
監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
ネットやSNSで「慰謝料 増額」と検索すると、“弁護士に依頼すると慰謝料が増額する”と書かれていることが多くあります。
これを目にした方の中には、弁護士に依頼するにはそれなりの費用が必要なのに、どうして慰謝料が増額するのかと不思議に思われる方もいらっしゃるでしょう。
慰謝料の増額理由には、まず相手方保険会社が弁護士基準で応諾することが多くなる点が挙げられます。
本記事は、「弁護士に依頼すると慰謝料が増額できる理由」について着目し、弁護士基準の解説をはじめ、慰謝料がどれくらい増額するのかを詳しく解説していきます。
目次
弁護士に依頼すると交通事故の慰謝料を増額できる理由
弁護士が使う慰謝料の算定基準は一番高額
交通事故における慰謝料の算定基準には、次の3種類があります。
-
1. 自賠責基準
自動車損害賠償保障法に基づく、基本的な対人賠償の確保を目的とした基準 -
2. 任意保険基準
自動車保険会社が独自に設けている基準(※基準の内容は、基本的に非公開) -
3. 弁護士基準(裁判基準)
過去の裁判例を基につくられた基準
このうち、弁護士が使用できる基準である弁護士基準は、基本的に最も高額になる算定基準とされています。そのため、慰謝料の増額を望まれる場合には、弁護士基準での請求が有効です。
ただし、被害者の過失割合が大きい場合には、損害賠償請求額から過失割合分が差し引かれるため、他の基準を使用した方が受け取れる賠償金が多くなるケースもあります。
なぜ弁護士基準は高額になるのか
3種類ある基準の中で弁護士基準が基本的に高額となるのは、過去の裁判例を基に算定された基準だからです。裁判となった場合に認められる相場であるため、法的正当性が高い基準といえます。
なお、弁護士基準を使用する際に参考とされるのが、日弁連交通事故相談センターが発行している「損害賠償額算定基準(通称:赤い本)」です。
参考とする基準本は、各地域によって異なる場合もあります。たとえば、名古屋であれば「交通事故損害賠償算定基準(通称:黄色い本)」が参考とされます。
保険会社が提示する慰謝料の基準
各保険会社が独自で設定した基準である任意保険基準は、基準の内容が保険会社ごとに異なるため、一般的には非公開となっています。
しかし、実務上では、自賠責基準よりも高く弁護士基準よりも低い金額になることが多く、3種類の基準の中では2番目に高い基準とされています。
一方で自賠責基準は、3種類の基準の中で最も低い基準といわれています。
自賠責基準は、被害者に対する基本的な補償の確保を目的としているため、限度額の範囲内でしか補償してくれません。
そのため、任意保険基準や弁護士基準よりも基準が低く設定されています。
<イメージ>
自賠責基準≦任意保険基準<弁護士基準
低 ➡ 高
慰謝料の増額を目指すためには、弁護士基準を用いて損害賠償請求するのが最も有効な方法といえます。
弁護士基準と自賠責基準で慰謝料はどれくらい変わるのか?
任意保険基準は非公開となっているため、自賠責基準と弁護士基準で慰謝料額がどれくらい変わるのかを比べてみます。
入通院慰謝料と後遺障害慰謝料を次項で比較していきますので、ぜひご参考になさってください。
入通院慰謝料の比較
入通院慰謝料とは、「事故による怪我の治療で入院や通院を強いられた際に生じた精神的苦痛に対する補償」を指し、次の計算式によって算出します。
<自賠責基準の場合>
日額4300円×対象日数
対象日数は、「入通院期間」と「実通院日数×2」のいずれか少ない方を採用します。
※2020年3月31日以前の事故は、日額4200円
<弁護士基準の場合>
損害賠償額算定基準の本に記載されている「慰謝料算定表」を用います。
では、比較した結果を表でみていきましょう。
入通院期間 | 自賠責基準 (※日額4300円の場合) |
弁護士基準 |
---|---|---|
入院:1ヶ月 通院期間:4ヶ月 (実通院日数:48日) |
64万5000円 |
軽傷:約95万円 重傷:約130万円 |
入院:なし 通院期間:5ヶ月 (実通院日数:50日) |
43万円 |
軽傷:約79万円 重傷:約105万円 |
入院:なし 通院期間:6ヶ月 (実通院日数:90日) |
77万4000円 |
軽傷:約89万円 重傷:約116万円 |
表をみると、弁護士基準の方が自賠責基準よりも大幅に慰謝料の金額が高くなることが分かります。
後遺障害慰謝料の比較
後遺障害慰謝料とは、「交通事故による怪我の後遺症で生じた精神的苦痛に対する補償」を指し、認定された後遺障害等級に応じて後遺障害慰謝料が支払われます。
自賠責基準と弁護士基準の後遺障害慰謝料は、下表のように、支払われる慰謝料額がはじめから設定されています。2つの基準を比較した結果を表でみていきましょう。
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級 |
1650万円 (被扶養者がいる場合:1850万円) |
2800万円 |
2級 |
1203万円 (被扶養者がいる場合:1373万円) |
2370万円 |
等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級 |
1150万円 (被扶養者がいる場合:1350万円) |
2800万円 |
2級 |
998万円 (被扶養者がいる場合:1168万円) |
2370万円 |
3級 |
861万円 (被扶養者がいる場合:1005万円) |
1990万円 |
4級 | 737万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
表をみると、自賠責基準よりも弁護士基準の方が、はるかに受け取れる後遺障害慰謝料の金額が高いことが分かります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故の慰謝料がどれくらい増額するか知りたい
交通事故に遭われた方が、自分の受け取れる慰謝料額を目安でもいいから知りたいと思われるのは当然のことです。事故に遭うと、治療費や装具費用だけでなく休業による減収など、さまざまな面で損害を負います。
これらの損害を相手方から補償してもらえるのか、どれくらいの補償を受けられるのかは、誰もが知りたい情報です。
そんな方々のために、当法人では交通事故の賠償金額がどれくらいになるのかを弁護士が無料で診断する【無料診断サービス】を実施しています。
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損害賠償計算ツール弁護士基準で慰謝料を計算してもらうにはどうしたら良い?
