監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
年金分割とは、離婚する場合に、夫婦二人の婚姻期間中の厚生年金の保険料納付記録を分割してそれぞれ自分の保険料納付記録とすることができる制度です。
離婚する際、年金分割について知識を身に付け、しっかり取り決めて手続きをしておくと、老後の経済的な不安が和らぐでしょう。
本記事では、年金分割の種類や方法、手続きの流れなど“離婚時の財産分与と年金分割”について、わかりやすく解説していきます。
目次
離婚時の財産分与と年金分割制度について
以前は、離婚時の財産分与の一部として年金分割が扱われていました。
つまり、夫婦が婚姻期間中に築いた年金記録を、財産の一部として分け合うという考え方が一般的だったのです。
しかし、平成19年4月の法改正により、年金分割は独立した制度として法律で定められ、財産分与とは別の手続きとして扱われるようになりました。
そのため、現在では財産分与と年金分割は、手続きも個別に行う必要があります。
年金分割の按分割合の決まり
年金分割の「按分割合」とは、夫婦の婚姻期間中に支払われた厚生年金の保険料に基づいて、どれだけの年金を分けるかを決める割合のことです。
この割合は、年金を受け取る側が公平に年金を受け取れるようにするために定められており、最大で50%までとされています。
また、分割を受ける側の年金が減らないように、そして分割する側の年金を超えないように、バランスを考えて割合を決める必要があります。
年金分割のできる年金、できない年金
公的年金の種類には、「国民年金」と「厚生年金(旧共済年金を含む)」があります。
離婚時に年金分割できるのは、厚生年金部分のみです。
具体的にいうと、会社員や公務員などが加入する第2号被保険者が対象です。
自営業やフリーランスなどの第1号被保険者が加入する国民年金は年金分割の対象となりません。
また、年金分割できる期間は、婚姻期間中の保険料納付部分のみです。
婚姻前や離婚後は対象となりませんので注意が必要です。
さらに、保険の加入期間が少なく、年金の受給資格がない場合は、そもそも年金の受給ができないため、当然に年金分割も対象外となります。
年金分割の種類
年金分割の種類には「合意分割」と「3号分割」の2つがあります。
「合意分割」と「3号分割」の違いは、次表のとおりです。
| 合意分割 | 3号分割 | |
|---|---|---|
| 離婚日 | 平成19年4月1日以降 | 平成20年5月1日以降 |
| 夫婦間の合意 | 必要(当事者の合意または裁判) | 不要 |
| 分割対象期間 | 婚姻期間すべて (平成19年4月1日以前も含む) |
婚姻期間のうち、平成20年4月以降に配偶者の扶養に入っていた期間(第3号被保険者期間) |
| 分割割合 | 合意した割合(上限50%) | 一律50% |
| 請求期限 | 離婚した日の翌日の2年以内 | 離婚した日の翌日の2年以内 |
| 対象者 | 夫婦の一方が第2号被保険者 | 夫婦の一方が第2号被保険者であることに加えて、夫婦のもう一方に第3号被保険者期間があること |
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年金分割の方法
年金分割の方法は、「合意分割」と「3号分割」がありますが、それぞれ分割する手順が異なりますので、次項より解説していきます。
合意分割の場合
合意分割の場合は、主に次の流れで進めていきます。
- ①夫婦間の合意
- ②調停
- ③審判
- ④離婚裁判(附帯処分手続き)
次項より、それぞれ詳しく解説していきます。
夫婦間の合意による場合
まずは、夫婦間で年金分割について話し合いを行います。
話し合いを行う前に、最寄りの年金事務所で「年金分割のための情報通知書」を取得しておきましょう。
この通知書で、対象期間や標準報酬総額などの年金分割を請求するために必要な情報を確認しておくと話し合いがスムーズに行えます。
夫婦間での話し合いで合意できたときには、次のいずれかの書類を作成して、年金事務所に申請する必要があります。
- ①公正証書の謄本または抄録謄本
- ②公証人の認証を受けた私署証書
- ③合意書(年金分割の手続き時に当事者双方が年金事務所に出向いて作成)
調停による場合
夫婦間の話し合いで、年金分割について折り合いがつかなかった場合や、そもそも話し合いができなかった場合などには、家庭裁判所に対して、「按分割合を定める調停」の申立てを行います。
調停では、調停委員が介入して、当事者双方の意見を聴いたうえで、助言や解決案を提案してもらいながら、年金分割の按分割合について解決を図ります。
なお、離婚成立前に年金分割について話し合いを行いたい場合は、「離婚調停」の申立てを行います。
調停で合意できた場合には、裁判所が「調停調書」を作成します。
