
監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
DVを理由に離婚を申し出るケースは、妻だけではありません。
夫がDVの被害者であるケースも多くありますが、DVは夫から妻に対して行われるイメージが強く、周囲に相談しても理解してもらえない傾向にあります。そのため、妻からDVを受けていても誰かに打ち明けられずに一人で悩まれている男性の方は少なくありません。
本記事は、「DV妻との離婚」に着目し、DV妻と離婚したい場合の対処法や注意点などについて、詳しく解説していきます。ぜひご参考になさってください。
目次
妻から夫へのDVは増加している
警察庁が公表する統計資料によると、妻から夫へのDV件数は年々増加傾向にあります。
令和元年 | 令和2年 | 令和3年 | 令和4年 | 令和5年 |
---|---|---|---|---|
17,815件 | 19,478件 | 20,895件 | 22,714件 | 24,684件 |
(参照:「令和5年におけるストーカー事案、配偶者からの暴力事案等、児童虐待事案等への対応状況について」)
上表は、妻からDV被害を受けた夫が警察へ相談した件数で、令和元年から令和5年までの推移をみると、1年間で約2000件程度増加してきていることが分かります。警察への相談に至っていない件もあるはずですので、実際はこれよりもさらに多いでしょう。
妻からのDVを理由に離婚できる?
配偶者のDVを理由とした離婚は可能です。
「配偶者」ですので、加害者は夫に限られておらず、妻も含まれます。そのため、妻からのDVを理由に夫が離婚を申し出ても何ら問題ありません。
ただし、離婚が認められるには、妻からのDV被害を客観的に証明する必要があります。
何の証拠もない状況で「妻からDVを受けている」と主張しても、離婚は認めてもらえませんので注意しましょう。
妻から日常的にどのようなDVを受けているのかが分かるものは、有効な証拠となり得ます。
妻から夫へのDVでよくある事例
男性と女性は、基本的に体格や力に差があるため、妻からのDV被害は精神的なものが多いです。
たとえば、次のようなケースが挙げられます。
- 大声で怒鳴る
- 謝罪や土下座を強要する
- 子供に夫の悪口を吹き込む
- 人格を否定するような暴言を吐く
- 物を投げる
- 夫の私物を勝手に処分する、傷つける
- お小遣いを厳格に制限する
- 包丁を持ち出して脅す など
妻からのDV被害は、暴力を振るうなどの身体的なDVよりも、「暴言を吐く」「周囲に悪口を吹き込む」などの精神的なDVに集中しがちです。
また、DVは力の強い男性が行うイメージが強く、世間から批判を浴びたくない夫がDVに耐え続けてしまう事態にも陥りやすいです。その結果、妻の精神的な暴力が悪化し、DV被害が拡大するおそれがあります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
DV妻と離婚したい場合の対処法
DVの証拠を集める
協議離婚や離婚調停など、話し合いで離婚の成立を目指すにしても、妻からDVを受けていた証拠は必要です。
でなければ、妻が離婚に合意しない限り、離婚の成立が遠のいてしまいます。また、証拠がないことを理由に妻から攻撃を受ける可能性もあります。
夫が妻からDV被害を受けている音声や動画、日常的にDVを受けていたことが分かる日記などは、有効な証拠になり得ます。音声や動画は、妻にばれないように小型カメラを設置するなどして収集し、日記も鍵を掛けるなどして保管するとよいでしょう。
子供の親権は父親が得られる?
妻のDVが、子供の福祉・幸せを害す場合は、父親が子供の親権を得られる可能性があります。
親権者の指定は、これまでの監護状況や子供の利益が重要視されるため、父親が親権者となるのが子供にとって一番よいと判断されれば、親権者は父親となります。
しかし、親権は、「母性優先の原則」が根強いように、心理的結びつきが強い母親と暮らした方が子供は幸せであると考えられる傾向にあります。
そのため、「母親の存在が子供の不幸せにつながる」または「母親よりも父親と暮らす方が子供の幸せにつながる」と判断されなければなりません。
「母親が子供の目前で父親にDVを行う」「子供が母親からDVを受けている」などの場合は、母親が子供の幸せを害すると考えられ、父親が親権を獲得できる可能性があります。
DV妻からの被害に遭っている場合の注意点
夫婦喧嘩で妻から暴力を振るわれてもやり返さない
妻から暴力を振るわれた場合にやり返してしまうと、DV加害者だと判断されるおそれがあるため、注意しなければなりません。
女性と体格差がある男性がやり返すために暴力を振るうと、女性である妻が「夫からDVを受けた!」と主張する可能性があります。女性である妻の意見がすべて認められるわけではありませんが、不利な判断をされる可能性を否定できません。
そのため、妻から肉体的に暴力を振るわれて身の危険を感じた場合には、「逃げる」または「警察に通報する」などし、自分の身を守りましょう。
妻の暴力を抑えようとして手首を強く握るなどの行為も、妻の怒りにつながり、「痛い!DVだ!」と騒がれてしまう可能性があるため、注意が必要です。
安易な別居を行わない
DVの立証が十分でない状況で別居を行うと、収入の多い配偶者が少ない配偶者に婚姻費用を支払わなければならないため、別居に慎重にならなければならない場合もあることはご注意ください。
DV被害で一刻も早く妻から逃げたい気持ちはわかりますが、証拠の収集が十分にできないおそれもあります。また、妻から「悪意の遺棄だ」と主張され、慰謝料を請求される可能性もあるため、注意が必要です。
夫婦には同居義務があり、配偶者に黙って勝手に別居を開始するのは、その義務を放棄する行為=悪意の遺棄となるリスクがあります。
別居を検討する際には、お金や証拠をある程度確保し、妻に別居したい旨を口頭もしくは手紙などで伝えるようにする必要があります。
妻からのDVで離婚したら慰謝料はいくらもらえる?
