残業代は休業損害に含まれるのか

交通事故

残業代は休業損害に含まれるのか

宇都宮法律事務所 所長 弁護士 山本 祐輔

監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士

交通事故が原因で仕事を休んで減収が発生した場合は、この減収分への損害賠償金として、「休業損害」を支払ってもらうことができます。

しかし、例えば、サラリーマンなど会社員の収入については、基本給だけでなく残業代も含まれることが通例です。そのため、「残業代も休業損害として補償してもらえるのか?」と疑問を抱く方がいらっしゃるかもしれません。

結論から言いますと、事故前の残業代も休業損害として補償してもらうことが可能です。

また、事故後に残業ができなかった場合にも、残業代分を休業損害として請求できる余地があります。

このページでは、休業損害における残業代の取り扱いについて解説していきますので、ぜひご一読ください。

休業損害に残業代は含まれる?

交通事故でケガを負った被害者は、治療のため仕事ができなかったことで生じた減収分を、「休業損害」として請求することが可能です。

休業損害は、被害者が事故に遭う前にもらっていた実際の収入額をベースとして計算するため、事故前の残業代ももちろん考慮されることになります。

例えば、会社員などの給与所得者の休業損害は、以下の計算式を使って求めます。

休業損害=1日あたりの基礎収入×休業日数

・1日あたりの基礎収入=事故前3ヶ月間の給与額÷稼働日数or90日

事故前3ヶ月間の給与の合計額(基本給+残業代などの付加給)を実際に働いた稼働日数、または90日で割って出した1日あたりの基礎収入に、実際に仕事を休んだ日数をかけて、休業損害を算出します。

なお、1年で繁忙期と閑散期の差が激しい場合には、事故前の6ヶ月や1年を基に基礎収入が算出される場合もあります。

付加給とは

「付加給」とは、残業代や通勤手当、皆勤手当、住宅手当など、本来の基本給にプラスして支払われる各種手当をいいます。そして、付加給は金額や支払いの有無が月ごとに変動する場合があるというのが特徴です。

残業代(時間外手当)など労働基準法等の法律で支給が義務付けられている手当を除き、どのような手当をいくらぐらい支払うか、付加給の内容や金額については、会社ごとの自由な判断に委ねられています。

各種手当については、会社ごとに名称や種類が異なります。そのため、休業損害を請求する場合は、給与明細などを確認し、基本給・職能給など定額払い以外の手当がないかチェックすることをおすすめします。

残業代を請求するためには証明が必要

「終業時間後すぐに病院に行く必要があるため、残業できない」「ケガで身体が痛むため、残業できない」など、事故の被害にあったことで、残業がしたくてもできない状況にある方もいらっしゃるでしょう。

このように、事故がなければ受け取れたはずと考えられる残業代についても、休業損害として請求できるのでしょうか?

結論から言えば、事故後に残業できなかった分を休業損害として支払ってもらうには一定のハードルをクリアする必要があります。まず、「事故の被害に遭わなければ、今ごろ残業代をもらえるはずだった」という、事故と残業代の減少との因果関係を証明しなければなりません。

具体的には、以下の点を証明する必要があります。

  1. 事故によるケガの通院を勤務時間外に受ける必要があったこと
  2. 通院のため、被害者が実際に残業できなかったこと
  3. 勤務先では残業が当然の職場環境であり、被害者以外の社員も恒常的に残業していること
  4. 事故発生前から、被害者も恒常的に残業していたこと
  5. 事故発生後の収入減の原因が明らかに残業代の減少であり、かつ、減った残業代の金額も明確であること

休業損害証明書で証明する方法

休業損害を請求するためには、加害者側の保険会社から「休業損害証明書」を受け取り、勤務先に記入してもらい、返送する必要があります。

休業損害証明書とは、給与所得者が交通事故により仕事を休み、減収が生じていることを証明する文書です。休業日数や休業の内訳、休業期間中・事故前の給与などが記載され、休業損害の適正額を判断するための証拠として用いられます。

休業損害証明書には、休業期間中の給与について、以下のような選択項目があります。

  • ア.全額支給した。
  • イ.全額支給しなかった。
  • ウ.一部(支給・減給)した。

上記のうち、「イ.全額支給しなかった。」か「ウ.一部(減給)した。」とし、事故が原因で受け取れなかった残業代の金額やその内訳、計算の根拠を記載してもらいます。

勤務先が作成する休業損害証明書は信頼性が高いので、事故により残業代が減った事実や減った金額を証明する有効な証拠となります。

休業損害証明書は自分で記入してもいい?

