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離婚問題

「接近禁止命令」でDVから身を守る|申し立ての流れや注意点

宇都宮法律事務所 所長 弁護士 山本 祐輔

監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士

配偶者から暴力や脅迫を受けて、生命や身体に重大な危害を受けるおそれがある方には、「接近禁止命令」という身の安全を確保するための制度があります。

そこで本記事では、

  • そもそも接近禁止命令とは?
  • 接近禁止命令の申立ての流れ
  • 接近禁止命令の申立ての流れ

など、配偶者から暴力や脅迫を受けて苦しんでいる方の参考になるように「接近禁止命令」に関して、詳しく解説していきます。

接近禁止命令とは?

接近禁止命令とは、配偶者から暴力を振るわれて生命や身体への危険がある場合に、暴力を振るっている配偶者の接近を禁止する裁判所の命令です。

DV防止法(正式名:配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律)に基づく保護命令のひとつです。

接近禁止命令が裁判所から発令されると、加害者は保護命令の効力が生じた日から6ヶ月の間、被害者の身辺のつきまとい、または被害者の住居や職場など通常所在する場所付近の徘徊をしてはならないと命じられます。

違反した場合

接近禁止命令に違反した場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科せられます。

懲役や多額の罰金などの刑事罰を科すことによって、つきまといや待ち伏せなどを抑制する効果が期待できます。

接近禁止命令が裁判所より出ると、裁判所から管轄の警察署やDVセンターに連絡がいくシステムになっています。

接近禁止命令が出ているにも関わらず、命令に違反して周辺を徘徊していたり、つきまといをしたりするような場合は、自分で対応せずに警察に通報すると、迅速に対応してくれるはずです。

なお、偶然加害者とばったり遭遇した場合は、相手に罪を問うことはできません。

ただし、偶然遭遇したことをきっかけに、声をかけられた、付きまとわれた、偶然会って以来何度も会うなどの事情がある場合は、接近禁止命令に違反しているおそれがありますので、警察または弁護士に相談してください。

接近禁止命令が出る条件

接近禁止命令は、厳格な条件があり、誰とでも接近禁止命令が発令されるわけではありません。

具体的には、次の条件をすべて満たす場合に認められます。

  • 相手と婚姻関係にある(内縁関係含む)または、恋人と同棲関係にある
  • 婚姻中または同棲中に相手から暴力・脅迫を受けた
  • 今後も生命・身体に重大な危害を受けるおそれがある

接近禁止命令を申し立てる際には、上記の事実を立証する必要があります。

接近禁止命令以外の申し立てておくべき保護命令

被害者本人である申立人への接近禁止命令だけでは防ぐことができない場合は次のような保護命令を申し立てることができます。

  • 電話等禁止命令
  • 子への接近禁止命令
  • 親族等への接近禁止命令
  • 退去命令

上記の保護命令は、申立人への接近禁止命令の実効性を確保する付随的な制度のため、単独で申し立てることはできません

申立人への接近禁止命令と同時か、同命令がすでに出されている場合にのみ発令されます。

各保護命令については、次項で詳しく解説していきます。

電話等禁止命令

電話等禁止命令は、接近禁止命令の効力が生じた日から6ヶ月間、次の内容の行為を禁止する保護命令となります。

  1. 1.面会の要求
  2. 2.行動を監視していると思わせるような事項を告げ、または知り得る状態に置くこと
  3. 3.著しく粗野または乱暴な言動
  4. 4.無言電話または緊急やむを得ない場合を除いて、連続して電話、FAX、電子メールを行うこと
  5. 5.緊急やむを得ない場合を除き、午後10時から午前6時までの間に電話、FAX、電子メールを行うこと
  6. 6.汚物、動物の死体その他の著しく不快または嫌悪の情を催させるようなものを送り、または知り得る状態に置くこと
  7. 7.名誉を害する事項を告げ、または知り得る状態に置くこと
  8. 8. 性的羞恥心を害する事項を告げ、もしくは知り得る状態に置き、または性的羞恥心を害する文書、図画その他の物を送付し、もしくは知り得る状態に置くこと

