監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
個々の労働者は微力でも、多数の連帯を持てば強い力を示すことができるようになります。そのような組織として労働組合がありますが、労働組合は更に労働法について詳しいことが多く、時として手ごわい存在となります。個別の労働者に対してぞんざいな扱いをしていると、労働組合を通じて手痛い逆襲を受けることにもなりかねません。
労働組合に対しては、小手先のごまかしといったものは通用しにくいです。本来であれば、労働組合の介入する隙を作らないようきちんと規則、制度を整備し、労務の管理を行うべきですし、結局はそれが王道ということになります。
もっとも、いざ労働組合が介入してきたとしても、確認すべきは確認し、反論すべきは反論し、誤りのない解決を導くよう、落ち着いて対処しなければなりません。
労働組合の介入があり困っている、そうならないよう一度社内制度など点検したい、そういったことをお考えでしたら、ご相談をください。
目次
労働組合との団体交渉対策の重要性について
団体交渉は、本来の性質においては労働条件に関する労働者の集団的、団結的な申し入れ、協議交渉となります。ただ、実際上は、団体交渉の対象足り得る事項は、企業の側が処理し得て、交渉に対応する一切のものとなっており、労働者が経営に対し「物申す」場合、企業側に対するクレーム申し入れ、個別の労働者の紛争の処理などでも活用されることがあるという現実があります。
そういった点も合わせると、団体交渉の場面というのは、労使間のコミュニケーションの舞台として機能している場合が多く、それを適当ぞんざいに扱うと労働者から不誠実の視線を向けられることになりかねません。
労働組合が何を申し入れてくるかは個別色々ですが、きちんと事前準備を整え、誠意対応すれば、紛争の予防、解決、労働者からの信頼の向上といった効果を得る可能性が高まります。団体交渉に対しては、しっかりと対策を取ることが重要です。
企業に求められる誠実交渉義務
団体交渉において、企業には労働者代表者と誠実に交渉を行う義務があると解されています。交渉拒否は当然として、申入れは聞くも何ら対応をとらない、そもそも合意形成の意思を持たない、交渉権限のないものによる応対といった対応は、誠実交渉義務への違反を問われかねません。
そのことで不当労働行為と取り沙汰されると、労働委員会や裁判所案件となって余計な手間を強いられることとなり、団交命令や損害賠償などとなれば企業イメージ低下や実損へとつながることも起こり得ます
。団体交渉には、誠実に対応するべきです。
なお、求められるのは、交渉に誠実に対応することであって、労働者側の申し入れを受け入れることではありません。
企業側も、誠意を持ってであれば主張を戦わせ、対案を提示することは可能であり、その結果交渉が行き詰まればその打切りもやむを得ないこととして認められます。
団体交渉の拒否は可能か
団体交渉の一方的な拒否は、誠実交渉義務違反の最たるものであり、正当化されるものではありません。
労働者側としては、不当労働行為として労働委員会に救済を申し立てる方法や、断交を求める地位の確認請求として裁判所に提訴を行う方法が考えられます。
その結果、手続的対応に会社の資源が咲かれ、断交命令や損害賠償ということになれば結果においても負担が生じます。
労働条件に関してにしろ、個別の紛争等に関してにしろ、団体交渉を申し入れるくらいまで至って、労働者側が拒否を受けたとして引き下がることは考えづらいです。拒否の結果生じるコストを思えば、団体交渉の拒否が可能であるという考えは取らない方が賢明と言えるでしょう。
労働組合と団体交渉を行う際の対応
他項でも述べたとおり、団体交渉は単なる労働条件に関する協議にとどまらず、労働者の不満解消や個別労働紛争の解決手段として生じることもあります。
範囲が多岐にわたることとなり得、申入れ自体の態様と、申し入れられている事項を正確に分析、把握することが重要であると思われます。
申入れを受ける前の対応・準備
申し入れを受けるに際しては、それが団体交渉としての体をなしているかを落ち着いて確認することが、まずは重要です。相手方当事者にしろ、申入れ内容にしろ、団体交渉にそぐわないものであれば取り合うのは意味のないこととなりますし、そういったことで労力を割くのは無駄を生むことにつながります。
労働組合法上の労働者性の判断基準
団体交渉の当事者となるのは労働組合であり、労働組合の主体となる労働者については「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準じる収入によって生活する者」と定義されています。
これについては、狭い意味での給与所得労働者のみではなく、解釈や判例の積み重ねにより、内職のような会社外で働く者や、楽団員やプロ野球選手といった個人事業者的契約下にある特殊技能者、業務委託契約者などに拡大されつつあります。
この点は、形式ばかりで判断するのではなく、一般労働者との類似性、個別の使用従属性の程度などを検討し、団体交渉の保護を及ぼす必要があるかを実質的に検討しているとみられます。
団体交渉の流れ及び留意点
団体交渉は、労働者側と使用者側、双方然るべき担当者を選出し、明確化された協議、交渉事項について、所定の日時、場所において協議を持つものです。
この段取りをつつがなく行うことが、団体交渉においては重要なこととなります。
団体交渉時の対応・注意点
