
監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
離婚を考える原因には不貞行為やDV等いくつもの種類がありますが、モラハラも被害者にとって深刻な行為であり、その被害を自覚したら離婚したいと考えるのは当然のことです。しかし、モラハラはそもそもその定義が判然とせず、家庭内で行われ、目に見える証拠が残りづらいという特徴があることから、モラハラによって離婚するためには、具体的な事実と、それを裏付ける適切な証拠を確保しなければなりません。
ここでは、モラハラの証拠として有力なものや、証拠を集めるときに注意するべきこと等について解説します。
目次
モラハラが原因で離婚する場合は証拠が重要
離婚する場合には、夫婦で話し合って協議離婚をするのが一般的です。しかし、モラハラの加害者は、自分が悪いことをしていると思っていないケースも少なくないため、離婚する理由や必要性の存在を否定することが多く、協議離婚が成立しにくいことがあります。そこで、離婚調停を申し立てることや、最終的には離婚裁判を起こすことも視野に入れて準備をする必要があります。
しかし、モラハラはその存否や内容につき争いになりやすいので、調停委員や裁判官を説得するためには、証拠を収集することが重要になります。モラハラ加害者の中には外面が良い者も多く、はっきりとした証拠が無ければ、家の中で酷い言動をしていることを周囲に理解してもらえないケースもあることを心に留めておく必要があるでしょう。
モラハラの証拠になるもの
モラハラの証拠として、相手にどのような言動をされたのかについて、詳細な日記等を残す方法があります。また、家の中の様子を録画や録音しておくことが有効です。他にも、メールやSNSの内容にひどいものがあればしっかりと保存し、体調に悪影響が生じている場合などは心療内科へ通院して診断書等の記録も作成しておくべきです。
モラハラの内容を記載した日記やメモ
モラハラの内容を、日記やメモ等の文字で記録する方法があります。この方法であれば、無視するような行為も記録に残せます。文字で記録を残す場合には、なるべく手書きで、具体的に残す必要があります。これは、電子的なデータだと、後から創作したり誇張したりすることが容易であるため、証拠としての信用性が低いと思われてしまうおそれがあるからです。
日記の記載と関連する資料などがあれば、一緒に保存しておくとわかりやすいでしょう。
書き方に気を付けるべきこと
モラハラの証拠となる日記等に記載するときには、必ず日付を入れてください。さらに、その日の日常的な出来事や、世の中で起こったことも併せて記載しておくと、後からねつ造することが難しくなるため、信用性が上がります。記載内容も、具体的であるほどわかりやすく、説得力が生まれます。
なお、記載内容を付け加えたり書き直したりすることは、改ざんを疑われるおそれがあるのでやめておくべきでしょう。
モラハラの現場を録音・録画したデータ
物的証拠の乏しいモラハラについては、相手方の言動を録音・録画することが有効です。しかし、相手が激高して暴言を1回だけ吐いたとしても、その瞬間だけを録音してモラハラを証明することは難しいでしょう。というのも、その暴言の前後の状況が分からなければ、「挑発されて暴言を吐いてしまった」といった反論を許してしまうからです。
相手方の反論を防ぐためには、なるべく多数回、または長時間の録音・録画によって、相手方の雰囲気や普段の態度、日常における言動、そして暴言を吐いたのであればその文脈等を証明する必要があります。
なお、モラハラを証明するための録音・録画については、別居している相手の家にICレコーダーを設置するような方法については違法だと判断されるリスクがあります。一方、自身と相手方との会話を録音するのであれば、プライバシーの侵害に該当するおそれは低いと考えられます。
モラハラ夫(妻)から届いたメールやSNS
相手方から送られてきたメールやSNSへの書き込みは、内容や日時を改ざんすることが難しいのでモラハラの証拠となる場合があります。そのメールの内容が、些細なミスを過剰に責めたり、私的な外出を許さなかったり、人格否定や家族・友人を馬鹿にするような、モラハラに該当する内容であれば証拠になる可能性があります。同様に、相手方からモラハラに該当するメモや書き置きを示された場合には、証拠として残しておきましょう。また、あまりにも頻繁に電話をかけてくる場合には、その着信履歴が束縛の強さの証拠になる場合もあります。