子への接近禁止命令

子への接近禁止命令とは、被害者本人である申立人への接近禁止命令の期間中に、被害者と同居する未成年の子供へのつきまといや子供の住居や学校などの近くを徘徊することを禁止する命令を指します。

子への接近禁止命令は、相手が子供を連れ戻す疑いがあるなどして、子供の身上を監護するために被害者が相手と会わざるを得なくなってさらに暴力や脅迫などの被害を受けるおそれがある場合に被害者を保護するための命令です。

したがって単独では求めることはできず、接近禁止命令が同時に出る場合か、すでに出ている場合に発令します

なお、子供が15歳以上の場合は、子供の同意がある場合に限ります。

親族等への接近禁止命令

親族等への接近禁止命令とは、被害者本人である申立人への接近禁止命令の期間中に、被害者の親族その他被害者と社会生活において密接な関係にある者の身辺のつきまとい、または住居、勤務先その他その通常所在する場所の付近を徘徊してはならないことを命ずる保護命令を指します。

相手が親族等の住居に押しかけて著しく粗野または乱暴な言動を行っているなどして、被害者が相手と会わざるを得なくなってさらに暴力や脅迫などの被害を受けるおそれがある場合に被害者を保護するための命令です。

したがって単独では求めることはできず、裁判所から接近禁止命令と同時に出る場合か、すでに出ている場合に発令します。

なお、当該親族等が15歳未満の子供である場合を除いて、当該親族等の同意があるときに限ります。

退去命令

退去命令とは、被害者と加害者が同居している場合に、命令の効力が生じた日から2ヶ月の期間、住居から退去すること及びその住居の付近を徘徊してはならないことを命ずる保護命令を指します。

言い換えれば、被害者が住環境を調整するための猶予をもたせるための保護命令です。

2ヶ月が経過してしまうと、加害者は、一緒に住んでいた自宅に戻れますので、退去命令が出ている間に加害者にばれないような場所へ引っ越しを済ませる必要があります。

接近禁止命令の申立ての流れ

接近禁止命令の申立ては次のような流れになります。

  1. ① DVセンターや警察への相談
  2. ② 裁判所に申立てを行う
  3. ③ 口頭弁論・審尋
  4. ④ 接近禁止命令の発令

次項よりそれぞれ詳しく解説していきます。

①DVセンターや警察への相談

まずは、配偶者暴力相談支援センター(DVセンター)または警察に相談します。

接近禁止命令の申立てをするにあたって「DVセンターまたは警察に相談した」という事実が必要になるためです。

DVセンターの場合は下記表を参考にして、最寄りの支援センターに予約したうえで相談に行きます。

警察の場合は、最寄りの警察署に直接行くか、相談ホットライン「♯9910」に架電して相談を行います。

配偶者暴力相談支援センターの機能を果たす施設一覧

相談実績がない場合

DVセンターや警察への相談経験がない、相談したくないなど相談実績がない場合、申立てをするためには、公証役場に行って、加害者から暴力・脅迫を受けた事実を被害者の供述として記載してもらい、その供述が真実であることを公証人の面前で宣誓して作成した「宣誓供述書」が必要になります。

作成した宣誓供述書は、申立書に添付することになります。

②裁判所に申立てを行う

申し立てができるのは本人だけ

申立てができるのは、身体に対する暴力や脅迫を受けた被害者本人のみです。

弁護士であれば、被害者の代理人として申立て可能ですが、親族や友人などが本人の代わりに申し立てることや被害者の代理人として申し立てることはできませんので注意が必要です。

申立先

申立先は次の3つのいずれかの地方裁判所になります。

  • 相手方の住所地(わからない場合は居所)を管轄する地方裁判所
  • 申立人の住所または居所を管轄する地方裁判所
  • 暴力はまたは脅迫が行われた地を管轄する地方裁判所

必要書類

申し立てるために必要な書類は以下になります。

  • 保護命令申立書
  • 婚姻関係にある場合・・・戸籍謄本または続柄のわかる全員の住民票
  • 婚姻関係にない場合・・・申立人の住民票、申立人と相手方が生活の本拠を共にしていたことを証明する資料(相手方の住民票、電気・水道・電話料金の支払請求書の写しなど)
  • 暴力・脅迫を受けたことを証明する証拠書類(診断書、傷の状況や日付がわかる写真、陳述書など)
  • 相手方から今後身体的暴力を振るわれて生命、身体に重大な危害を受けるおそれが大きいことを証明する証拠書類(本人や第三者の陳述書など)

