家庭内別居を理由に離婚できるのか?

離婚問題

家庭内別居を理由に離婚できるのか?

宇都宮法律事務所 所長 弁護士 山本 祐輔

監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士

夫婦関係が悪化して、一緒に家で暮らしているけれども「家庭内別居」の状態にある家庭は決して少なくありません。

そもそも「家庭内別居」とは、夫婦が同じ屋根の下に暮らしながらも、顔を合わせなかったり、会話が無かったりして夫婦としての実態がない状態をいいます。

このまま結婚生活を続けても意味がないので離婚したいと考えた場合は、家庭内別居を理由に離婚はできるのでしょうか?

そこで、本記事では、“家庭内別居を選ぶ理由”や“家庭内別居のデメリット”などと併せて「家庭内別居で離婚することはできるのか」について、わかりやすく解説していきます。

家庭内別居で離婚することはできるのか

家庭内別居をしていて、当事者間で離婚について合意できれば、離婚することはできます。

ただし、合意できない場合は、最終的に離婚裁判を起こして裁判所に認められなければ、離婚することができません。

民法では、次のとおり5つの離婚が認められる事由(法定離婚事由)が定められています。

裁判所では、法定離婚事由がある場合に離婚が認められます。

  1. 配偶者に不貞行為があったとき
  2. 配偶者から悪意で遺棄されたとき
  3. 配偶者が3年以上の生死不明の状態であるとき
  4. 配偶者に回復が見込めない重度の精神病があるとき
  5. その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

見てわかるように、離婚理由が単に「家庭内別居をしているから」というだけでは、法定離婚事由にあてはまらず、裁判で認めてもらうのは難しいといえます。

ただし、家庭内別居に至った理由や家庭内別居中の状況によっては、法定離婚事由のうちの「悪意で遺棄されたとき」や「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」にあてはまると判断され、離婚が認められる可能性はあります。

家庭内別居を選ぶ理由

子供への負担が小さい

子供も一緒に別居すると、引っ越しや転園・転校などが生じて、子供の生活環境が大きく変わることが避けられません。

生活環境の変化によって、子どもが心にダメージを負ったり、将来の教育に影響したりするおそれがあります。

家庭内別居であれば、今までと変わらない生活環境で居られるので、子供に大きな負担は生じにくいです。

ただし、毎日子供の前で夫婦喧嘩をしていたり、夫婦仲が悪いのを感じ取れたりするような状況だと、かえって家庭内別居が子供にとって悪影響を及ぼす可能性があります。

経済的な負担が少ない

別居を行うと夫婦それぞれが住むための自宅を用意しなければいけません。

家庭内別居だと、どちらかが家を出て行くわけではないので、家賃や光熱費などを含めて、余計な衣食住にかかる費用がかからなくて済みます。

また法律上は夫婦のままなので、専業主婦(主夫)やパート勤務の方は、変わらず相手の扶養内で働けて社会保険に改めて入り直す必要もありません。

そして、あくまでも婚姻期間中ですので、夫婦で婚姻費用の分担ができるのも大きなメリットです。

世間体を守れる

家庭内別居だと、周りからは至って何も変わらない普通の夫婦に見えますので、ご近所付き合い、親戚付き合いなどに与える影響は少なくて済みます。

また、別居や離婚をすると職場や親族、友人などから変な詮索や気遣いをされたり、相手によっては非難を受けたりする場合もあります。

家庭内別居だと、現実に同居しているのですから、周囲に夫婦の不仲を気付かれるリスクは少なく、普段どおりの生活を続けられます。

面倒な手続きをせずに済む

別居をすると、住民票の異動、郵便物の転送手続などを行わなければいけません。

子供と一緒に別居するなら、子供の転園・転校の手続もしなければいけません。

また離婚をするとなると、戸籍に関する手続、公的支援制度に関する手続などさらに様々な手続を行わなければいけません。

家庭内別居だと、煩わしい手続をする必要はありませんので、時間や手間がかかりません。

家庭内別居のデメリット

同じ家にいるだけでストレスを感じる

家庭内別居は、夫婦が顔を合わせることがほとんどなくても、同じ屋根の下で一緒に暮らしている状態です。

ちょっとした物音や台所・トイレ・風呂などの共有するものの使い方、子供の接し方など直接相手と接触しなくても些細な事柄でストレスが溜まっていきます。

直してほしい点があっても、直接注意することでさらにストレスを感じてしまい、多くのケースでは我慢してやり過ごすことになります。

もっとも、「同じ空気を吸うのも嫌だ」という状況まで夫婦関係が険悪な状況の場合は、些細な事柄がなくても、同じ屋根の下に住んでいるだけでストレスになってしまうこともあり得ます。

