁閑の差が大きい業種の場合に、効果的とされています。

・定額残業制の導入
定額残業制度は、予め一定額の残業代を固定の給与に含めておくものです。煩雑な残業代の計算が不要となる、支払額を事前にある程度把握できる、といったメリットがあります。
もっとも、当然のことですが、支給分相当以上の残業が生じた場合は、その分の残業代は別途支給しなければなりません。また、定額の残業代を除いた給与額が最低賃金を下回ってはならず、定額の残業代は割増賃金額を下回る計算で運用されてはなりません。その辺りの計算を可能とするため、本体給と定額残業代部分は明確に区別されていなければなりません。

・事業場外、在宅勤務のみなし労働時間制の導入
みなし労働時間制は、外回りの営業職など事業所外での勤務で、会社が労働時間の把握が困難である場合は、実際の労働時間に関わらずあらかじめ定めた時間働いたとみなすものです。
注意が必要なのは、これは労働時間を一定の分量とみなすだけなので、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合は超える部分について時間外手当が発生します。また、事業所外での勤務であっても、細かな指示や管理の下であるなど労働時間の把握を会社が行ないうる場合は、この制度の適用はありません。

・裁量労働制の導入
専門業務や企画業務を行う労働者の場合、その業務の遂行の方法が大幅に労働者の裁量にゆだねられなければ効率的に行えないことがあります。その場合、使用者が業務遂行の手段や時間配分等に対する具体的指示をしないことと引き換えに、労働者の労働時間を一定時間とみなす制度が裁量労働制です。この場合の専門業務は省令で限定されており、企画業務は指針で目安が示されています。

未払い残業代の支払い義務と罰則

未払いの残業代が生じているのであれば、民事上の義務として支払いを行わなければなりません。また、労基法上では、残業代の未払いに対し6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則も設けられています。残業代の未払いは、責任の重い事柄である点に注意が必要です。

残業時間の立証責任

残業時間の立証責任は、労働者側にあります。すなわち、労働者は、時間外労働がいつ、どれだけ発生していたかについて、主張立証しなければなりません。

一方、使用者側に対しても、労働者の労働時間の適正な把握を行うことが求められています。その一環として、労働時間についての客観的な記録付の措置を講じることなどがあり、立証についてまんざら受け身でいればいいというわけにはいきません。立証責任は労働者側にあると言え、日ごろからの労働時間管理の体制を問われ、資料の提供などは逆に求められることがありえるので、日ごろから漏れのない時間管理を行うよう意識しなければなりません。

未払い賃金請求の対応

賃金についての問題は、労働者側からすると生活に直結する事柄であり、小手先で収められるものとはなりがたいです。まずはしっかりと事実確認を行い、未払いが事実であるなら早期に問題を解決へと導くことが重要です。下手な対応は、双方の関係のこじれによる解決の困難化、労働審判や訴訟を余儀なくされることによるコストの増大と、使用者側の負担も増すこととなる可能性があります。

初動対応の重要性

賃金未払いは、労働者の生活に直結する問題であり、請求する側が悠長に構えはしないことはもちろん、法的手続きとなっても迅速な進行、処理を求められる分野です。そういった分野については、ともかく再初期の段階において、早期に方針を決めることが重要です。未払いを認め無理のない解決を模索していくのか、未払いの事実を争うのか、それによって方向性は大きく変わります。

そして、その方向性を決めるうえで最も大事なのは事実関係の正確な把握であり、そのためには日ごろからしっかりとした労務管理の体制を築いておくことが必要となってきます。

請求を放置した場合のリスク

請求を放置すれば、まずは相手方に不信を持たれ、互譲的、協議的な解決を困難としてしまうことがあります。特に、相手方からも「即時一括的」な解決に固執され、訴訟等によらざるを得ないというようなことになれば、手続的コストの外に付加金等別のリスクも出てくることとなりかねません。

他に、請求に向き合わないことから、不誠実の印象を持たれてしまう懸念もあります。特に、相手方の請求を事実無根とはねる場合、十分な証拠がある場合はともかくとして、請求に応えないことでうやむやのうちに終わらせようと画策した、つまり未払いの事実は存在する、などと解されるのは困るでしょう。

大事なのは、請求を受けた以上、何らかしかるべき対応を取ることです。未払いの事実がないというなら、その旨を反論した上で根拠を示すべきです。その方が、早期の解決には資すると思われます。

会社側が主張すべき反論

労働者から請求を受けた場合、会社に反論の権利がないというわけではありません。確かに、労使紛争においては使用者と労働者の諸格差は大概存在するとして、労働者に助けとなるよう法整備、運用がされている実態はあります。ただ、それは、別に使用者は請求に無条件で応じろとするわけではなく、請求を争うことは違法でなく、反論も行なえます。

もっとも、きちんと根拠をもって反論を行わないと、当然取り上げてはもらえませんし、場合によっては不当な時間稼ぎなどとみられる恐れもあります。反論が根拠あるものであるよう、事実の正確な把握と、そのための日ごろからのしっかりした労務管理が重要となります。

未払い賃金・残業代は発生していない

当たり前のことですが、賃金や残業代の未払いが事実として存在しないのであれば、請求に応える必要はありません。そして、未払いの事実は、労働者において存在を立証しなければなりません。相手方の主張、根拠を落ち着いて確認するべきです。

