監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
夫婦が離婚したい場合、協議の上でお互いに合意ができれば離婚届を提出して離婚ができます。一方で、協議や調停を経ても折り合いが合わず合意ができないときなど、裁判によって離婚するケースもあります。
夫婦のうち、離婚をしたい一方にとっては、相手方の日常的な言動により感じている精神的苦痛について訴えれば、離婚を認めてもらえると思うかもしれません。しかし、離婚裁判は最終手段に近いものであり、簡単に離婚を認めてもらえるわけではありません。
本記事では、離婚裁判の流れについて説明します。
目次
離婚裁判の流れ
離婚裁判は、次の項目で詳しく見ていきますが、全体としては概ね以下のような流れで行われます。
①離婚調停を申し立てる
②離婚調停が不成立に終わった後で、家庭裁判所に訴状を提出する
③被告に訴状が送達される
④被告が原告と家庭裁判所に答弁書を提出する
⑤口頭弁論等の訴訟期日や、その中での和解勧告などが行われる
⑥判決が下される
離婚裁判を提起する前に
離婚裁判は、原則として、離婚調停を申し立てて成立しなかった場合に限って訴えを提起することができます。これを「調停前置主義」といいます。離婚調停は自由な理由によって申し立てることができますが、離婚裁判を提起する場合には法定離婚事由が必要です。法定離婚事由は以下の5つです。
①配偶者に不貞な行為があったとき
②配偶者から悪意で遺棄されたとき
③配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
④配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
なお、不貞や悪意の遺棄といった行為をして、法定離婚事由を生み出した当事者(有責配偶者)からの離婚の請求は、従来であればほとんど認められませんでした。しかし、近年では認められるケースも増えてきています。
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家庭裁判所に訴状を提出する
離婚裁判は、家庭裁判所に訴状を提出することによって提起することができます。なお、訴状の提出先は夫婦のどちらかの所在地を管轄する家庭裁判所です。離婚調停を行ったのが夫婦のどちらかの所在地を管轄する家庭裁判所とは別の家庭裁判所であったときでも、必ずしもその家庭裁判所で管轄が認められるとは限りません。そのため、調停を行った家庭裁判所で管轄を認めてもらいたい場合には、「特に必要があると認めるとき」(人事訴訟法6条)に当たることを十分に説明する必要があります。
提出する書類等については以下で解説します。
訴状提出の際に必要な書類と費用
離婚訴訟を提起するときには、いくつかの書類が必要です。
- 訴状(2部)
- 調停不成立証明書
- 夫婦の戸籍謄本(原本とコピー)
- 証拠書類のコピー(各2部)※請求及び主張に対応して
- 年金分割のための情報通知書(原本とコピー)※年金分割を請求する場合
なお、訴訟費用は訴状に収入印紙を添付します。離婚だけを求めるのであれば、印紙額は1万3000円ですが、慰謝料を請求したり、財産分与等の処分についても申立をしたりすれば、金額は変わり得ます。他にも、一定額の郵便切手を提出します。
第一回口頭弁論期日の通知が届く
必要書類を提出して離婚訴訟を起こすと、第一回口頭弁論期日の呼出状が夫婦それぞれに届きます。そして、被告となる相手方の配偶者に対しては、原告が提出した訴状2部のうちの1部が一緒に送られます。
このとき、相手方は一方的に日程を通告されるため、第一回口頭弁論については、都合が合わず欠席した場合であっても、答弁書を予め提出していれば、その内容について陳述したとみなす措置(陳述擬制)があります。
被告が答弁書を提出
訴状を受け取った被告は、そこに記載されている内容についての反論を書いた答弁書を、指定された期日までに裁判所に提出し、また原告または原告の代理人に対しても郵便等で送付します。
口頭弁論を行う
訴状を提出し、期日が指定されれば、裁判所において口頭弁論が行われます。口頭弁論とは、お互いの言い分を主張し、証拠を提出するための機会です。
第一回口頭弁論の期日として、訴状の提出から1ヶ月程度先の日程が指定されることが多いです。それ以降の期日についても、概ね月に1回程度のペースで行われることが多いです。
なお、審理の流れについては、以下で解説します。
審理の流れ
第一回口頭弁論期日では、裁判官が訴状と答弁書の記載を確認して、互いの主張が異なっている部分と、双方が認めている部分を確認して、離婚裁判の争点を整理します。そして、原告からは自身の主張を裏付ける証拠が提出され、被告からはその主張を否定する証拠が提出されます。その後は、期日毎、双方で主張、反論及び立証をしていくこととなります。