家庭内別居を理由に離婚を認めてもらうことは難しい

離婚について相手と合意できなければ、最終的に離婚裁判で裁判所に離婚を認めてもらう必要があります。

離婚裁判では、離婚原因が民法770条に定められている法定離婚事由にあてはまらなければいけません。

例えば、不倫された、悪意の遺棄(生活費を入れてくれない、家事・育児を放棄するなど)という事情がない場合は、「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」として、婚姻関係は破綻しており修復が不可能または著しく困難な状態だと認めてもらうしかありません。

婚姻関係の破綻を認めてもらうには、別居の有無が大きく影響します。

家庭内別居は、かたちの上では「同居」ですから、別居と同視できるくらいに夫婦の共同生活の実態がないことを明らかにしない限りは、婚姻関係が破綻しているとは認められません。

よって、家庭内別居では、離婚が認められない可能性が高いです。

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家庭内別居から完全別居する場合の注意事項

家庭内別居から完全別居する場合には注意すべき点があります。

主に次の3つの点が挙げられます。

  • 別居することについて相手の同意を得ておく

    正当な理由もなく勝手に家を出ると、法定離婚事由のひとつである「悪意の遺棄」にあてはまるおそれがあり、場合によっては離婚する際に慰謝料を請求されたり、不利な状況になったりするおそれがあります。

  • 共有財産を調べておく

    別居をすると、相手名義の預貯金の通帳や保険証券などを確認しづらくなります。完全別居する前に、夫婦の共有財産を調べておくと、離婚する際に適正な財産分与ができる可能性が高くなります。

  • 相手に不倫やDV・モラハラなどの有責行為がある場合は証拠を集めておく

    別居すると相手の行動が掴みにくくなりますので、取得しやすいうちに相手に離婚原因が存在すること、相手に慰謝料請求の根拠があることの証拠を収集しておけば、離婚する際に有利に進められる可能性が高まります。

家庭内別居と離婚に関するQ&A

家庭内別居をしていた場合、財産分与の対象になるのはいつまでですか?

家庭内別居をしていた場合は、財産分与の対象となるのは、「離婚した時点まで」、もしくは「別居した時点まで」になります。
そもそも財産分与の対象となるのは、婚姻期間中に夫婦で協力して築き上げた財産です。
家庭内別居中であっても、同じ屋根の下に住んでいるわけですから、住居費、光熱費、生活雑費などにかかる費用は共同で支出し、経済面ではまだ協力関係にあると考えられます。
よって、通常は、夫婦の協力関係がなくなったと考えられる完全別居をしていなければ、「離婚した時点まで」、完全別居した場合は「別居した時点まで」が財産分与の対象となります。

夫婦で会話なし、無視が続く状態は「婚姻関係が破綻している」とみなされますか?

夫婦で会話がなく、無視が続くといったいわゆる家庭内別居の状態は、客観的に婚姻関係が破綻しているとみなされるのは難しいでしょう。
なぜなら、同居はしているため、夫婦に会話がない、無視が続くという家庭内で起きている出来事を外部から客観的に把握することが困難だからです。
裁判所は、家庭内別居の事実を認定できないと、婚姻関係が破綻しているとの認定もためらいます。離婚を望んでおり、確実に婚姻関係が破綻していると認められたいのであれば、完全別居に踏み切ることをお勧めします。

家庭内別居中の婚姻費用は請求できますか?

婚姻費用は家庭内別居であっても請求できます。
婚姻費用の分担は、夫婦の義務なのでたとえ夫婦仲が険悪で家庭内別居していたとしても、法律上の夫婦である限り、居住形態に関係なく、夫婦のうち収入の少ない方が収入の多い方に婚姻費用を請求することができます。
ただし、家庭内別居の婚姻費用は、完全に別居している場合と比べて低額になる可能性があります。
なぜなら、家庭内別居は、同じ屋根の下に住んでいるので、家賃や光熱費、水道代などはひと家庭分しかかかっておらず、完全別居よりも費用を抑えられるからです。
よって、同居しているおかげで負担せずに済んだ分を差し引いて、婚姻費用を支払ってもらうことになります。

家庭内別居から離婚をお考えの方は、早めに弁護士にご相談ください。

現在家庭内別居をしていて、離婚を検討している方は、ぜひ弁護士法人ALGにご相談ください。

本記事で解説してきたとおり、家庭内別居をしているだけでは、離婚が認められる事由に該当することは難しいのが実情です。

弁護士であれば個別の事情を確認したうえで、家庭内別居を続けた場合の見通しや、別居または離婚した場合の見通しを立てて、具体的な解決策を提案します。

また、弁護士は代わりに相手と話し合い(交渉)をすることも可能ですので、精神的な負担を軽減できます。

ご依頼者様の満足のいく結果に導けるよう尽力いたしますので、ぜひ弁護士法人ALGにお問合せください。

宇都宮法律事務所 所長 弁護士 山本 祐輔
監修:弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長
保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)
栃木県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。