【子の接近禁止命令の申立てをする場合で子供が15歳以上の場合】

  • 同意書
  • 子供の署名が本人のものであることがわかるもの(子供が日常的に使用し、氏名を書いている学用品など)

【親族等への接近禁止命令の申立てをする場合】

  • 同意書
  • 親族等の署名押印が本人のものであることがわかるもの(印鑑証明書、自筆の手紙など)
  • 親族等の戸籍謄本、住民票など、申立人との関係を証明する資料

【過去に保護命令を申し立てたことがある場合】

  • すでに発令された保護命令謄本
  • 過去に申し立てた保護命令申立書写し

申立てに必要な費用

申し立てする際に裁判所に納める必要な費用は次のとおりとなります。
  • 収入印紙・・・1000円
  • 郵便切手・・・2000円~4000円程度

裁判所によって金額や内訳は異なりますので、申立先の裁判所にお問合せください。

例えば、東京地方裁判所の場合は2300円、宇都宮地方裁判所の場合2500円となります。

③口頭弁論・審尋

申立書一式の受付審査後に、申し立てた当日または直近の日に申立人が裁判所に出廷して、裁判官による面談が行われます。

面談では、裁判官から申立書や提出証拠をもとに、申立てに至った経緯や被害状況などの詳しい事情を聞かれます。

申立人の面談から約1週間後に、裁判所が相手方を呼び出し、口頭弁論または審尋を実施し、暴力や脅迫の真偽について意見を聞きます。

裁判所は、十分な心証を得られたときは、相手からの審尋した日に接近禁止命令を発令するかどうかを判断します。

ただし、双方の言い分が大きく食い違っている場合は、再度双方から詳しい事情を聞くために審尋が行われることもあります。

他方で身体や生命に危険が及ぶおそれがあるなど緊急を要する事情がある場合は、口頭弁論・審尋を行わずに、接近禁止命令を発令する場合もあります。

④接近禁止命令の発令

裁判所が接近禁止命令の要件を満たしていると判断すれば、口頭弁論や審尋の際に、相手方に直接、接近禁止命令を言い渡し、その場で効力が生じます。

もし、相手方が、口頭弁論や審尋に出席しなかった場合は、郵便で相手方の自宅に決定書を送達します。

ただし、申し立てたら必ずしも接近禁止命令が発令されるわけではありません。

近禁止命令の要件を満たさないと判断された場合には、発令されません。

接近禁止命令における注意点

発令されるためにはDVの証拠が必要

接近禁止命令を発令してもらうためには、有力な証拠が必須です。

例えば、次のような証拠が挙げられます。

  • 医師が作成した診断書(外傷を負った場合、継続的な暴力・脅迫により精神疾患を患った場合)
  • 怪我の写真
  • 暴力や脅迫を受けているときの音声データ、動画データ
  • 経緯や被害内容の詳細を記載した陳述書(被害者本人、親族など)

など

他方で申立人本人の陳述書以外の証拠がないために客観的な証拠が不十分だとされる場合や、証拠はあるけれども申立てから数ヶ月前の暴力や脅迫を受けた証拠しかなく将来生命・身体に危害を受けるおそれが大きいとはいえないとされる場合には、接近禁止命令が発令されない可能性もあります。

相手に離婚後の住所や避難先を知られないよう注意

申立書は、相手方にも送付するので、再び危害が及ぶのを防ぐためにも離婚後の住所や避難先を記載するのは適当ではありません。

防止策として、実際に住んでいる離婚後の住所や避難先を記載せずにかつて相手と同居していた住所や住民票上の住所を記載して秘密にする方法があります。

適当な住所の記載方法については、あらかじめ裁判所に相談することをお勧めします。

また、提出した証拠書類も、相手方に送付するので、証拠自体に秘密にしたい現住所や避難先などが記載されている場合は、そのまま証拠書類などとして提出せずに、秘密にしたい部分を黒塗りにしてコピーを作成して、そのコピーを提出するのが有用です。