もしも、相手方による悪口等をやめるように求めるメールに対して、「お前が悪い」といった内容のメールを返してきた場合には、モラハラが行われている証拠の1つになることもあります。ただし、証拠を作るという目的の方を先立たせてしまい、例えば相手方を挑発するような内容のメールを送ることは、かえって逆効果となる懸念があります。
精神科への通院履歴や医師の診断書
モラハラによって気分が落ち込み、動悸や震え等の身体的症状が出る状況に陥ってしまった場合には、心療内科や精神科へ通院して医師の診断書を受け取っておくと、証拠として利用することができます。特に、医師に対して自身が受けているモラハラの内容を伝えておくことで、その内容を診断書やカルテに記載してもらうことなどができれば、証拠としての価値が高まるでしょう。
子供や友人などによるモラハラの証言
家庭内における相手方のモラハラについては、友人や親族等に相談しておくことで、後で証言してもらうことが可能になります。家庭内の出来事については、見聞きした子の証言も考えられます。ただし、基本的には大人の紛争に子を巻き込むことはあまり好意的に見られませんし、その証言内容が事実かどうかも慎重に判断されるので、多分に子の年齢等の考慮、それが高い方が信用されやすい傾向があるでしょう。子が味方であっても安心せずに、その他の証拠も用意しておくのがいいと考えられます。
警察・公的機関への相談履歴
以前であれば、警察は家庭内のことには介入しませんでしたが、近年はDVについて介入するようになってきており、身体的暴力を伴わないモラハラ等についても相談できる窓口が設けられています。他にも、DVセンター等の公的な窓口に相談することにより、自分の身の安全を確保することはもちろん、法的な争いに発展した際には、相談履歴を証拠の1つとして活用することが考えられます。
モラハラの証拠が集めにくい理由
モラハラは、基本的に言葉や態度等による嫌がらせであるため、身体的DVのように身体の傷や痣といった証拠が残りません。また、相手のモラハラを記録に残そうと思っても、相手が暴言を吐く瞬間を見極めて録音等を行うことは難しいでしょう。
そもそもモラハラは、被害者に被害を受けている自覚が芽生えにくいことも少なくないので、証拠を残すための行動を起こすのが遅れることがあります。さらに、加害者が自分は悪くないと考えているケースも少なくないため、モラハラの証拠収集を妨害されるリスクや、逆上するリスクがあることにも注意が必要です。
証拠を集める上での注意点
モラハラは、1つ1つの言動が決定的なものとならず、長期間の無視のような、証拠を残すのが難しい行為を含むものです。また、被害者が証拠を残そうとすると、加害者はそれを察知して隠滅しようとするかもしれません。そのため、電子データはクラウドサービスを利用して残すことや、スマートフォンを壊されたときのためにバックアップを友人等に預けること等により証拠を残す必要があります。
そして、最も大切なことは、自分の身に危険が及ぶ前に家を出る等、証拠の確保よりも身の安全を優先することです。
モラハラの証拠がない場合の対処法
モラハラ加害者の中には、被害者が証拠を残そうとしていないかを確かめる者がいます。また、モラハラの後で急激に優しくなる「ハネムーン期」があり、これによりモラハラと決断しきれなくなる場合もあります。これらによって、証拠を残しておくのが難しかったり、証拠を残すための行動が遅れたりすることによって、十分な証拠を用意できないことがあります。
相手方のモラハラの証拠が無かったとしても、離婚に合意してくれれば協議離婚が可能です。しかし、モラハラ加害者は自分が悪いと思っておらず、協議離婚に応じてくれないことが多いため、最終的には裁判で離婚することが可能な証拠を用意しておくことが望ましいです。そのために、弁護士と相談して慎重に証拠を集めることや、探偵等に依頼してモラハラの証拠を確保することが必要になります。
モラハラの証拠があれば、慰謝料も請求できるのか
モラハラは被害者に精神的苦痛を与える行為なので、モラハラを受けたら慰謝料を請求できる可能性があります。その金額は個別のケースによりますが、数十万円~数百万円程度でしょう。金額が変動する要因として、モラハラが行われた期間やモラハラの悪質性、精神疾患を発症したか否か、モラハラ加害者の収入等が考えられます。モラハラ離婚の証拠に関するQ&A
モラハラで離婚するときの証拠に関してよくある質問について、以下で解説します。
子供が配偶者からモラハラを受けていた場合、離婚するには証拠が必要ですか?
