監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
実は、妊娠中のタイミングで、離婚の選択を考える夫婦は少なくありません。妊娠中に離婚をしたら、出産後、幼い子供を抱えて生活していかなければならないので、慰謝料をもらって離婚したいと考える方も多いです。
そもそも、妊娠中に離婚したら慰謝料はもらえるのでしょうか?また、養育費や財産分与、親権などはどうなるのでしょうか?
そこで、本記事では、妊娠中に離婚した場合の慰謝料請求について、わかりやすく解説いたします。そのほかにも、養育費や財産分与、親権などの離婚条件についても併せて解説いたします。
目次
妊娠中の離婚で慰謝料を請求できるのか?
「妊娠中に離婚した」というだけでは慰謝料は発生しません。妊娠中という大事な時期に離婚に至ったことは、確かに精神的苦痛になり得ます。
しかし、慰謝料は、相手が婚姻関係を破綻させるような重大な不法行為があった場合に発生します。つまり、妊娠中に離婚することになったとしても、相手に離婚原因があった訳でなければ、必ずしも慰謝料は請求できるとは限りません。
慰謝料請求が認められるケース
妊娠中に離婚をして慰謝料請求が認められるのは次のようなケースです。
- 妊娠中に夫が不貞行為(不倫・浮気)をした
- 夫がDV・モラハラ行為を行った
- 妊娠中の妻を置いて夫が勝手に家を出て帰ってこない
- 正当な理由もなく、妊娠中の妻を家から追い出して帰宅を認めてくれない
- 十分な収入を得ているのに夫が生活費を入れてくれないなど
なお、不貞行為が原因で慰謝料を請求する場合は、配偶者だけでなく不倫相手にも慰謝料を請求することが可能です。
妊娠中に離婚した場合の慰謝料相場はどれぐらい?
通常の離婚慰謝料の相場は、100万~300万円程度とされています。慰謝料の相場に幅があるのは、婚姻年数、離婚原因の悪質性、支払う側の年収など個別の事情によって変動するためです。
慰謝料の金額を決める要素のひとつとして、妊娠中の離婚も、通常より精神的苦痛は大きいとして、相場より高額な慰謝料がもらえる可能性は高くなると考えられます。
中絶に至った場合の慰謝料は?
夫婦が合意したうえで性交渉をして妊娠をして、離婚するので中絶をした場合は、中絶のみを理由に慰謝料請求するのは難しいのが実情です。
なぜなら、不法行為は成立せず、夫だけが責任を負うべきものではないからです。
ただし、同意なく性交渉を強いられて妊娠した場合や、避妊すると嘘をつかれて妊娠した場合などは、夫に不法行為があると考えられますので、慰謝料請求できる可能性があります。
妊娠中の離婚で慰謝料以外に請求できるもの
養育費
養育費とは、子供を監護・教育するために必要な費用をいいます。出産後、離婚をして子供を引き取って育てる親(監護親)は、子供と離れて暮らす親(非監護親)に対して、養育費を請求できます。
ただし、妊娠中に離婚する際の養育費請求は注意が必要です。まず、夫に養育費を請求するための要件として、子供と夫との間に法律上の親子関係が発生していることが必要になります。
法律上の親子関係は、離婚する前に子供が生まれた場合や、子供が夫との離婚後300日以内に生まれた場合は、夫と子供は当然に親子関係が発生しますので、養育費を請求できます。
他方で、離婚後300日経過した後に生まれた場合は、子供と夫との間には法律上の親子関係は生じません。よって、たとえ本当の父親であったとしても、夫に対して養育費を請求することはできません。養育費を請求したい場合は、夫に子供を認知してもらって法律上の親子関係を発生させる必要があります。
なお、別の男性と再婚後に子供が生まれた場合や、子供が再婚相手と養子縁組した場合は、一次的扶養義務者は再婚相手となりますので、夫に養育費を請求することは基本的にできません。
財産分与
財産分与とは、夫婦が婚姻期間中に協力して築き上げた財産を公平に分け合うことをいいます。財産分与は、妊娠の有無や、離婚原因が何かなどは関係ありません。
よって、通常の離婚と同様に公平に財産分与をするのが、基本的な考えです。
妊娠中で思うように働けていない方は、収入がないので財産分与はしてもらえないと思いがちですが、財産の名義はどちらか問いませんし、夫が働いて収入を得られているのは、家事・育児をしっかり行って家庭を支えている妻がいるからこそ、財産を形成・維持できたと考えられるため、基本的に2分の1ずつ分け合うことになります。
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慰謝料以外に出産費用も請求することはできるのか?