モラハラは対象にならない

現時点では、相手に対して暴言を吐く、罵倒する、無視するなどといったモラハラ(精神的DV)行為は、接近禁止命令の対象外となっています。

モラハラもDVの一種ではありますが、接近禁止命令の対象になるのは、身体に対する暴力または生命・身体に対する脅迫を受け、今後生命や身体に重大な危害を受けるおそれが大きいときに限って認められているからです。

モラハラの被害から逃れるために、接見禁止命令の発令は難しいですが、DVセンターの相談の対象にはなりえますので相談するようにしましょう

接近禁止命令に違反した場合の対処法

相手が接近禁止命令に違反して、引き続き、危害を与えてくるようであれば、すぐ警察に相談してください。

裁判所より接近禁止命令が発令されると、直接、裁判所から警察署に通達がなされていますので、しかるべき対応をしてくれるでしょう。

ただし、偶然外出中に遭遇してしまったような場合は、接近禁止命令に違反したとはいえず、相手を罪に問うことはできません。相手と会いそうな場所へは行かないなど、注意して生活する必要があります。

接近禁止命令に関するQ&A

接近禁止命令の期間を延長したい場合はどうしたらいいですか?

接近禁止命令の期間の延長ではなく、再度、接近禁止命令の申立てを行う必要があります。

接近禁止命令を延長できるケースとしては、すでに発令を受けているものの、加害者から「保護命令が終わったら覚えとけよ」、「ただで済ませないからな」などと発言があり、有効期間終了後も身体的暴力が加えられるおそれがあると判断された場合になります。

単に、「怖いから」というような抽象的な理由では、認められません。

再度の申立てとなるため、再びDVセンターや警察への相談、もしくは公証役場での宣誓供述書の作成が必要です。

必要書類としては、通常の接近禁止命令の申立てに必要な書類に加えて、前回提出した保護命令申立書と保護命令謄本が必要となります。

そして、裁判所が申立書類一式の受付審査後に口頭弁論や審尋も再度行われることになります。

また、現在発令されている命令の効力期間の終了と、再度申し立てた命令の開始時期が開かないように申立てを行うように注意が必要です。

接近禁止命令はどれくらいの距離が指定されるのでしょうか?

接近禁止命令は、具体的な距離やエリアが指定されるわけではありません。

被害者である申立人の身辺へのつきまとい、住居や勤務先の付近を徘徊するといった日常的な行動範囲への接近を禁止するものです。

離婚後でも接近禁止命令を出してもらえますか?つきまとわれて困っています。

加害者の暴力、脅迫、つきまとい行為などが離婚する前からあったケースで、引き続き生命や身体に重大な危害を受けるおそれが大きいと思われる場合は、離婚後に接近禁止命令の申立てを行って、要件を満たしていれば裁判所から発令してもらうことは可能です。

なお、婚姻期間中に暴力、脅迫、つきまとい行為はなく、離婚してからはじまった場合は対象外になります。

離婚してから暴力、脅迫、つきまとい行為がはじまった場合は、接近禁止命令による解決ではなく、警察に被害申告をして刑事事件として立件してもらい刑事的な解決を図るのが有用です。

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DVで接近禁止命令を申し立てる際は弁護士にご相談ください

配偶者や同棲しているパ―トナーから暴力や脅迫を受けて、悩んでいる方はすぐ弁護士にご相談ください。

弁護士であれば、ご自身の安全を確保できるように今後の対応についてのアドバイスを行ったうえで、代わりに接近禁止命令の申立てを行うことができます。

さらに、今後の連絡はすべて弁護士に対してするよう相手に要請します。

そのほかにも別居のサポート、婚姻費用の請求、離婚への準備など様々な問題を一緒に解決していきます。

弁護士を代理人とすれば、今後一切、相手と会うことなく離婚を成立させることも可能です。

暴力や脅迫など危害を及ぼす相手とご自身一人で戦うのは、大変危険です。

弁護士法人ALGは、平穏な日常生活を取り戻せるよう尽力いたします。

宇都宮法律事務所 所長 弁護士 山本 祐輔
監修:弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長
保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)
栃木県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。