財産分与で退職金を請求するために知っておくべきこと

離婚問題

財産分与で退職金を請求するために知っておくべきこと

宇都宮法律事務所 所長 弁護士 山本 祐輔

監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士

離婚する際に取り決めるものに財産分与があります。
財産分与のなかには退職金が含まれますが、財産分与の対象となるケースもあれば、対象外となるケースもあります。

特に、定年退職するタイミングで熟年離婚を検討されている方は、退職金が財産分与の対象になるかどうかで、離婚後の生活に大きく影響します。

本記事では、“退職金は財産分与の対象になるのか”、“退職金を財産分与するときの計算方法”、“退職金の請求方法”など、「退職金」に焦点をあてて、わかりやすく解説していきます。

退職金は財産分与の対象になる?

退職金は、給与の後払い的な性質があると考えられているため、財産分与の対象となり得ます。ただし、退職金を財産分与の対象とするのは、退職金の支給がほぼ確実であると見込まれている場合になります。

退職金全額が対象になるわけではなく、婚姻期間に応じた部分のみが対象です。
また、退職金をすでに受け取っていて手元に残っている場合も、財産分与の対象となります。

自己都合かどうかによる影響はあるか

自己都合で退職した場合、定年退職したときよりも退職金の金額は低くなります。
退職金を受け取るのはほぼ確実でも、定年を迎えるまでの期間が長い場合は、別居開始日を基準時として自己都合退職したとして退職金を計算するのが基本的な考えです。

ただし、定年を迎えるまでの期間が短い場合は、定年退職したとして退職金を計算するケースもあります。

退職金を財産分与するときの計算方法

財産分与するときの退職金の計算方法は、「すでに支払われている退職金」と「まだ支払われていない将来の退職金」とで異なります。
次項で、それぞれ解説していきます。

すでに支払われている退職金について

すでに支払われた退職金であっても、財産分与の対象となるのは、婚姻期間中に形成された部分に限られます。

具体的には、退職金が全額手元に残っている場合、【退職金 × 婚姻期間 ÷ 勤続年数】という計算式で、分与対象となる金額を算出します。

たとえば、退職金が2000万円、婚姻期間が15年、勤続年数が30年であれば、【2000万円 × 15年 ÷ 30年 = 1000万円】が対象となります。

財産分与は原則として2分の1ずつ分け合うため、夫婦それぞれ500万円ずつ受け取ることになります。

まだ支払われていない将来の退職金について

まだ支払われていない将来の退職金の計算式は、いくつかパターンがあります。
本記事では、主に利用される2パターンをご紹介します。

パターン①離婚時点で自己都合退職した場合の金額を用いるケース

【離婚時に自己都合退職したらもらえるはずの退職金×婚姻期間÷勤続年数=財産分与の対象となる退職金】

例えば、離婚時に自己都合退職したらもらえる退職金が800万円、婚姻期間が10年、勤続年数が20年の場合は、【1000万円×10年÷20年=500万円】となります。
財産分与は、基本的に2分の1ずつ分け合いますので、夫婦それぞれ250万円ずつ分け合うことになります。

パターン➁定年退職時の予定額を用いるケース

【(定年退職時の想定退職金×婚姻期間÷勤続年数÷中間利息=財産分与の対象となる退職金】

中間利息の控除は、将来もらえるはずの金額を現在の価値に引き直して計算することをいいます。
民法上の法定利息が年3%であることから(2023年3月時点)、年3%の利息を基準として控除します。

例えば、定年退職時の想定退職金が2000万円、婚姻期間15年、勤続年数が30年で定年退職する1年前に離婚する場合は、【2000万×15年÷30年÷1.03=971万円(小数第一位を四捨五入)】となります。
財産分与は、基本的に2分の1ずつ分け合いますので、夫婦それぞれ485万5000円ずつ分け合うことになります。

退職金の請求方法

話し合い

まずは、夫婦間で退職金について話し合いを行います。

財産分与の割合は、基本的に2分の1ずつで分割しますが、夫婦間で合意できれば自由な割合で決めても問題ありません。夫婦間で合意できたら、後からトラブルになるのを防ぐために離婚協議書や合意書などの書面に残しておきましょう。

できれば、強制執行認諾文言付公正証書を作成しておくと、約束どおりに支払われなかったときに強制執行の手続きを行って、相手の財産を差し押さえることができます。

離婚調停での話し合い

離婚自体が成立していない状態で、夫婦間での話し合いでは折り合いがつかなかった場合は、家庭裁判所に離婚調停を申し立てて、離婚と併せて財産分与について話し合いをする方法があります。

調停では、調停委員を介して話し合いをするため、相手と顔を合わすことなく、調停委員からの客観的な意見を聞いたり、助言をもらったりして合意を目指します。
調停を申し立てるにあたっては、調停申立書、夫婦の戸籍謄本、夫婦の収入に関する資料などが必要です。

