監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
目次
経済的DVとは
経済的DV(経済DV)とは、「経済的ドメスティックバイオレンス」の略称です。
具体的に、相手に生活費を渡さない、働けるのに働かせないなど、相手の金銭の自由を奪って、経済的に追い詰める行為を指しています。
DVというと、一般的に殴る・蹴るなどといった身体に暴力をくわえてダメージを与える行為をイメージされる方が多いと思いますが、経済的・精神的にダメージを与える行為もれっきとしたDVです。
経済的DVの具体例
代表的な経済的DVにあてはまる行為をご紹介します。
生活費を渡さない・足りない金額しかくれない
配偶者が専業主婦(主夫)やパート勤務で、他方の配偶者より明らかに収入が少ないことが明白にも関わらず、家庭を維持するための生活費を渡してもらえず、独身時代の貯金を取り崩したり、両親の援助を得たりして、どうにか生活できている状況は経済的DVに当てはまる可能性が高いです。
また、生活費を渡してもらっていたとしても、家庭を維持するには明らかに少ない金額しか渡してくれない場合も経済的DVにあたる可能性があります。
給与や貯金額を教えてくれない
配偶者が高収入だったり、貯金をしっかりしていたりして生活費を負担することができるにも関わらず、給与額や貯金額を一切教えずに、家庭を維持するために必要な生活費を渡してもらえず、生活が困窮している場合は経済的DVにあたる可能性があります。
夫婦には、同居し、相互に協力し扶助する義務があります。
収入や資産そのほか一切の事情を考慮して、婚姻費用は夫婦で分担するものですので、他方配偶者の収入や資産を知る権利があるといえるからです。
働けるのに働かない
夫婦の生活費が不足している状況で、病気やケガなどをしているわけでもなく、特段働けない事情がないのに働かずに生活費を負担しない場合は、経済的DVにあたる可能性が高いといえます。
働かせてくれない・仕事を辞めさせられた
生活費が足らないために働きたいのに働かせてくれない、仕事を続けたいのに強制的に辞めさせられたというケースは、収入を得られないような状況を作り出しているのは金銭面で相手を支配したい行為だと考えられますので、経済的DVにあたる可能性があります。
ただし、代わりに十分な生活費を負担してもらっていて、単に外で働きたいと思っているのに仕事をさせてもらえない場合は経済的DVにあたりません。
自由に使えるお金を渡してくれない
お小遣いが少額のせいで、病院に行けない、同僚と飲みに行けないなど、行動が制限されている状態は、経済的DVに当てはまる可能性があります。
そのほかにも、配偶者は収入のうち生活費以外は自由に消費しているにもかかわらず、ご自身はお小遣いを渡してもらえず、生活費の中から自分のためのものを買うことさえ許されないような場合も経済的DVに当てはまるといえます。
借金を繰り返す・借金を強制される
ブランド品や嗜好品の購入やギャンブルなどの身勝手な理由で、借金を繰り返す行為は経済的DVにあたる場合があります。
また、足りない生活費やお小遣いは、自分で借金をして捻出するように強制させる行為も経済的DVといえます。
経済的DVとはいえないケース
状況によっては、経済的DVとはいえないケースもあります。
例えば、次のようなケースが挙げられます。
- 生活費を入れてくれないが、自分自身にも十分な収入があるため生活が苦しいわけではない
- 外で働くことは許してもらえないが、きちんと生活費を負担してもらっている
- 健康上問題はないのに働いてくれないが、自分自身の収入のみで家庭をきちんと維持できている
経済的DVは離婚の原因として認められるのか
経済的DVが離婚原因でも、夫婦間の話し合いや離婚調停で夫婦双方が離婚について合意できれば離婚できます。
また経済的DVが裁判上の離婚が認められる事由(法定離婚事由)に該当すれば、相手が離婚に同意しなくても裁判によって離婚できます。
民法770条1項で定められている「法定離婚事由」は次のとおりです。
- 配偶者に不貞な行為があったとき
- 配偶者から悪意の遺棄があったとき
- 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
- 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由があるとき
(2)の悪意の遺棄とは、正当な理由なく夫婦間の義務を履行しないことをいいます。
生活費を渡さない、借金を繰り返すなどして生活を困窮させる行為である経済的DVは、夫婦間の法律上にある扶助義務に反する行為になり得ますので、法定離婚事由のうち、「配偶者に悪意の遺棄があったとき」にあてはまる可能性があります。
また、経済的DVは相手を経済的に支配する行為であるため、結果として修復の余地がないほど、婚姻生活が破綻している状況であれば、「婚姻を継続し難い重大な事由」にあてはまる可能性があります。
経済的DVで離婚するときに加害者に請求できるもの
経済的DVが原因で離婚をする際に、加害者である配偶者に請求できるのは次のようなものが挙げられます。
- 婚姻費用
- 慰謝料
- 財産分与
- 養育費
次項でそれぞれ詳しく解説していきます。
婚姻費用
婚姻費用とは、夫婦関係を維持するために必要な費用のことです。
本来、夫婦には、お互いの収入に応じて相手の生活を扶助する義務があります。
そのため、配偶者に十分な収入があるにもかかわらず、必要な生活費を渡してもらえない場合、婚姻期間中であれば婚姻費用の請求を行うことができます。
同居しているか、別居しているかに関わらず婚姻費用は請求できますが、基本的に「請求した時点」が請求の起算点となります。
請求時より遡って請求するのは難しいため、なるべく早く請求することをお勧めします。
慰謝料
慰謝料とは、相手から受けた不法行為により被った精神的苦痛を慰謝するためのお金のことです。
