
監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
交通事故の相手方と示談した後に、「勘違いしていたからやり直したい」「新たな損害が発覚したから追加請求したい」と思われる方は少なくないでしょう。
示談成立後のやり直しや追加請求は、原則認められておらず、示談は一度成立したら撤回できないのが基本です。
しかし、例外的に追加請求が認められるケースもあります。
そこで本記事では、示談後にやり直しや追加請求ができるケースをはじめ、示談後のトラブルを回避するためのポイントなどについて、詳しく解説していきます。
目次
示談後のやり直しや追加請求は基本的にできない
相手方との示談が成立した後の“やり直し”や“追加請求”は、基本的にできません。
示談書には、「被害者は示談成立後にこれ以上の損害賠償請求をしない」旨の文言が明記されている場合が多く、撤回できないようにされています。
示談書に署名・捺印する行為は、明記されている内容を承諾する意思表示であるため、一度成立した示談のやり直しや追加請求は原則認められません。
ただし、例外的に示談のやり直しや追加請求が認められるケースがあります。
次項で詳しくみていきましょう。
交通事故の示談後にやり直しや追加請求ができるケース
交通事故の示談後にやり直しや追加請求ができるのは、主に以下のようなケースです。
- 示談後に症状が悪化して、治療が必要になった
- 示談成立時には予測できなかった後遺障害が発生した
- 示談するために詐欺または脅迫が行われた
- 不当な内容や方法で示談させられた
- 示談する意思がなかったのに示談させられた
- 示談内容を勘違いしていた
なかでも、示談成立時には予測できなかった後遺障害が示談成立後に発生したケースは、実務上でも多く見受けられます。
たとえば、事故により脳を損傷した被害者に、後から記憶力の低下や性格の変化などの症状がみられる場合です。記憶力の低下や性格の変化は、日常生活の変化やストレスなどでも生じやすく、事故によるものと疑いにくいです。
しかし、これらの症状は、脳の損傷が原因の「高次脳機能障害」に該当します。
このように、判断しにくい後遺障害が事故からある程度経過した後に明らかになるケースは、時に生じます。
示談後に後遺障害が発覚した場合の対処法
示談後に後遺障害が発覚した場合の対処法には、“留保条項の明記”が有効な手段といえます。
留保条項とは、契約内容の一部を留保(保留)する条項を指し、「契約の柔軟性を高める」「事後の追加請求の可能性についてのリスクを軽減する」などの効力があります。
たとえば、後遺症が残りそうな場合、示談書に「後遺障害が認定された場合には別途協議する」などの一文を加えれば、後遺障害部分について後から損害賠償請求できます。示談書成立後の内容変更は認められていないため、再交渉できる余地を事前に残すことが大切です。
しかし、示談書は基本的に相手方保険会社が作成するため、留保条項を明記するには、相手方保険会社から許可を得なければなりません。高い交渉力が必要になるため、交通事故に精通した弁護士に相談されることをおすすめします。
示談後のトラブルを回避するためのポイント
示談後のトラブルを回避するには、以下のポイントを押さえる必要があります。
- 1. 示談後の後遺症に対応できるようにする
- 2. 請求し忘れているものが無いか確認する
では、次項にて、各ポイントを詳しく解説していきます。
示談後の後遺症に対応できるようにする
相手方と示談する際は、必要に応じて、将来残るかもしれない後遺症について別途協議する旨の文言を示談書に明記するなどして、示談後でも対応できるようにしておくことが大切です。
ただし、ただ単に残存症状があるだけでは、後遺障害による損害を受けていると法律上認められない点に注意しなければなりません。
後遺障害による損害を証明するには、基本的に、自動車損害賠償保障法(自賠法)に定められる後遺障害等級の認定を受ける必要があります。
原則、認定された場合に限り後遺障害部分の損害を相手方に賠償請求できるため、後遺障害等級認定の申請を行いましょう。
請求し忘れているものが無いか確認する
事故による損害を相手方に損害賠償請求する際は、損害費目の漏れに注意する必要があります。
たとえば、治療関係費では、「治療費や薬代の請求は可能」と判断できる人がほとんどですが、装具や器具購入費を見落とす人が少なくありません。
