
監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
交通事故のケガが原因で、「足のしびれ」と「聴力低下」など、複数の後遺障害が残ってしまうことがあります。このような場合は、原則として2つを組み合わせてより重い等級へとランクアップさせることになります。
これを併合といいます。
併合後の等級により慰謝料などの賠償金額が決まるため、併合のルールについて知識を得ておくことが重要です。
このページでは、
- 後遺障害の併合の基本ルールや例外
- 併合が実施されないケース など
について解説していきますので、ぜひご一読ください。
目次
後遺障害の併合とは
交通事故では、視力低下と聴力低下など、異なる部位の障害が同時に複数残ることは珍しくありません。
このような場合は、併合という方法で後遺障害等級認定が行われます。具体的には、複数ある後遺障害のうち一番重い等級を繰り上げることで調整されます。
例えば、13級と9級の後遺障害が残った場合は、重い方の9級が1級ランクアップし、8級として認定されることになります。
後遺障害として認定されると、その等級に応じた慰謝料や逸失利益を相手方に請求できるようになります。後遺障害の併合の結果は、被害者が受け取れる賠償金額に大きな影響を与えるため重要です。
加重との違い
加重とは、以前より後遺障害を抱えていた被害者が、今回の交通事故で同じ部位にケガを負い、さらに障害が重くなってしまったことをいいます。
加重と認定されると、加重後の後遺障害に対応する保険金額から、すでにあった後遺障害に対応する保険金額を差し引いた金額が支払われます。すでにあった後遺障害については、交通事故が原因かどうかは問われません。
例えば、昔の事故で片腕を手首から先で失っていた被害者(後遺障害5級4号)が、その後、別の事故で新たに同じ片腕をひじ上から失った(後遺障害4級4号)場合は、自賠責保険の上限額でいえば、4級の1889万円から5級の1574万円を差し引いた315万円の保険金を受け取ることになります。
後遺障害の併合の基本ルール
後遺障害の併合の基本ルールは、以下のとおり、複数ある後遺障害のうち最も重い等級が繰り上がるというものです。
- ①5級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は、最も重い後遺障害等級を3つ繰り上げる
- ②8級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は、最も重い後遺障害等級を2つ繰り上げる
- ③13級以上の後遺障害が2つ以上ある場合は、最も重い後遺障害等級を1つ繰り上げる
- ④14級の後遺障害が2つ以上ある場合は、14級のまま
例えば、後遺障害13級と9級に認定された場合、③のルールが適用されます。
そのため、併合後の後遺障害等級は8級となります。
後遺障害の併合の例
後遺障害の併合の例として、以下が挙げられます。
・片手をひじ上から切断(4級4号)+内臓の障害で複雑な仕事ができない(5級3号)
5級以上の後遺障害が2つあるため、一番重い4級が3級上がり、1級になります。
・両目の視力が0.06以下になった(4級1号)+外貌に著しい醜状が残った(7級12号)+10本以上の歯が義歯になった(11級4号)
8級以上の後遺障害が2つあるため、一番重い4級が2級上がり、2級になります。
・聴力が耳元で大声でないと聴き取れないほど低下した(10級6号)+外貌に醜状が残った(12級14号)
13級以上の後遺障害が2つあるため、一番重い10級が1級上がり、9級となります。
・首にむちうち(14級9号)+腰にむちうち(14級9号)
14級が2つあるため、繰り上げは行われず、14級のままです。
併合の例外|ルールが変更されるケース
併合の基本ルールは、最も重い後遺障害の等級を繰り上げて等級認定することです。
ただし、あくまで基本ルールですので、個別の状況によっては適用が難しい場合もあります。
例えば、以下に挙げるような状況では、例外として併合のルールが変更されます。
同一部位に後遺障害が残った場合(みなし系列)
系列が異なる後遺障害は、併合するのが原則です。系列とは、後遺障害を部位ごとに分類し、そこからさらに障害ごとに35グループに分類したものです。
しかし、系列が違う障害でも、次の同じ部位に残った障害については、同じ系列と判断され、併合は行われません。これをみなし系列といいます。
- 両眼球の視力障害、調節機能障害、運動障害、視野障害の各相互間
- 同一上肢の機能障害と手指の欠損または機能障害
- 同一下肢の機能障害と足指の欠損または機能障害
例えば、事故により右足の関節の可動域の制限(12級7号)と右足の指の可動域の制限(13級10号)が残ったとします。右足の指の可動域制限は、右足の関節の可動域制限に含まれると評価されるため、併合せず、重い方の12級7号のみが適用されます。
序列を乱す場合
基本ルールにしたがって併合すると、実際の後遺障害が併合してランクアップした等級の認定条件に達しないことがあります。このように等級の併合により、後遺障害等級の序列が乱れてしまう場合は、序列を乱さないよう、下位の等級に認定されます。