訴訟期日では、弁護士に依頼しておけば、原告であれ被告であれ、自らは出席せずに弁護士に任せることが可能です。ただし、本人に対する尋問が行われるときには出席する必要があります。
離婚裁判における事実の認定
離婚裁判における事実の認定では、音声や映像といった証拠、メールやSNSの文面、ホテル等の領収書、あるいは日記といった物を証拠として用います。また、事情を知っている親族や友人、調査を依頼した探偵等に証言してもらうこともあります。そうして、お互いに主張や証拠を出し合っていき、それら客観的な証拠が尽きれば、多くの場合、当事者本人や証人の尋問が行われます。そこで当事者、証人が原告・被告の弁護士と裁判官から質問を受けます。基本的に、尋問後は、審理終結、判決と進むことになります。
証拠調べ
訴訟手続きにおいて、当事者から提出される証拠については、裁判官がそれを取り調べます。証拠は、基本的に、まず書証等の客観的証拠、その後に当事者や証人への審問という順序で出されます。 証拠調べを経て、裁判官は判断の前提となる心証を得ていきます。
本人尋問や証人尋問
本人尋問は、基本的に以下のような流れで行われます。
①原告に対して、原告の弁護士が質問する(主尋問)
②原告に対して、被告の弁護士が質問する(反対尋問)
(必要な場合は、①②のあとに再主尋問、再反対尋問と続く)
③原告に対して、裁判官が質問する(補充尋問)
④被告に対して、被告の弁護士が質問する(主尋問)
⑤被告に対して、原告の弁護士が質問する(反対尋問)
(必要な場合は、④⑤のあとに再主尋問、再反対尋問と続く)
⑥被告に対して、裁判官が質問する(補充尋問)
※原告と被告の順番は、逆となったりすることもあります。
離婚裁判の判決
口頭弁論が終結すると、だいたい、それから1ヶ月程度で判決が下されます。判決期日については、当事者や代理人が出廷しないことも珍しくはありません。その場合は、判決書が送られてくることとなります。
判決書は言い渡しの後で、遅滞なく原告と被告に手渡されるか郵送されます。もしも敗訴してしまった場合には控訴することが可能ですが、控訴できる期間は制限されています。
なお、離婚裁判は、判決が下されて終結するだけではなく、和解等によって終結することもあり、和解の場合は成立とともに確定することとなります。
和解を提案されることもある
離婚裁判の途中であっても、裁判官から和解を勧められることがあります。判決が下されるまで争うと、とても時間がかかる場合もあるので、和解によって早期に解決できることはメリットにもなり得ます。また、和解した方が、判決が下されたときよりも条件が良くなったり、柔軟になったりするケースもあります。
なお、判決によって離婚すると裁判により離婚したことが分かる旨の記載が戸籍に残り、そのような記載を残したくないという方は注意する必要があります。和解して離婚すれば、戸籍の記載も和解により離婚したことが分かる旨の記載になります。
和解は、離婚裁判の期間であればどんなタイミングでも可能であり、控訴審でも可能です。
訴えの取下げにより裁判終了
離婚裁判に限らず民事裁判は、訴えの取下げによって終了させることが可能です。訴えの取下げとは、原告が訴訟を取り下げて、裁判をなかったことにする手続きです。
この手続きを行うためには、被告が準備書面を提出した後や口頭弁論をした後であれば、被告から同意を得なければなりません。なぜかというと、負けそうになった原告が逃げることで、勝訴する可能性があった被告にとって不利益になることを防ぐ目的があるからです。
判決に対して控訴できる
離婚裁判で敗訴してしまった場合、その判決に不服があれば高等裁判所に控訴することができます。控訴は、判決書の送達を受けてから2週間以内に行う必要があります。
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判決後の流れ
離婚裁判で勝訴した場合、判決が確定してから10日以内に離婚届を提出します。添付書類は「判決の謄本」と「判決確定証明書」で、提出先は本籍地または住所地の市区町村役場です。本籍地外の役場に提出する場合は、戸籍謄本の添付も求められます。判決による離婚の場合は、離婚届には原告の署名・捺印があれば足り、被告や証人の署名等は不要です。
離婚裁判にかかる期間
離婚裁判は、1年~2年ほどかかるケースが多いです。数ヶ月で終わるケースもありますが、親権・慰謝料・財産分与等について激しく争う場合や、互いの主張を裏付ける証拠が乏しい場合等には、期間が延びる傾向にあります。
離婚裁判に関するQ&A
離婚裁判の流れに関してよくある質問について、以下で解説します。
離婚届を提出した後に必要な手続きにはどのようなものがありますか?