弁護士基準で慰謝料を算出し請求するには、多くの場合、弁護士に力を借りる必要があります。
弁護士基準を用いた慰謝料請求は、弁護士に限らず被害者本人でも行えます。しかし、その請求に必ず応じなければならない定めはないため、相手方保険会社からは取り合ってもらえないことが見られるのが実情です。
弁護士からの請求であれば、相手方保険会社は裁判への移行をおそれてなるべく応じる姿勢をみせます。しかし、被害者本人からの請求にはなかなか応じないのが通常ですので、自力で交渉するのは困難でしょう。
そのため、相手方保険会社が請求に耳を傾けやすい相手である弁護士に依頼して慰謝料の請求を行うことが必要でしょう。慰謝料請求について、どれだけ知識を得ていても、弁護士でなければそうそう相手にしてもらえないことが多いです。
被害者本人だけでは慰謝料を増額させるのが難しい理由
保険会社は被害者の利益を優先するとは限らない
被害者本人による慰謝料の増額が難しい理由には、保険会社が自社の支出を極力抑えようとする姿勢をとる点が挙げられます。
そもそも保険会社は、民間企業などの営利団体が運営しており、保険の加入者を増やすことで利益を生み出しています。非営利の保険会社も存在しますが、多くの保険会社は営利を目的としています。
そのため、加入者に支払う保険金をなるべく少なくして、利益を維持しようとする姿勢が保険会社の対応に現れやすいのです。
被害者が弁護士基準で交渉しようとしても応じてくれない
被害者による慰謝料の増額が難しい理由には、その他にも、被害者が弁護士基準を用いて請求しても応じてくれる保険会社がほとんどない点も挙げられます。
保険会社が弁護士基準を用いた請求に応じるのは、基本的に窓口が弁護士のときだけです。弁護士基準は、裁判を起こした際に認められる相場ですので、保険会社は以下を理由に断ります。
- 交渉段階であること
- 弁護士ではなく、一般人からの請求であること
そのため、弁護士の力を借りて慰謝料の増額を目指すのがもっとも有効な手段です。
交通事故の慰謝料について弁護士に相談・依頼した場合の費用は?
交通事故問題を弁護士に相談・依頼した場合の費用は、以下が相場となります。
- 着手金 18万円~
- 成功報酬 20万円~
- 相談料 5000円~1万円/30分
ただし、弁護士費用は賠償金額や弁護士事務所によって異なるのが通常ですので、上記の金額は目安に過ぎません。参考程度に留めて、目星をつけた弁護士事務所の料金体系を参考にしましょう。
なお、加入先の保険に「弁護士費用特約」が付いていると、ほとんどのケースで弁護士費用の一部または全部を負担せずに済みます。
弁護士費用特約とは、保険会社が定める基準の下、支払額の枠内であれば弁護士費用を支払ってくれる特約で、保険の等級を下げずに利用できるなどのメリットがあります。
付随していれば、自動車保険だけでなく、火災保険や家族が加入している保険でも利用できる場合がありますので、ぜひご確認ください。
弁護士費用特約とは | 適用範囲や使えないケースまずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
なるべく早いタイミングで弁護士に相談・依頼するほどメリットが増える
弁護士への相談・依頼は、早ければ早いほど得られるメリットが増えます。
たとえば、治療開始後すぐに弁護士へ相談・依頼した場合は、適正な慰謝料の受け取りを見据えた通院方法のアドバイスを受けられます。
しかし、治療後の相談・依頼の場合だと、それまでの状況や経過は無視できないことが多く、場合によっては“時すでに遅し”の状態となることもあり得ますので、弁護士への相談・依頼は早い方がさまざまな方面から対策を講じられます。
特に、後遺障害等級認定の申請を視野に入れる場合には、適切な通院方法や診察の仕方などが認定結果に大きく影響してきます。
後遺障害等級認定を受けられるかどうかで、請求できる賠償金額が左右されるため、早期段階から弁護士の助言を受けて行動するのが納得のいく示談への近道となります。
交通事故の慰謝料請求は弁護士にお任せください
交通事故における慰謝料請求は、事故により負った精神的苦痛を癒すために必要です。
金銭を得たからといって事故による精神的苦痛が完全に癒えることは難しいですが、それでも適切な慰謝料を受け取り、それを癒す必要があります。
しかし、「弁護士基準を使用できない」などの理由で、一般の方が適切な慰謝料の受け取りや慰謝料の増額を目指すのは難しい実情があります。
そのため、慰謝料の請求を行う際には、ぜひ弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、弁護士基準を用いた請求ができるだけでなく、相手方保険会社の主張や提示額の正当性も見極められます。納得のいく賠償金を受け取れる可能性が大幅にアップし、手続きや交渉もすべて任せられるため、安心です。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)