休業損害証明書の記入は、第三者である勤務先に事故が原因で仕事を休んだ事実や減収額などを証明してもらうための書類であるため、被害者自身で行うことは認められていません。

自分で記入した場合であっても、加害者側の保険会社から勤務先に対し、記載内容の照会が行われれば、会社が記入していないことがバレてしまいます。

休業損害として認められなくなるなど、今後の示談交渉において不利な状況となるリスクがあるため、自分で記入することは避けましょう。

まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします

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繁忙期は考慮される?

繁忙期と閑散期がある職種では、時期によって残業時間が異なるケースがあります。

例えば、事故前3ヶ月間がたまたま閑散期で残業がなく、事故後に繁忙期に入り残業が増える予定だったようなケースでは、通常どおり事故前3ヶ月間の給与をベースに休業損害を算出すると、本来もらえるはずだった分よりも、休業損害の金額が少なくなってしまう可能性があります。

通常は事故前3ヶ月の平均給与額をベースとしますが、繁忙期と閑散期がはっきりと分かれた会社に勤務している場合には、繁忙期と閑散期を示すデータや、事故前年度・前々年度の給与明細などを証拠に、予定されていた残業時間と残業代を算出し、この残業代を含めて休業損害を請求する必要があるでしょう。

通院のために残業できなかった場合でも休業損害は請求できる?

交通事故によりケガを負い、通院治療やケガの痛みのため、定時で退社したり、早退したりして、事故後に残業ができなくなってしまう場合があるかと思います。

このような場合でも、交通事故による通院と残業代の減少とに因果関係があることを証明できた場合には、残業代分を休業損害として請求することが可能です。

具体的には、以下のようなポイントを主張・立証していくことになります。

  • 他の社員も含めて残業を行うことが一般的であったこと
  • 勤務時間内あるいは勤務時間外に通院を行う必要性があったこと
  • 事故により実際に減少した残業代額

残業代と休業損害についての裁判例

ここで、残業代が休業損害として認められた裁判例をご紹介します。

【平成30年(ワ)第5064号 横浜地方裁判所 令和3年8月30日判決】

(事案の概要)

信号機ありの片側一車線の交差点において、渋滞中の車列の左側方を進行し、交差点に直進進入した原告の運転するバイクに、その対向方向から交差点を右折しようとした被告の運転する車がぶつかった事故につき、原告が被告に対し、残業代を含めた休業損害を求めて提訴した事案です。

(裁判所の判断)

裁判所は、被告は残業代をそのまま原告の基礎収入とすることは相当ではない旨主張するが、原告の勤務先における稼働の実体として、高額の残業手当が発生する状況が生じていたため、1日あたりの基礎収入に残業手当を含めることは相当であると判示しました。

その上で、原告の事故直前3ヶ月の給与額(残業代含む)を合計し90日で割った金額、

(54万5280円+67万8400円+88万9007円)÷90日=2万3474円を1日あたりの基礎収入として、休業損害を算出しました。

残業代を休業損害として請求するためにも弁護士にご相談ください

休業損害を計算するときは、事故前3ヶ月間の残業代も含めて計算されるため、事故前の残業代を含めた給与額を正確に把握し、加害者側に請求していくことが必要です。

ただし、事故が原因で残業ができなくなった場合や、繁忙期により事故前3ヶ月間の残業代を参照することが不適切であるような場合には、証拠を用意した上で、主張・立証していかなければなりません。

これらの作業には法的知識が求められますので、弁護士のサポートを受けることをお勧めします。

弁護士法人ALGには、交通事故の経験豊富な弁護士が多く在籍しており、休業損害の獲得の実績も多く有しています。

「自分のケースでは残業代を休業損害として請求できるのか?」と疑問を持たれたような場合は、ぜひ私たちにご相談ください。

宇都宮法律事務所 所長 弁護士 山本 祐輔
監修:弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長
保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)
栃木県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。