離婚後に出産した場合は、出産費用を請求するのは難しいといえます。婚姻中の夫婦であれば、婚姻費用を分担する義務があります。
そして、婚姻費用のなかには、医療費(出産費用)も含まれています。しかし、出産が離婚後となった場合には、出産費用を夫が負担する義務はありません。
任意で支払ってくれることも考えられますので、離婚する前に夫婦間で出産費用の負担について話し合っておくといいでしょう。
妊娠中の離婚で子供の親権と戸籍はどうなる?
親権はどちらが持つ?
子供の親権者は、子供が生まれた時期によって異なります。具体的には、次の3パターンがあります。
- 離婚成立前に生まれた場合・・・両親
- 離婚後に生まれた場合・・・母親
- 離婚後再婚して生まれた場合・・・母親と再婚相手
①のケースは、離婚する際に、子供の親権者を父母のどちらにするか決める必要があります。
➁のケースでは、やむを得ない事情で、母親が子供を監護養育できない状況である場合は、親権者を父親に変更することも認められる場合があります。
しかし、親権者の変更は、夫婦間での合意だけでは変更できず、家庭裁判所で親権者変更の調停または審判を経る必要があります。
子供の戸籍はどうなる?
子供の戸籍は、子供が生まれた時期や母親の再婚の有無によって異なります。具体的には、次の3パターンがあります。
- 離婚後300日以内に生まれた場合・・・夫の子供として、婚姻時の戸籍筆頭者(多くの場合は夫)であった者の戸籍に入籍する
- 離婚後300日経過後に生まれた場合・・・母親の戸籍に入籍する(父の欄は空欄)
- 離婚後に新しい夫と再婚をしてから子供が生まれた場合・・・再婚相手の子供として、再婚後の夫婦の戸籍に入籍する
の場合は、子供の苗字は夫の苗字となってしまい、母親の苗字と子供の苗字が異なってしまいます。子供の苗字を母親の苗字に変えるためには、子供の戸籍を母親の戸籍に移動させる必要があります。
移動させる方法としては、家庭裁判所に「子の氏の変更許可」の申立てを行い、家庭裁判所に変更許可の審判を出してもらいます。
審判後、家庭裁判所に交付してもらった許可審判書を添えて役所に行って子供の戸籍を母親の戸籍に移動させる手続きを行います。
妊娠中の離婚でお困りなら弁護士に相談してみましょう
妊娠中の離婚には、慰謝料だけでなく、離婚後の養育費、親権など様々な問題があります。また、身重の状態で、相手との話し合いや手続きを行うのには、身体的にも精神的にも負担がかかるものです。
妊娠中の離婚でお悩みの方やお困りの方は、ぜひ弁護士法人ALGにご相談ください。弁護士にご相談・ご依頼いただければ、代わりに相手と交渉しますので、時間や労力がかからなくなるだけでなく、精神的負担が大きく軽減します。
また、法的な観点に基づいて主張していきますので、相手から納得を得やすくなり、有利になる条件で解決する可能性が高まります。
ご相談者様とお腹の中にいる赤ちゃんにとって、最適な条件で離婚の成立ができるように、全力でサポートさせていただきます。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)