年金事務所で年金分割を請求する際には調停調書を添付すると手続きが行えます。
審判による場合
調停での話し合いで合意できなかった場合は、調停不成立となりますので、審判手続きに移行します。
そもそも調停での話し合いは困難だと見込める場合は、調停を経ずに「按分割合を定める審判」から申立てを行うことも可能です。
審判では、裁判官が、一切の事情を考慮して、年金分割の按分割合を決定する審判を下します。
年金分割の按分割合について審判で確定した場合は、裁判所が「審判書」を作成します。
年金事務所で年金分割を請求する際には審判書を添付すると手続きが行えます。
離婚裁判における附帯処分の手続き
附帯処分とは、離婚裁判の中で財産分与や年金分割などの関連する問題も一緒に解決する手続きです。この手続きを行うことで、判決や和解の中で年金分割の割合も決められます。
裁判所が割合を判断する場合、特別な事情がなければ2分の1(50%)となります。
年金分割が判決や和解で確定した場合は、「判決書」または「和解調書」を年金事務所に提出することで手続きが可能です。
3号分割の場合
3号分割は、夫婦間の合意や裁判所の手続きが必要な「合意分割」とは異なり、第3号被保険者が年金事務所に申請するだけで手続きが完了します。
第3号被保険者とは厚生年金保険等に加入している会社員や公務員の方に扶養されている配偶者で一定の要件に該当する方を指します。
対象期間の標準報酬は自動的に2分の1(50%)に分割されるため、相手の同意は不要です。1人で手続きできる点が大きな特徴で、合意分割に比べて手続きが簡単でスムーズに進められるのがメリットです。
年金分割の手続きの流れ
年金分割の手続きは、主に次のような流れで行います。
- ①「年金分割のための情報通知書」を取得する
年金分割のための情報通知書は、年金事務所の窓口または郵送で請求できます。
必要書類は次のとおりです。- 年金分割のための情報提供請求書
- 基礎年金番号がわかる書類(基礎年金番号通知書または年金手帳)
- 戸籍謄本または夫婦それぞれの戸籍抄本
- ②年金分割の按分割合について話し合う、または裁判所の手続きを利用する(合意分割の場合)
合意分割を行う場合は、夫婦間で按分割合について話し合う必要があります。
按分割合は0~50%の間で定めます。
夫婦間の話し合いで合意できなかった場合は、家庭裁判所に調停もしくは審判を申し立てます。 - ③年金分割の請求手続きを行う
最寄りの年金事務所に行き、年金分割の請求を行います。
合意分割の場合は、按分割合を明らかにできる書類を添付して、夫婦双方または夫婦の一方が手続きを行います。
3号分割の場合は、第3号被保険者であった者1人で手続きが行えます。 - ④標準報酬改定通知書を受領する
年金事務所に必要書類を添付して年金分割の請求手続きを行ってから約2~3週間程度で、標準報酬改定通知書が夫婦双方に送付され、手続きが完了します。
離婚時の財産分与で専業主婦の年金について
専業主婦であっても、離婚時には年金分割によって、婚姻期間中に夫が支払っていた厚生年金の一部を受け取れる可能性があります。
ただし、対象となるのは厚生年金部分のみで、夫が会社員や公務員である場合に限られます。夫が自営業者などで国民年金のみ加入していた場合は、分割の対象外です。
また、年金分割を請求しても、すぐに年金が受け取れるわけではなく、年金の受給開始年齢に達してから支給されます。
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熟年離婚した場合の年金分割
相場
年金分割の額は、婚姻期間の長さや保険料の納付実績などによって変動するため、詳しい相場は明示できません。
ただし、婚姻期間が短い場合の年金分割に比べて、婚姻期間が長い熟年離婚のほうが年金分割によって受け取れる金額は高額になる傾向にあります。
年金分割の成立後に配偶者が亡くなってしまった場合
夫が亡くなってしまった場合(年金分割を行う側が亡くなってしまった場合)
離婚後に年金分割が成立していれば、元夫が亡くなった場合でも、元妻が受け取る年金額に影響はありません。
年金分割は、婚姻期間中の保険料納付実績に基づいて年金額を分ける制度であり、分割後はそれぞれが自分の年金として受け取ることになります。
そのため、元夫が亡くなっても、元妻の年金受給権はそのまま維持され、減額されることはありません。
妻が亡くなってしまった場合(年金分割を受ける側が亡くなってしまった場合)
離婚後に年金分割が成立し、その後に元妻が亡くなっても、元夫の年金額に変化はありません。分割された年金は元妻の権利として確定しているため、元夫にその分が戻ることはなく、年金額が増えることもありません。
年金分割は一度確定すると、それぞれが独立して受給する仕組みになっているため、相手の死亡による影響はありません。
離婚時における財産分与の年金についてQ&A
財産分与のときに夫婦共働きの場合、年金分割はどうなりますか?