離婚裁判で勝訴して、添付書類とともに離婚届を提出すれば離婚は成立します。しかし、離婚が成立すれば、それに伴って必要な手続きが発生します。
たとえば、親権を獲得した場合において、子供の苗字を変更する手続きが必要になることがあります。もしも子供の苗字を変えないのであれば、自身の苗字を結婚していたときのままとする手続きによって、親子の苗字を同じにするケースがあります。また、住所の変更や、それに伴う年金事務所や公共料金に関する届け出が必要な場合もあります。
離婚が成立したことに浮かれることなく、必要な手続きはすべて行うようにしましょう。
離婚に合意しており養育費のみ争う場合、離婚裁判はどのような流れで進みますか?
養育費についてだけ意見が食い違っている場合であっても、離婚を求める裁判に併せて養育費の金額を主張することになります。そのため、まずは離婚調停を行い、成立しなければ離婚裁判を行う必要があります。
通常であれば、夫婦双方の収入によって養育費の金額を導き出す「養育費算定表」という表を用いて金額が決められます。そのため、特別な事情がなければ、養育費の金額は事前に推測することが可能です。
裁判による判決が下されると、養育費の未払いが起こったときに、相手方の給料等を差し押さえることが可能となるメリットがあります。しかし、判決までに時間がかかるというデメリットもあります。
離婚裁判が不成立になってしまったら離婚は諦めるしかありませんか?
離婚裁判で離婚が成立しなかった場合であっても、もう一生離婚することはできないのだと諦める必要はありません。裁判になるほどの状況ですので、夫婦関係は冷え切っており、すでに別居している場合も多いでしょう。法律上は夫婦には同居義務が課されています(民法752条)が、裁判所は、実質的には夫婦の同居を強制することはないといえるので、多くのケースで別居は継続することになるでしょう。
裁判所は、別居期間が長い夫婦について、すでに夫婦関係は破綻していると考えるケースが多いです。そのため、別居期間が十分に長くなってから、事情の変化を理由として再び調停や裁判を起こせば、今度は離婚が認められる可能性が高まっていると考えられます。勝算が高くなる別居期間については、弁護士に相談する等して見込みを立てておくことをおすすめします。
離婚裁判の流れをケース別で知りたい場合は弁護士にご相談ください
離婚裁判を検討されている方は、弁護士に依頼することも併せてご検討ください。離婚裁判を自ら行おうとすれば、書類の準備だけでも負担は大きく、勝訴見込みが高いような裁判で負けてしまったり、慰謝料や財産分与等について不利な判決が下されてしまったりするおそれがあります。
弁護士であれば、書類の準備のお手伝いが可能なだけではなく、離婚するために有益な証拠の揃え方についてのアドバイスも可能である等、離婚に向けて様々な場面でお手伝いができます。離婚したいと悩んでいらっしゃる方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)