例えば、4級と5級の後遺障害が残った場合、本来であれば併合して1級となるはずですが、後遺障害の症状が1級の障害の程度に及ばない場合は、1級の下位の2級であると認定されます。
以下で具体例をもとに説明します。
左足を膝関節以上で失った+右足が使えなくなった
例えば、左足をひざ上から切断し(4級5号)、さらに右足の股関節から下を全く動かせなくなった(5級7号)ケースを想定してみます。
これらの障害を基本ルールに従い併合すると、5級以上の後遺障害が2つ以上あるため、一番重い4級を3級ランクアップし、併合1級になります。
しかし、後遺障害1級5号に「両足をひざ上から切断したもの」と、1級6号に「両足の股関節から下を全く動かせないもの」というものがあります。
今回のケースの後遺障害は、これらの1級の認定条件を満たしていません。この場合は1級に及ばないものとして、下位の併合2級が認定されます。
組み合わせ等級がある場合
組み合わせ等級とは、あらかじめ設けられた、左右の障害を組み合わせた後遺障害等級のことです。すでに組み合わせ等級が存在するのであれば、併合は実施せず、組み合わせ等級が優先適用されます。
例えば、両方の足をひざ上から切断したケースを想定してみましょう。
この場合は、右足のひざ上から切断した(4級5号)、左足のひざ上から切断した(4級5号)として、併合1級になるように思われます。
しかし、両足をひざ上から切断した(1級5号)という、左足と右足の障害をセットにした等級がすでに等級表に定められています。このときは、併合1級ではなく、後遺障害1級5号として認定されることになります。
併合によって1級以上になる場合
最も重い後遺障害等級は1級です。
そのため、例えば2級と4級の併合であっても、2級が繰り上げられて1級以上になることはありません。この場合は、併合1級として認定されます。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
後遺障害の併合が適用されないケース
複数の後遺障害が残ったとしても、以下のケースでは併合が行われません。
-
1つの後遺障害が他の障害に含まれる場合
例えば、右足の大腿骨が変形し(12級8号)、右足が1㎝短縮した(13級8号)場合、足の短縮は大腿骨の変形に含まれると評価されるため、併合せず、重い方の12級8号が適用されます。 -
1つの後遺障害から他の障害が派生している場合
例えば、右腕に偽関節(8級8号)、その部位に頑固な神経症状(12級13号)が残った場合、神経症状は偽関節から派生した障害であるため、8級8号が認定されます。 -
要介護の障害
要介護の後遺障害(別表の1級、2級)については、後遺障害が複数あっても、併合されません。1級は常時介護を要するもの、2級は随時介護を要するものであり、これら同時に当たることはないためです。
後遺障害等級を併合した場合の慰謝料はどうなる?
後遺障害等級を併合した場合は、併合後の等級に応じた慰謝料を相手方に請求できます。
以下に慰謝料の相場を挙げましたので、ご一読ください。
後遺障害等級 | 自賠責基準 | 弁護士基準 |
---|---|---|
1級(常時介護が必要な障害) | 1650万円 | 2800万円 |
2級(随時介護が必要な障害) | 1203万円 | 2370万円 |
1級 | 1150万円 | 2800万円 |
2級 | 998万円 | 2370万円 |
3級 | 861万円 | 1990万円 |
4級 | 737万円 | 1670万円 |
5級 | 618万円 | 1400万円 |
6級 | 512万円 | 1180万円 |
7級 | 419万円 | 1000万円 |
8級 | 331万円 | 830万円 |
9級 | 249万円 | 690万円 |
10級 | 190万円 | 550万円 |
11級 | 136万円 | 420万円 |
12級 | 94万円 | 290万円 |
13級 | 57万円 | 180万円 |
14級 | 32万円 | 110万円 |
後遺障害が複数あると被害者の苦痛も増えると考えられるため、上記の慰謝料額よりも増額される場合もあります。
後遺障害の併合についてご不明な点がございましたら弁護士にご相談ください
これまで後遺障害の併合のルールについて説明してきました。
併合のルールはかなりややこしいものとなっています。被害者ご自身で、自身の残存症状が後遺障害の併合の場合に当てはまり得るか否かを判断するのは難しいでしょう。
しかし、適切な慰謝料を受け取るためには、正しい等級認定を受けることが大切です。
交通事故により複数の後遺障害が残ってしまった場合や、今後残る可能性がある場合は、専門家である弁護士の判断を仰ぐことをおすすめします。
弁護士法人ALGには交通事故に精通する弁護士が多数在籍しています。
法的知識や経験的ノウハウをもとに、被害者の方が適正な後遺障害等級認定を受けられるよう全面的にサポートすることが可能です。ぜひ一度ご相談下さい。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)