交通事故の過失割合で揉める原因と対処法

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交通事故の過失割合で揉める原因と対処法

宇都宮法律事務所 所長 弁護士 山本 祐輔

監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士

交通事故の示談交渉では、過失割合でもめてしまい、交渉がうまく進展しないことが多々あります。過失割合でもめたときに臨機応変に対応しないと、被害者にとって十分な救済を受けることができないおそれがあります。

示談交渉の相手の多くは、交通事故のプロである保険会社であり、被害者と比べて経験も知識も上回ることが通例です。過失割合でもめたときに被害者が納得できる結果を得るためには、対処法を押さえておくことが重要です。

このページでは、過失割合でもめることの多いパターンと対処法について解説していきます。

交通事故の過失割合で揉める理由とは?

交通事故の過失割合でもめることが多い理由として、以下のようなものがあります。

  • 損害賠償の金額に影響するため
  • 警察は過失割合に関与しないため
  • 事故状況の食い違いがあるため

損害賠償の金額に影響するため

過失割合でもめる理由の一つとして、被害者についた過失割合分、損害賠償金が減らされることが挙げられます。これを過失相殺といいます。例えば、被害者に300万円の損害が発生した場合、加害者と被害者の過失割合が100:0のもらい事故であれば、被害者は300万円の損害賠償金を受け取ることが可能です。

しかし、過失割合が90:10と判断されると、90%に当たる270万円しかもらうことができませんし、逆に相手方の損害の10%を負担しなければなりません。

そして、過失割合は警察が決めるのではなく、事故当時者間の話し合い、または訴訟等の、民事上での手続きにより決められるものです。そのため、少しでも自分に優位な過失割合になるよう、当事者間で意見が対立しやすい傾向にあります。

警察は過失割合に関与しないため

事故発生後に警察に通報すると、警察官が駆けつけ、事故現場や当事者からの状況確認を行い、実況見分調書を作成することが通例です。しかし、警察には民事不介入というルールがあるため、その後の過失割合の決定に警察が介入することはありません。

警察が関与できるのは、あくまで交通事故の刑事的側面です。加害者に過失があったか、重過失はあったかなどは、おおよその点を判断するにすぎません。加害者に過失さえあれば刑事事件として立件できるからです。このように、過失割合を警察ではなく当事者間で決める点が、もめやすい原因の一つとなっていると考えられます。

事故状況の食い違いがあるため

過失割合を決めるには、前提として証拠をもとに、「どのような状況で事故が発生したのか、事故態様はどのようなものであるか」を確定させる必要があります。事故状況についてお互いの主張に食い違いがあると、過失割合を確定できないため、もめることになります。

例えば、車線変更した車についてウインカーを出したかどうか双方の言い分が異なる等のケースが挙げられます。食い違いが生じる理由として、当事者いずれかの記憶違いや、一方が嘘をついていることなどが考えられます。

特にドライブレコーダーなど明らかな証拠がない場合、相手方は自分の過失割合を低くするため、嘘をつく可能性は否めません。こちらの言い分が正しいことを認めてもらうには、証拠が必須であるため、できる限り証拠をそろえることが大切です。

過失割合について揉めやすい4つのパターン

過失割合でもめることが多い4パターンと対処法について、ご紹介します。

①交通事故に関する証拠が不足している

過失割合は事故状況をもとに算定されるため、以下のような事故状況を表す証拠が求められます。

  • ドライブレコーダーの映像
  • 事故現場近くの防犯カメラ映像
  • 目撃者の証言
  • 事故直後に撮影した事故現場や車などの写真
  • 実況見分調書
  • 当事者の供述調書
  • 物件事故報告書
  • 交通事故証明書
  • 車の損傷状況を表す資料

事故当事者であっても、事故の状況を正しく記憶しているとは限りません。

ドライブレコーダーを装備していなかった、目撃者がいなかった、事故現場付近に監視カメラが設置されていなかったなど、客観的な証拠がない状況では、どちらの主張が正しいか判断できないため、過失割合について意見が対立しやすくなります。また、上記のような資料があるとしても、その内容等はそれぞれに異なり、一概に事故状況の確定につながるかはまちまちです。

証拠が無い場合の対処法

ドライブレコーダーのような強力な証拠がないケースでも、できる限り入手可能な証拠を集めることが大切です。収集可能な事故状況を示す証拠として、次のようなものが挙げられます。