モラハラ加害者は、自身の配偶者だけでなく、子にもモラハラをする場合があります。この場合にも、モラハラの証拠が残りづらいことは同じであり、子自身の証言の信用性が高いとは言えないため、積極的に証拠を収集することが望ましいです。しかし、モラハラは虐待であり、これを受けることによって子の将来に悪影響を及ぼすおそれがあります。なので、まずは子を守ることを優先するべきです。 証拠が無いと、モラハラを根拠としてすぐに離婚することは難しいですが、別居が長期間に及べば婚姻関係の破綻により離婚を請求することは可能です。証拠があった方が慰謝料を請求するとき等に有利である場合もありますが、何よりもご自身と子を守ることを優先して対応してください。
配偶者とのLINEの内容が削除されていても、友人などにモラハラの内容が書かれたLINEを転送していた場合はモラハラの証拠になりますか?
友人等の知り合いに、配偶者から送られてきたメール等を転送しておくことは、証拠の確保という意味では有効です。相手方は、被害者が証拠を残そうとしていることを察知すると、それを隠滅しようとするおそれがあるため、第三者に証拠を預かってもらうのは有効な手段です。また、預けられる相手がいなかったとしても、クラウドサービスを利用して証拠を残しておくことも考えられます。 また、モラハラを受けたときに、その内容をすぐにメール等で知り合いに送っておくと、後でその内容が証拠として使える場合があります。ただ、日常的にモラハラの内容を知り合いに送るのは迷惑にもなりうるので、きちんと相手に説明、依頼をし、重要な内容に絞って送ると、負担が過度にならず良いでしょう。
日記や録音データ等の証拠は、長期間集めるべきですか?
可能であれば、モラハラの証拠はなるべく長期間に渡って集めることが望ましいです。わずかな証拠だけであれば、反復性や継続性を立証しがたいですし、例えば日記やメモの場合にねつ造を主張されやすくなります。また、音声データや画像データについても、1回や2回の記録だけでは「夫婦喧嘩の一部である」といった反論を許してしまうので、記録したデータの量はなるべく多い方が良いです。長い間、頻繁にモラハラが行われていたことを証明するために十分な証拠が必要だからです。 相手方が、毎日のように同じ言葉によってモラハラをする場合には、データの重複とは考えず、記録は消さないようにしてください。 なお、録画や録音はそれ自体を証拠とできず、反訳(文字書下ろし)や画面切り取りを経ることとなるので、証拠を確保して終わりとせず、それを整理し、要点の抽出まで行っておくのがいいです。
離婚の際に必要なモラハラの証拠について、経験豊富な弁護士がアドバイスさせていただきます
モラハラによる離婚をお考えの場合には、弁護士にご相談ください。モラハラの加害者は、常識が通用しなかったり、不当な要求を当然のように行ったりすることがあります。また、証拠の収集を察知して妨害したり、自分の方がモラハラの被害者であるかのように装ったりする等、頭が回る場合も少なくありません。モラハラを通じて形成される力関係などの影響もあり、被害者だけで対峙するのは難しい相手であることが多いため、専門家の協力が必要です。
離婚問題に詳しい弁護士であれば、被害者の心を支えながら共に戦うことができます。また、モラハラ加害者の手口を知っており、証拠の収集にも協力できる場合があるので、ぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)