夫婦が共働きでも、年金分割は可能です。
どちらか一方のみが厚生年金に加入していた場合は、その人の保険料納付実績の一部を、もう一方に分割することになります。
夫婦双方が厚生年金に加入していた場合は、納付実績を比較し、報酬比例部分の多い方から少ない方へ分割されます。
たとえば、妻が正社員で厚生年金に加入し、夫が自営業で未加入の場合は、妻から夫に年金分割されるケースもあります。
離婚時の年金分割を拒否することは可能ですか?
離婚時の年金分割は法律で定められた制度のため、基本的には拒否できません。特に3号分割は、相手の同意がなくても申請できる仕組みです。
一方、合意分割では夫婦間で按分割合を話し合う必要があり、希望に応じないことも可能です。
また、夫婦双方が合意すれば年金分割を行わずに離婚することもできます。
その場合は、後のトラブルを防ぐために、離婚協議書にその旨を記載しておくと安心です。
離婚後に夫婦のどちらかが再婚した場合、年金分割に影響はありますか?
離婚後に、元夫婦のどちらかが再婚したとしても、それによって年金分割の内容や、それぞれが将来受け取る年金額に影響が及ぶことはありません。
そもそも年金分割とは、婚姻期間中に納付された厚生年金保険料の記録を、夫婦間で分割する制度です。
この制度は、離婚時点までの保険料納付実績に基づいて行われるため、離婚後の保険料の納付状況や再婚の有無などは一切関係ありません。
離婚時に年金分割をしなかった場合はどうなりますか?
夫婦の一方が専業主婦(主夫)やパートタイム勤務などで、夫婦間で収入に差があるケースは、年金分割をしないと将来もらえる年金の受給額が大きく減少してしまい、老後の生活費が足りなくなるおそれがあります。
他方で、夫婦間に収入に差がないケースや、婚姻期間が短いケースなどは、年金分割をしなかったとしても将来もらえる年金の受給額が、年金分割したときと比較してもさほど変わらないこともあり得ます。
あらかじめ離婚後の年金分割の見込み額を知ることはできますか?
年金事務所で年金分割のための情報提供請求書を提出する際に、所定の欄に分割後の年金見込額を知りたいと記載すると、年金分割後の年金見込額を教えてもらえます。
ただし、年金分割の見込額を知ることができるのは、50歳以上の方、または障害年金の受給権者のみとなります。
そして、知ることができる年金見込額は、次の3つの場合に限られます。
①按分割合の上限(50%)とした場合
②按分割合の下限(年金を行わない)とした場合
③本人の希望する按分割合とした場合
離婚したいと思った時、年金の財産分与について詳しく知りたいと思ったら弁護士に聞いてみましょう
離婚を考えたときは、年金分割の手続きも忘れずに検討しましょう。
ただし、年金分割は制度が複雑で、必ずしも自分に有利になるとは限りません。
また、老後にどれくらいの年金が受け取れるかを見通すのも難しいものです。
年金分割について不安や疑問がある場合は、弁護士に相談することで、制度の内容や手続きについて丁寧に説明を受けられます。また、年金分割の按分割合について争いが生じたときに、代理人となって相手と交渉してもらうことも可能です。
弁護士法人ALGでは、年金分割だけでなく、財産分与や慰謝料など離婚に関する問題にも対応しています。まずは、お気軽に弁護士法人ALGにお問合せください。

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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)