なお、離婚自体は成立したものの、財産分与については取り決めがなされていない場合は、財産分与請求調停の申立てを行って話し合いを行います。

調停のあとは離婚裁判

調停で合意できなかった場合は、調停は不成立となります。
離婚調停の不成立後は離婚裁判を提起し、財産分与請求調停の不成立後は自動的に審判に移行し、それぞれ一切の事情を考慮して裁判官が判断を下します。

離婚裁判や財産分与請求審判では、客観的に裁判官が判断できるように退職金に関する証拠をできるだけ多く揃えて示すことが重要です。

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財産分与で退職金がもらえる割合

退職金をはじめ、預貯金や不動産、生命保険などの夫婦の財産は、基本的に2分の1ずつの割合で公平に分け合います。

夫婦のうち、一方が専業主婦(主夫)だったとしても、会社を勤めあげて退職金をもらえるのは、妻(夫)が長年家事・育児を行ってサポートしてきたからこそ、夫(妻)が仕事に専念できたからだと考えられるため、2分の1ずつの割合で退職金を分け合うことになります。

退職金の仮差押

退職金がすでに使われていた場合は、財産分与の対象外となりますので、退職金の使い込みを防ぐ手段として仮差押えの方法があります。

仮差押えとは、一時的に相手の財産を差し押さえて動かせないようにする手続きをいいます。よく似たもので「差押え」があって混同されがちですが、仮差押と差押えでは、利用するタイミングと効果に違いがあります。

「仮差押」は、債務名義を取得する(判決確定前、調停成立前、公正証書作成前など)に申立てを行って、財産を動かせなくなることで、取り立てまではできません。

一方で、「差押え」は、債務名義を取得した(判決確定後、調停成立後、公正証書作成後など)に申立てを行って、取り立てができるようになります。

仮差押の方法

まず、裁判所に仮差押を認めてもらうには、財産分与に関して取り決めができるまでに相手が退職金を使うおそれがあって仮差押えが必要である事情が必要です。

そして、実際に仮差押をするには、退職金の額を把握していることが前提となりますので、退職金に関する資料を添えて裁判所に申立てを行います。

また、裁判所が仮差押え命令を下す際には、およそ退職金の金額の10%~30%程度の担保金が必要です。
裁判所から指示された担保金を法務局に供託して、法務局で受け取った供託書正本を裁判所に提示すると仮差押えが実行されます。

退職金についてのQ&A

夫が公務員の場合、退職が10年以上先でも財産分与してもらえるの?

公務員は民間企業と異なり、原則として雇用が安定しており、勤務先が倒産するリスクもありません。
そのため、将来的に退職金が支払われる可能性が非常に高く、たとえ退職まで10年以上の期間があったとしても、その退職金は将来確実に得られる財産と評価されます。

したがって、離婚時の財産分与においても、退職金は対象財産として考慮される可能性が高いといえます。

もらえる予定の退職金を財産分与で前払いしてもらうことは可能?

前払いしてもらうことは可能です。
財産分与は、あくまでも離婚に伴う夫婦の財産の清算ですので、早期解決のため、離婚する際にまとめて支払う必要があると考えられます。

よって、将来の退職金であっても、離婚する際にすぐに支払うのが基本的な考えです。
そのため、退職金がまだ支払われていなくても、そのほかの手持ちの財産から、将来の退職金に相当する財産で前払いすることもあり得ます。

別居中に相手に退職金が出ていることがわかりました。財産分与できますか?

別居中に相手が退職金を受け取っていたことが判明した場合でも、その退職金のうち、婚姻期間中に対応する部分については財産分与の対象となります。

ただし、別居後は夫婦が協力して財産を築いていたとはいえないため、別居期間に相当する部分は分与の対象外となります。
実際に同居していた期間に応じて、退職金の一部が分与の対象となるのが一般的です。

共働きの夫婦が離婚するときも退職金は財産分与の対象ですか?

共働き夫婦であっても、退職金は財産分与の対象となる可能性があります。

たとえば、離婚を機に妻が退職し退職金を受け取った場合、そのうち婚姻期間中に勤務していた分が対象となります。
婚姻前や別居中の勤務期間に対応する退職金は含まれません。

また、夫婦双方に退職金の支給が見込まれる場合は、それぞれの婚姻期間中の勤務分を基に計算し、合算した金額を分与対象とすることもあります。

退職金は財産分与の判断が難しいので弁護士に相談して確認してもらいましょう

将来受け取る予定の退職金が財産分与の対象になるかどうかは、その退職金が実際に支給される見込みがあるかどうかによって判断されます。
ただし、その判断は簡単ではなく、ケースによっては複雑になることもあります。

また、対象となる退職金の金額について、計算が難しいこともあるでしょう。
退職金の財産分与について不安や疑問をお持ちの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

弁護士が個別の事情を丁寧にお伺いし、法的な観点から適切なアドバイスをいたします。
必要に応じて、相手方との交渉も弁護士が行います。

退職金は数百万円から数千万円にのぼることもあり、財産分与において重要なポイントです。まずは弁護士法人ALGまでお気軽にお問い合わせください。

宇都宮法律事務所 所長 弁護士 山本 祐輔
監修:弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長
保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)
栃木県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。