団体交渉において、労働組合側の団交申入書をよく確認し、当事者、担当者、交渉事項を正確に把握することが大切です。当事者や担当者には適格性が認められるか、交渉事項は団体交渉に適するものであるか、体をなさない協議を行うことに意味はないので、それをよく把握し、手続において常に念頭に置くべきです。
もっとも、逆に、無意味にそれらの適性を疑問視し、協議に応じないとすると、不当労働行為とみなされることになりかねません。労働者側が適正な協議申し入れを行なっているとみられるのであれば、誠意対応するようしなければならないでしょう。
義務的・任意的団交事項の条項
義務的団交事項とは、労組法上で使用者に団体交渉を行うことが義務付けられている事項です。例としては、まず労働条件に関するもの、例えば報酬や労働時間、休日などに関してや、配転、懲戒、解雇といった人事に関してなどがあります。
また、団体的労使関係の運営に関する事項も義務的団交事項と解されており、断交や労使協議、争議行為の手続、ルールに関する者などが当てはまるとされています。
任意的団交事項は、使用者側が処理しうる事柄で、任意に協議に応じるのであれば、あらゆる時効が対象となると解されています。
労働組合からの不当な要求への対応法
労働者側には団体交渉を行う権利があると言え、何をやってもいいというわけではありません。
所定の手続きによらない交渉の進行、協議対象とならない事項の協議要請、それらのやり方を使用者が甘受しなければならない謂れはありません。そういった際は、使用者としては毅然と対応し、障害が取り除かれるまでは交渉を進行させないといった姿勢を見せることも必要な場合があります。
また、数を頼みの担当者の吊し上げ、監禁、暴行や脅迫といったやり方は、許されるものではありません。
団体交渉のやり方が社会的相当性を超える場合は、使用者として協議の打ち切りもやむない場合があり、そういった可能性を示して労働者側に理性を取り戻すよう働きかけていくべきでしょう。
交渉後の和解・決裂時の対応
団体交渉は、成立を義務付けられるものではありません。あくまで互いが誠意をもって協議したのであれば、合意が得られれば成立としてよく、平行線となれば協議決裂と解するほかありません。
労働協約作成の注意点
労使協議がまとまれば、労働協約を作成して合意内容を形に表すことができます。
ここで、合意内容を労働協約とするに際しては、協約中の労働条件その他の労働者の待遇に関する基準については、以後労働契約を直接規律する効力を持ち、各個の労働契約はそれに反する部分を無効とされるようになるという点に注意が必要です。それを踏まえ、かかる合意をするかをよく検討しなければなりません。
その他には、資格を有する当事者によるものか、一義明快な書式、記載であるかといった形式の点も、不備のないように注意すべきです。
交渉決裂時の対応
交渉決裂に至った場合は、労使交渉では条件の獲得や紛争の解決がかなわないとして、労働者が別途の方法をもって事態の打開を試みる可能性が出てきます。
それが、訴訟や労働審判、労働委員会の利用であるなら、それぞれの手続に即したやり方で、改めて問題の解決を図っていくことがよいでしょう。
ビラマキや街宣活動などの場合は、どうしたものか対応に悩むことも出るでしょう。しかし、それらを高圧的に押さえつけるだけでは、却って迫害などと解されて解決を遠ざける恐れもあります。場合によっては、使用者側から紛争解決の手続を申し立て、解決の舞台を整えることを検討するべきかもしれません。
争議行為における正当性
団体行動、争議行為については、憲法上の権利として、それが正当なものである以上は保護されることとなります。
使用者側からすれば、経営上の利益や会社財産に打撃を与える悩ましいものと映りますが、労働者の権利の一環として保護されるのであれば、それを嘆いても始まりません。
労働者にはかかる権利もあるということを念頭に、彼らに対する適切な処遇や、団体交渉など申入れをどう対処するか、それを考える必要があります。
民事免責
正当な争議行為は、それによって使用者に財産上の損害を与え、労使間の契約に反することとなったとしても、賠償の対象とはなりません。通説的には、行為の違法性が否定されるからと解されます。
加えて、使用者は、労働者が正当な争議行為に参加し、教唆やほう助したことを理由として、解雇や懲戒その他の不利益な取り扱いをすることは認められません。
刑事免責
正当な争議行為については、違法性が否定されることで、刑罰の対象ともなりません。教養や威力業務妨害、建造物侵入や不退去、こういった行為に形式的に該当しても、逮捕その他の刑事手続きの対象とされることはありません。
もっとも、民事免責の点もそうですが、あくまで正当なものであるならばのことであり、不当、逸脱に及ぶ場合は必ずしもそうとはなりません。
労働組合との団体交渉を弁護士へ依頼するメリット
団体交渉については、範囲の幅が広く、定型的なだけでは対応が難しい場合も多々あり得ます。
当事者適格や進行段取り、合意形成にしろ決裂にしろその後の処理、争議行為に至った場合など、様々な事態が起こり得ます。
安易な対応をして面倒な事態を引き起こすことのないよう、専門家の介在を得てことにあたるもの効果的ではないかと思われます。お悩みの方は、一度ご相談をください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)
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