  • 実況見分調書:警察が事故現場で当事者立ち会いのもと、事故状況を調べてまとめた書面。事故当日の天候や路面状況、事故車の実際の動きが詳細に記載されている。
  • 供述調書:警察が当事者や目撃者の供述を聴取し作成した書面
  • 診断書:ケガの程度や部位から事故状況を一定程度推測できることがある
  • 車両修理見積書:車の損傷の程度や部分から事故状況を一定程度推測できることがある

被害者の車にドライブレコーダーがなくとも、相手方車に設置されている場合があります。相手方があえて提出しない場合もあるため、被害者から確認しましょう。

②損害賠償額が大きい

同じ過失割合であっても、損害額が大きいと賠償金額に与える影響も大きくなるため、もめやすくなります。例えば、被害者の過失割合が20%だった場合、賠償額が200万円なら40万円の減額となり、もしも賠償額が5000万円だとすると、1000万円もの減額になります。

そのため、相手方保険会社は、損害額が大きい場合は支払額を減らそうとして、被害者の過失割合を大きく見積もるなど強引な主張をしてくることがあります。

損害賠償額が大きい場合の対処法

示談交渉では、相手方保険会社から過失割合や賠償金額が提示されることが通例です。まずは提示された示談案を熟読し、どのような根拠をもとに過失割合を算定したのか、どのような裁判例を参考にしたのか、書面で回答してもらいましょう。

回答書を見れば、過失割合の算定が正しいかどうか判断でき、誤りがある場合は修正を求めることができるためです。

もっとも、過失割合の算定が適正であるかどうか、被害者が自力で判断することは困難です。見極めには交通事故賠償や裁判例の知識が求められます。交通事故を得意とする弁護士に相談し、回答書の内容が正しいか精査してもらうことをおすすめします。

③どちらが悪いか判断がしにくい

どちらの過失が大きいのか判断しにくい事故もあります。例えば、次のような事故です。

  • 同一方向を走っていた車同士が同時に車線変更しようとしてぶつかった事故
  • 信号機もなく道幅も同じ交差点での出合い頭の事故
  • 狭い道でのすれ違い事故
  • 駐車場内における出会い頭の事故

どちらにも責任がある場合、5:5でお互いに合意できれば良いですが、少しでも自分の過失を減らしたい、多くの賠償金をもらいたいと考えると、もめることになります。

判断がしにくい場合の対処法

どちらが悪いか見分けにくい事故である場合は、ドライブレコーダーの記録や事故現場の監視カメラ映像、目撃者の証言、車両の損傷状況を示す資料など、当時の事故状況を示す証拠を可能な限りそろえて相手方保険会社に提示しましょう。

また、過去の裁判例や専門書の記載などを引用して交渉することも有効です。弁護士であればこれらの作業をすべてカバーすることが可能です。証拠集めや示談交渉に不安がある場合は、弁護士への相談をご検討ください。

④駐車場内での事故

駐車場内での事故は過失割合の算定が難しく、もめることが多いです。これは、駐車場はそもそも公道ではなく、またそこには信号や横断歩道、標識などがないため、一般道路での過失割合の例を引用することが困難なことが原因です。

過失割合は、「別冊判例タイムズ38号」という本に掲載された基本の事故類型をもとに検討されることが通例です。ただし、この本は道路上での事故を想定して書かれているため、駐車場内での事故で使えるデータが少なく、過失割合を決定しづらいという実状があります。

その結果、相手方保険会社から、「5対5の痛み分け」を提案されることが多く、過失割合について当事者間で争いとなりやすい傾向にあります。

駐車場内の事故の対処法

ご自身の事故が「別冊判例タイムズ38号」に掲載されていない事故であるならば、交通事故に精通する弁護士に相談することをおすすめします。このような事故では、類似事故の裁判例を探し出したり、考慮する過失割合の修正要素はないか判断することが求められます。

ただし、専門知識のない被害者が自力でこれらの作業を行うことは困難です。また、過失割合や裁判例については相手方保険会社の方が一枚も二枚も上手であるため、交渉で対等に渡り合うことは難しいでしょう。弁護士であれば、法的根拠をもとに適正な過失割合を算定し、説得力のある主張を展開できるため、相手方保険会社が応じる可能性が高まります。

まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

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交通事故の過失割合で揉めた場合はどうする?