もっとも、他項でも触れましたが、使用者側も労働者の労務時間の適正な把握を求められています。日ごろからそれを管理できる措置を設けていない場合、メモや日記程度の立証でも未払いを認定されてしまうかもしれない点には注意が必要でしょう。

会社の許可なく残業をしていた

残業は、労働者の権利ではありません。あくまで、それが必要な場合に会社が指示、許可することで適法に行える、対価も請求できることになります。

もっとも、これを明示的なものだけに限定して運用すると、サービス残業の状態化などの問題が出る懸念があります。そのため、使用者側が制止していない、業務量が定時内で終わるものではない、こういった事情がある際は会社の黙示の許可があったと解される可能性があります。

労働者に帰宅を命じるなどきちんと残業を阻止している旨を記録に残す、業務の分量や締め切りなどを記録化して不相当な分量に至っていないことを示す、などの措置を講じるべきでしょう。

管理監督者からの請求である

労働基準法上、管理監督者については労働時間の規定の適用はなく、残業代も生じないこととなります。管理監督者が残業代を請求してきたなら、そう反論することとなります。

ただ、実際上、当該人物が管理監督者にあたるかは争点となり得ます。管理監督者は、肩書や役職から形式的に決まるのではなく、その実質面において使用者と同視しうる実態があるかで判断されることとなります。職務内容、権限や裁量の程度、同人に対する管理の有無や程度、報酬等待遇の状況、こういった事柄が関係することとなります。相手方に与えた肩書・役職のみで安穏とするのではなく、彼彼女を日ごろからどう遇していたかを気に掛けることが重要です。

定額残業代として支払い済みである

固定支給の給与に、予め一定額の残業代が盛り込まれている場合、相手方の請求する残業代がそのうちであるなら、支払済みであることを反論することになります。

これについては、一定額の残業代が支給されているという状況が認められうるかが要点になります。ポイントとしては、適正な残業代が込みとなっていることが、労働者へも開示されているかです。

まず、定額残業代の計算について、それを除く基本給額が最低賃金を下回るなどの不備を有していないか、残業代部分が対応時間との関係で所定の割増率を下回っていないかが問われます。また、一定額の残業代として含まれていることが就業規則や契約上で明記され、労働者の把握するところとなっていることも必要です。その他、明細等でどの部分どの額が残業代相当分かが明白に区別、表示されなければなりません。

これらは、つまり、日ごろからの管理の問題となります。

消滅時効が成立している

賃金の請求について、時効が成立しているのであれば、それを援用することができます。この場合の時効については、従来2年であったところ、令和2年4月発生分以降は経過措置的に3年、今後は5年となっていくので、期間の変化には注意が必要です。なお、令和2年3月以前の請求についても、不法行為と請求権の構成を変えるのであれば、3年の時効となるので気を付けてください。

また、時効を視野に入れる場合は、労働者の請求を認める、請求に応じるなどして時効の中断という事態が生じないよう気を配ることも大事です。

未払い賃金請求の和解と注意点

紛争というのは、問題が事実として存在しているのであれば、基本的に和解で解決できる方が無理ないものです。支払いや付随部分について、条件を柔軟に定めうるからです。未払い賃金請求についても、それは変わりません。

和解は、双方の合意での終了ですので、成立時点で即時確定、終局解決となります。成立後、それに対する手続きのやり直しや不服の申立てはできません。額や条件について、無理のない内容でないと、却って首を絞める結果になりかねない点は注意が必要です。また、付随する条件、例えば秘密保持など、それらを入れるのかどうか、どういった条件を設定するか、それもよく考えた方がいいでしょう。

付加金・遅延損害金の発生

所定の支払いが遅れる場合、遅延損害金が生じることで支払額が増大することになります。

また、時間外手当等の未払いが存在するばあい、訴訟手続きにおいては未払い金額と同一額の金員をさらに付加して支払うよう命じられる、付加金の制度もあります。これも、支払額を増大されうるものです。

事実として未払いがある場合、これら額の増大を避けるため、必要な支払いは早期に済ませることが重要となります。そのためには、日ごろから一定の資金を手元に置いておくよう注意することでしょう。

遅延損害金については、払った分については以後生じません。付加金については、事実審の口頭弁論終結時までに支払えば、その分は命じられることがなくなります。事実無根と争うならともかく、そうでないなら早期の対応を考える方がいいと思われます。

弁護士に依頼すべき理由

他項で述べてきたように、賃金に関する未払い問題は、適当うやむやのうちにはなかなか解決が難しいものです。また、紛争となるとそこにいるのは対等な当事者同士となり、日ごろの労使間の上下関係、指揮監督系統の目線で事に当たると逆にこじらせてしまいます。専門的な第三者をはさむメリットはあります。

また、これまで触れてきたように、未払い問題を防ぐ上では日ごろからのしっかりとした管理体制の構築が欠かせません。労働契約や就業規則、賃金体系の整備から、日常的な業務量の配分や管理、時間外労働等が生じていないかのチェックと指導、そういったことを適切に実施しているのであれば、紛争は起こりにくく、解決しやすくなります。かかる体制の構築でも、専門家の関与は必要でしょう。

事前の予防から、生じた問題の解決まで、弁護士への相談、依頼をご検討ください。

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