監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
DV(ドメスティック・バイオレンス)という言葉を、一度は耳にされたことがあると思います。
殴る・蹴るといった身体的暴力や、言動で相手を精神的に追い詰める精神的暴力(モラハラ)、性行為や中絶を強要する性的暴力、生活費を渡さないなどの経済的暴力といった、これら配偶者のDVが原因で、離婚したいけれどどうすればいいかわからない、と悩まれている方も少なくないと思います。
DV加害者と離婚するためには、慎重に行動する必要があります。
そこで今回、DV加害者と離婚するために知っておいていただきたいことをまとめました。
身を守るための方法も解説していますので、ぜひご参考にしてください。
目次
DV加害者と離婚する方法
DV加害者と離婚する方法について解説します。
相手に離婚を切り出し、手続を進めるのは、ご自身の身の安全を確保してからです。
そして、できるかぎりDVの証拠を集めておくことが、スムーズに離婚を成立させるポイントになります。
まずは身を守るために別居する
DV加害者と離婚をするためには、まずは別居して身の安全を確保したうえで、手続を進めるべきです。
同居したまま離婚を切り出すと、更なる危害を加えられるおそれがあるためです。
そして、別居後の住所は、相手に知られないよう注意しましょう。
接近禁止命令の発令を検討する
別居後の安全を確保するために、接近禁止命令の発令を裁判所に申し立てる方法があります。
接近禁止命令とは、DV防止法で定められている保護命令のひとつです。
被害者が地方裁判所に申立てると、DV加害者に対して6ヶ月間、被害者への接近禁止を命じてもらえて、違反すると刑罰が科される制度です。
必要に応じて、電話等禁止命令や子への接近禁止命令などの保護命令も申し立てる必要があります。
なお、接近禁止命令を発令してもらうために、DV被害の証拠提出のほか、事前に警察や配偶者暴力相談支援センター(以降、DVセンター)への相談、あるいは公証役場で作成した宣誓供述書の提出が必要になります。
DVシェルターは一時的にしか使えない
身の安全を確保する方法として、DV被害者を保護するための施設、DVシェルターへの避難も有効です。
ただし利用できるのは、すぐにDV加害者から離れなければ、被害者や子供の生命・身体に危険が及ぶほどの緊急性がある場合に限られます。
DVシェルターは一時的な保護施設で、滞在できる期間が限られるため、避難後の住居・就職先を探す、保護命令を申し立てるなど、離婚に向けた準備を進める必要があります。
なお、DVシェルターの利用にあたっては、警察やDVセンターなどの窓口からの紹介を受ける必要があります。
DVの証拠を集める
DV加害者と離婚するにあたり、DVの証拠を複数集めておきましょう。
相手がすんなり離婚に応じてくれれば証拠は必要ありませんが、話合いで離婚できない場合、離婚調停や離婚裁判を利用することになります。
とくに離婚裁判では、「DVが原因で、修復が困難なほど婚姻を継続することがむずかしい」と認めてもらうために、DVの証拠が重要になります。
ただし、相手に知られないよう、慎重に証拠を集める必要があります。
以下、証拠となるものをご紹介します。
診断書
診断書が、DVの重要な証拠となります。
「軽い怪我だし」
「DVの怪我は恥ずかしい」
など、病院に行かずに我慢してしまう人も少なくありませんが、医師の診断書は重要な証拠になります。
「夫(妻)に殴られた、蹴られた、物を投げつけられて怪我をした」
「夫(妻)の暴言が原因で、不眠・食欲不振になった」
と、具体的に医師に説明して、負傷した日時や原因、症状の詳細、治療期間などを、カルテや診断書に記載してもらいましょう。
怪我の写真
怪我を撮影した写真も証拠のひとつです。
被害直後の怪我の部分以外に、被害者の顔と怪我の部分を一緒に写すなど、複数枚撮影しておきましょう。
日時がわかるように、スマートフォンの画面や電波式の時計などと一緒の写真も有用です。
加工を疑われないように、使い捨てカメラによる撮影もおすすめです。
音声・動画
実際にDVが行われている最中の音声・動画データは、相手の言動をありのまま残せるため、有効な証拠のひとつです。
全体の流れがわかるように、一部始終を記録しておきましょう。
DVを受けたことが記載してある日記
DVを受けたことを記載した日記も、証拠のひとつになります。
日時、場所、DVの内容、DVを受けてどうなったか(どう感じたか)、具体的に記しておきましょう。
家庭内の出来事や時事ニュースとあわせて、継続的に記録することで、信ぴょう性が増します。
警察や配偶者暴力相談支援センター等への相談記録
警察や、配偶者暴力相談支援センター(DVセンター)などの専門機関への相談記録も、重要な証拠となります。
これらの証拠の取り寄せ方法としては、相談した機関に対して、開示請求することで、記録を取得することができます。開示請求の方法については、各機関の公式ホームページで調べたり、電話で直接問い合わせたりすると良いでしょう。
警察・DVセンターへの相談は、保護命令の申立てや、DVシェルター利用にも役立つため、身の危険が迫るケースでは、積極的に利用を検討しましょう。
経済的DVを受けている場合
生活費を渡さない、金銭的な自由を奪うなどの経済的DVを受けている場合、どのようなものが証拠になるのでしょうか?