また、傷を保護するための絆創膏や包帯などの購入費も請求自体は可能です。
もちろん、補償を受けられるかどうかは交渉次第になりますが、請求できるのであれば、漏れなく請求した方が負担を軽減できます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
示談後のトラブルを防ぐために弁護士ができること
弁護士は、示談後のトラブルを防ぐために以下のような対応ができます。
- 請求漏れの損害費目がないかを確認できる
- 請求額が適正かどうかを判断できる
- 示談書の内容に不備がないかを確認できる
- 示談書の内容に関して相談できる など
相手方に損害賠償請求できる損害費目は、事案によってさまざまで、個人の力のみでは請求の可否を判断できない場合があります。
この点、弁護士であれば、損害費目に漏れがないかを的確に判断できるため、依頼者がしかるべく情報を提供していれば、「示談後に請求し忘れた」とトラブルになることがありません。また、相手方保険会社は交渉のプロであるため、個人のみでは理解が曖昧な中でも示談に合意してしまう場合があります。
しかし、弁護士がいれば、相手方保険会社の意見に流されずに示談内容が適正かどうかを見極めてもらえるため、有利な条件で示談できる可能性が高まります。
弁護士の存在があれば、より安心して相手方との示談を締結でできるでしょう。
示談後のトラブルを回避したい場合には、弁護士への相談が有効です。
交通事故の示談後に関するQ&A
示談成立後の今も加害者からお詫びがありません。謝罪してもらうことは可能ですか?
加害者に謝罪を求めることは可能ですが、謝罪を強制することは原則できません。
加害者からの謝罪がない状態で示談が成立するケースは、決して少なくありません。加害者が任意保険に加入していれば、交渉相手は基本的に加害者本人ではなく、任意保険会社となります。
そのため、加害者に謝罪を求めたい場合には、相手方保険会社に申し入れる必要があります。
ただし、謝罪にこだわり過ぎると示談交渉が難航する可能性が高まるため、あまりおすすめできません。有利な条件で示談できるように力を注ぐ方が有益ですので、謝罪を重視し過ぎないようにしましょう。
交通事故の示談後、慰謝料が振り込まれるまでの期間はどれくらいですか?
示談成立後から示談金(慰謝料を含む)が振り込まれるまでの期間は、1~2週間程度です。
示談書の取り交わしは、基本的に書面で行われるため、必ず郵送でのやり取りが生じます。示談書に署名捺印する→相手に返送する流れとなりますので、返送後1~2週間程度で指定した口座に振り込まれるのが一般的です。
なお、示談金が高額な場合は、相手方保険会社の支払処理に時間がかかり、着金が遅れやすいため、注意しなければなりません。
示談成立後に嫌がらせをされています。どうすればいいですか?
示談成立後に加害者から嫌がらせを受けている場合は、身の安全を守るためにも弁護士に相談する必要があります。
嫌がらせには、以下のような行為が挙げられます。
・無言電話やメールで不快なメッセージをもらう
・SNSで誹謗中傷される
・つきまとわれる
・脅迫行為を受ける など
このような行為を放置しておくと、取り返しのつかない事態に陥る可能性があるため、弁護士もしくは警察に相談することが大切です。
ただし、警察は重度の嫌がらせでないと動いてもらえない可能性が高いため、まずは弁護士にご相談されることをおすすめします。
示談後に後悔しないためにも交通事故に強い弁護士にご相談ください
請求漏れや後遺障害が発覚しても、示談が成立していれば、やり直しや追加請求はできません。
「示談前にこうしておけばよかった・・」と後悔しても、もう手遅れであるケースがほとんどです。そうなれば、後悔が心に深く残ってしまい、せっかく示談できても気持ちが晴れやかになることはありません。
示談後に後悔しないためには、先を見据えて事前に対処しておくことが大切です。
交通事故に精通した弁護士であれば、考えらえるリスクを未然に防ぐための行動ができます。交渉や手続きも弁護士に任せられるため、負担なく安心して示談することが可能です。
それだけでなく、有利な条件で示談できる可能性も高まるため、単独で交渉するよりも利益を得られます。まずは、お気軽に弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)