経済的DVが夫婦にある扶養義務をきちんと果たさない不法行為にあたる場合は、被った精神的苦痛に対して慰謝料請求できます。
ただし、慰謝料を請求するためには、経済的DVを受けた事実を証明できる客観的な証拠が必要になります。
また、慰謝料の金額は、経済的DVの態様、悪質性、期間など個別の事情によって変動します。
経済的DVの証拠になるもの
経済的DVを受けている事実を証明できる客観的な証拠は、具体的に次のようなものが挙げられます。
- 十分な生活費を渡されていないことがわかる預金通帳
- 収支を記載した家計簿
- ブランド品や嗜好品などを頻繁に購入している事実がわかるクレジットカードの明細
- 借金の借用書
- お金に関して言い争っているときの音声データ
- 経済的DVについて記載した日記、メモ
- 経済的DVが原因で精神疾患を患った際の医師の診断書、通院記録 など
財産分与
財産分与とは、婚姻中に夫婦が協力して形成して維持してきた財産を離婚するときや離婚後に公平に分配することをいいます。
財産分与は離婚理由が何であろうと、財産の名義人が夫婦のどちらであろうと、基本的には2分の1ずつ分け合います。
経済的DVで離婚する場合は、財産分与で揉める可能性も高いので、対象となる財産や割合の計算方法なども含め、法律の専門家である弁護士に事前に相談して進めることをお勧めします。
養育費
養育費とは、子供が経済的・社会的に自立するまで養育・監護にかかる必要な費用をいいます。
離婚する際に、ご自身が子供の親権者となった場合は、経済的DVをする相手であっても、子供と離れて暮らすことになった親に対して、養育費を請求できます。
離婚をしても、子供の親であることに変わりはなく、扶養義務を負うためです。
なお、養育費の相場を知るには、一般的に父母双方の収入・職業や子供の人数、年齢を考慮して算出する「養育費算定表」を利用すると算定できます。
養育費算定表は裁判所のウェブページで公開されていますので、簡単に調べられます。
経済的DVと離婚に関するQ&A
勝手に連帯保証人にされてしまった場合は経済的DVに該当しますか?
ご自身の同意もなく、無断で連帯保証人にされてしまい、借金を背負わされるような状況になった場合は、経済的DVにあたる可能性があります。
原則、同意のない連帯保証契約は無効です。
対処法として、まずは債権者に対して、内容証明郵便を送付して連帯保証契約の無効を主張することになります。
主張が認められない場合は、裁判で争うことになると考えられます。
専業主婦で経済的DVを受けているため、収入や貯金がありません。それでも子供の親権はとれますか?
専業主婦で収入や貯金がなくても、子供の親権を獲得できる可能性は十分にあります。
父母のどちらが親権者になるかを決めるときは、父母の意向や都合ではなく子供にとってどちらが親権者になったほうが、「子供の利益(幸せ)に適うか」を考慮して決めます。
経済力は安定していることに越したことはありませんが、さほど重視されない傾向にあります。
経済力の低い方が親権者になっても、養育費や、ひとり親家庭を支援してくれる公的な扶助制度があるため、経済的不足を補って生活を維持できると考えられるからです。
何よりも、今までの監護実績や子供への愛情などを考慮されて、「子供のために母親が親権をもったほうがいい」と判断された場合は親権を獲得できるでしょう。
経済的DVの加害者と離婚するために別居を考えていますが、DVシェルターには入れますか?
DVシェルターは、配偶者からDVを受けた方を一時的に保護する施設なので、経済的DVでもDVシェルターに入れる可能性はあります。
ただし、DVシェルターへの入居は、今すぐ保護しなければならないと判断されることが条件になります。
よって、殴る、蹴るといった身体的DVは緊急に保護する必要性があると判断されて優先的に入居できると考えられます。
一方で、経済的DVは、緊急の保護の必要性が認められないケースもあり得ます。
また入居できるとしても、収容人数の関係で身体的DVの被害者よりも後回しになる可能性があります。
給料が下がってしまい生活が苦しい状況で、妻に経済的DVだと言われてしまいました。妻は働けるのに働いていません。これでも私が悪いのでしょうか?
決して、ご自身(夫)は悪くないと思われます。
何ら夫に過失がなく給料が下がってしまった場合は、当然に渡せる生活費も少なくなることから、意図的に金銭の自由を奪っているわけではないため、経済的DVにはあたらないからです。
むしろ、夫の給料が下がってしまって生活が苦しく、働ける状況なのに働いていない妻のほうが、夫婦間にある協力義務や扶助義務に違反していると判断されて経済的DVにあたる可能性が高いといえます。
経済的DVを理由に離婚を検討しているときは弁護士に相談してみましょう
離婚原因が経済的DVの場合、配偶者に委縮してしまって、なかなか離婚を切り出せない方が多くいらっしゃいます。また、いざ離婚の話を進めていけたとしても、財産分与や慰謝料、養育費といったお金に関する問題で揉める方は多い傾向にあります。
経済的DVを理由に離婚を検討している方は、ぜひ弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、代わりに配偶者と交渉ができますので、依頼者様の精神的負担が軽減され、有利な内容で解決できる可能性が高まります。
また調停や裁判などの裁判所の手続きに進んだ場合も、煩雑な手続きは一任できますので、安心です。
そもそも、ご家庭によって経済状況は様々ですので、必ずしも経済的DVにあてはまるとは限りません。
弁護士であれば、個別の家庭事情を確認して、適切に判断したうえで、最善の解決方法をご提案します。まずは、お気軽に弁護士法人ALGにお問合せください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)