一般的には、次のような「お金の流れがわかるもの」が証拠となります。
- 収支のわかる預金通帳
- 家庭内の収支を記録した家計簿
- DV加害者の、金銭に関する言動を記録した音声・動画データや日記
離婚の手続きを進める
DVの証拠を集め、身の安全が確保できたら、離婚の手続きを進めましょう。
一般的には、まず夫婦で離婚について話し合い(協議離婚)、双方の合意が得られれば離婚成立です。
もっとも、配偶者によるDVがある場合、夫婦で話し合うこと自体がむずかしいことも考えられます。
離婚を切り出すと逆上した相手が、更なる暴力を加えてくるおそれがあるためです。
たとえ話し合えたとしても、離婚に応じてもらえない可能性も高く、協議離婚が成立しない場合は、離婚調停や離婚裁判の手続を利用することになります。
相手が離婚してくれない場合
相手が離婚に応じてくれない場合、離婚調停を申し立て、夫婦の間に調停委員を入れて解決を目指します。
離婚調停が不成立となった場合には、離婚裁判に進み、最終的に裁判官が離婚の可否と条件について、決定を下します。
調停や裁判では、専門的な知識が必要で、証拠をもとに、DVが原因で離婚せざるを得ないことを主張していかなければなりません。
DV加害者は外面がよく、弁が立つ人が多いので、相手のペースで調停や裁判が進んでしまう可能性も少なくありません。
被害者おひとりで対応するのは負担が大きいため、はやめの段階で弁護士を介入させることが得策といえます。
DVで離婚するときは慰謝料請求ができる
DVで離婚する場合、相手に対して慰謝料を請求できる可能性があります。
慰謝料とは、DVが原因で精神的な苦痛を受けたことに対する金銭的な賠償です。
DVの頻度や期間、DVで生じた損害、婚姻期間の長さ、子供の有無などによって、具体的な金額は異なりますが、慰謝料のおおよその相場は、数十万~300万円程度といわれています。
離婚後の経済的な負担を軽減させるためにも、相応の慰謝料が請求できるように、しっかりとDVの証拠を用意することが重要です。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
親権をDV加害者にとられる可能性はある?
子供に危険はないと裁判所に判断されれば、DV加害者であっても親権が認められる可能性はあります。
親権は、「子供が幸せのために、どちらが親権を持つのがふさわしいか」を、あくまで子供中心に考慮されます。
そのため、子供に対してDVを加えておらず、子供の世話をDV加害者が主に行っていたようなケースでは、DV加害者が親権を獲得することもあり得ます。
しかし、配偶者にDVを加えるような人物であれば、子供に対しても今後DVを加えるのではないかと不安になり、自分が親権を獲得したいと思うのは当然のことです。
弁護士であれば、親権獲得に向けたサポートが可能です。一度対応方法について相談されてみるのも良いでしょう。
DVで離婚した場合でも面会交流はしなければいけない?
子供に危険がなければ、面会交流は基本的に認められます。
子供にDVを加える、子供が怖がって面会交流を拒むといった事情がない場合、子供が望んでいる限り、面会交流は行うべきとされています。
そのため、被害者が加害者からDVを受けていることだけを理由に、面会交流を拒むのはむずかしいといえます。
もっとも、面会交流を実現させるために、被害者がDV加害者と直接会ったり、連絡を取ったりすることがむずかしい場合には、弁護士や支援団体を利用する方法があります。
DV加害者と離婚したい場合は弁護士にご相談ください
「家庭内のことだし、おおげさにしたくない」 「配偶者が暴力をふるうのは自分が悪いせいだ」
そんなふうに我慢されていませんか?
配偶者とはいえ、DVは決して許されるものではありません。
少しでも「離婚」という言葉が頭をよぎったのであれば、できる限り、はやめに弁護士にご相談ください。
DV加害者との離婚は、証拠集め・離婚の切り出し方・身を守る方法など、すべてにおいて慎重さが求められます。
今、被害者の方がとるべき最善の手段を、弁護士がアドバイスさせていただきます。
また、負担の大きい加害者との交渉や裁判所の手続も、安心して弁護士にお任せください。
抱えていらっしゃる不安やお悩みを、まずは弁護士法人ALGにお聞かせください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)