これまで過失割合でもめやすいパターンと対処法について解説してきましたが、それでも解決できない場合の対処法について、以下で見ていきましょう。

保険会社へ苦情を申し入れる

被害者に不利な過失割合を強引に決定するなど、相手方保険会社の担当者の態度がひどい場合は、保険会社のカスタマーセンターに連絡し、苦情や担当者の変更を申し入れましょう。

また、保険会社に直接苦情を言いにくい場合は、「そんぽADRセンター」に相談するという方法もあります。そんぽADRとは、損害保険会社と被害者間で発生したトラブルの解決を、原則無料で支援してくれる機関です。

受け付けた苦情については保険会社に直接通知して対応を求めるため、保険会社の担当者の態度の改善を期待できる可能性があります。また、和解案の提示なども行ってくれます。

ADRを利用する

相手方の提示する過失割合に不満があったとしても、裁判まで起こすのは気が引けるという方は多いでしょう。このような場合に推奨されるのが、ADRという手続きです。

ADRとは、裁判外で交通事故トラブルの解決を図る機関をいいます。交通事故の専門家が中立・公平な立場で、法律相談や和解のあっせんなどを行います。基本的に無料で利用可能です。交通事故に関する主なADRは、以下のとおりです。

  • 交通事故紛争処理センター
  • 日弁連交通事故相談センター

ADR機関は、あくまで中立の立場から和解のあっせんを行うため、被害者に優位な判断が出るとは限りません。被害者としては、自分に優位な証拠をそろえて提出することが必要です。

調停や裁判で解決する

調停とは、裁判官と調停委員が当事者の意見を聴きとり、お互いが納得できる妥協点を話し合いでまとめていく手続きです。例えば、過失割合は相手の主張に応じるが、その代わり慰謝料を増やしてもらうなど柔軟な解決を図ることが可能です。

裁判に比べると手続きが簡単で費用も安く済みます。ただし、お互いの要求があまりにかけ離れている場合は不成立となりやすい傾向にあります。調停によって合意できなかった場合は、最終手段として裁判を起こすことが考えられます。

裁判とは、裁判所が法律を駆使して解決する手続きです。裁判所が判決を下すため、合意なくとも解決が可能です。ただし、裁判では訴状など書面作成、立証のための証拠集め、口頭弁論などを行う必要があるため、弁護士への依頼が必須です。

妥協案として片側賠償を提案する

過失割合について意見が対立し交渉が長引いている場合は、歩み寄りとして片側賠償を提案するという選択肢があります。片側賠償とは、当事者いずれも過失があるが、片方だけが損害賠償責任を負い、賠償金を支払うことをいいます。

例えば、相手方保険会社から、過失割合は加害者と被害者で「9:1」と提示されたものの、被害者側は「10:0」と訴えているケースを想定します。この場合、当事者間で話し合い、被害者から加害者への賠償金の支払いをなくす代わりに、加害者と被害者の過失割合を「9:0」と決めましょうというのが片側賠償であり、和解の落としどころの一つです。

被害者としては加害者への賠償金の支払いを免れる、加害者としても被害者に支払う賠償金が責任分だけでよいため、両方の希望を一定程度満たせることがあります。

弁護士に相談・依頼する

過失割合でもめた場合は、交通事故の解決実績が豊富な弁護士に相談することをおすすめします。

実績のある弁護士であれば、過去の裁判例や専門書の記載、事故状況を示す証拠などを踏まえて、正しい過失割合を算定することが可能です。そのため、相手方側の提示する過失割合に誤りがある場合は、効果的に過失割合の変更を求めることができます。

また、過失割合は賠償額を左右するため、被害者が適正な過失割合を主張したとしても、必ずしも相手方の保険会社が認めてくれるとは限りません。この点、弁護士が介入すれば、保険会社は裁判への進行を警戒し、示談で終わらせようと、被害者側の主張する過失割合に応じる可能性が高まります。

交通事故の過失割合について揉めた場合は、お早めに弁護士にご相談ください

過失割合によって、被害者の受けとれる賠償金の額が大きく変わります。そのため、相手方の保険会社に過失割合を提示されても、納得できないのであれば応じてはいけません。

過失割合についてもめた場合は弁護士への相談が有効です。弁護士に対応を任せれば、正しい過失割合を算定し、相手方が提示する過失割合に誤りがある場合は、修正を求めることが可能です。また、弁護士が示談交渉に入れば、過失割合の交渉だけでなく、慰謝料の増額なども期待できます。

なお、弁護士費用が気がかりであっても、弁護士費用特約を使えば、多くのケースで自己負担なく弁護士に依頼することが可能です。過失割合についてもめた場合は、お早めに弁護士にご相談下さい。

宇都宮法律事務所 所長 弁護士 山本 祐輔
監修:弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長
保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)
栃木県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。