妻からのDVが理由で離婚した場合は、数十万~300万円程度が慰謝料の相場とされています。
具体的な慰謝料額は、婚姻期間やDV期間、DVの内容などの個別事情が考慮され、総合的に判断されます。夫が受けたDV被害の内容が酷いものであれば、高額な慰謝料が認められる可能性もあります。
また、離婚裁判ではなく、夫婦が話し合いで解決を図る協議離婚であれば、妻の返事次第で相場よりも高額な慰謝料を獲得できます。協議離婚は、話し合いで離婚を成立させる方法ですので、当事者双方の合意があれば、離婚条件を自由に決められます。
ただし、妻が自分の非を認めて高額な慰謝料を支払うケースは少ないため、DV被害の証拠を提示し、妻の行為がDVに該当することを認めてもらう必要があるでしょう。
DV妻に関するALGの解決事例
ではここで、DV妻に関する当法人の解決事例を1つご紹介いたします。
<事案の概要>
ご依頼者様である男性は、妻からのDVが原因で3年ほど前から別居を開始し、ある程度の別居期間が過ぎたため、早期の離婚を望まれて当法人にご依頼くださいました。
<交渉の結果>
別居期間は相当期間に及んでいましたが、相手方である妻が離婚に消極的であったため、離婚裁判を見据えながら離婚調停を申し立てました。
調停後、妻が離婚に消極的である理由が「離婚後の生活不安」だとわかりました。そこで弁護士は、解決金と算定表以上の養育費を妻に提示して離婚の合意を求める説得を調停委員にお願いしました。
その結果、妻は離婚に合意し、裁判に進まずに調停で離婚を成立できました。
妻からのDVに関するQ&A
妻のDVから逃げたいのですが、男性でも使えるシェルターはありますか?
各都道府県が設置しているDVシェルターは女性専用がほとんどで、男性が利用できるシェルターはごくわずかです。
男性のDV被害は年々増加傾向にありますが、それでも全体の件数としては女性が多く、シェルターを男女で分離できない点なども重なり、対応しきれていないのが現状です。
そのため、「DV相談ナビ」や「配偶者暴力相談支援センター」などの公的機関によるDVの相談窓口を利用して、支援や保護を求められることをおすすめします。
DV妻が離婚してくれないのですが、どうしたらいいでしょうか?
DV妻が離婚に合意してくれない場合は、離婚調停または離婚裁判への移行を検討する必要があります。
離婚裁判を提起する場合は、離婚調停を先に申し立てる必要がありますので、まずは離婚調停の手続きから始めます。離婚調停では、裁判官や調停委員が夫婦の話し合いに入り、意見をまとめてくれます。
個別で意見を聴収してくれるため、直接顔を合わさずに済み、冷静かつ円滑な話し合いが可能です。なお、離婚調停への移行に不安を抱かれる場合には、離婚問題を得意とする弁護士に相談するとよいでしょう。
妻からのDVでお悩みなら、一度弁護士に相談してみましょう
妻からのDV被害を誰にも相談できずに一人で悩まれている方は、決して少なくありません。それは、「DV被害は女性である妻が受けるイメージ」が社会に根強く残っている問題があるからでしょう。
確かに、女性と男性では体格や力に差がありますが、DVに性別は関係ありません。DV被害は、男女のどちらにも起こり得るトラブルです。
妻との話し合いや離婚調停の手続きなどに不安を抱かれる方は、お気軽に弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、妻との交渉や手続きを一任できるため、不安を解消できます。いつでもアドバイスを得られる状況は、精神的負担の軽減にもつながるはずです。
お一人で抱え込まず、一度弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)