監修弁護士 山本 祐輔弁護士法人ALG&Associates 宇都宮法律事務所 所長 弁護士
交通事故で顔等の目立つ場所に傷が残った場合、その後の人間関係の構築等、生活上に支障が生じる可能性があります。働く際に容貌が重要となる職業を目指していた人であれば、夢を絶たれたと感じるかもしれません。また、容貌が重要ではない仕事をしていたとしても、傷があることによって積極的になれない等、精神面で仕事に影響するかもしれません。そのような可能性を考えると、事故による傷跡の残置については、後遺症と評価されることが重要となります。
以下で、顔等に残った傷(外貌醜状)について解説します。
目次
外貌醜状とは
外貌醜状とは、上肢・下肢(手・足)以外の日常的に露出する部分(頭・顔・首等)の目立つ傷跡です。傷が一般的感覚において目立つほどのものでないと判断されるのであれば、外貌醜状に該当しないと認定されることがあります。
交通事故により外貌醜状が残ってしまった場合、後遺障害として等級認定され、逸失利益を受け取ることが可能な場合がありますが、傷の評価について争いになるケースも少なくありません。
後遺障害等級認定を受けられるか
運動能力に影響を及ぼさない外貌醜状であっても、接客業を営む場合や、就職・転職を行う場合に影響が生じるおそれがあること等から、後遺障害の等級とされています。
かつては、女性の外貌醜状は男性よりも重く扱われていました。しかし、現在では男女差は廃止されており、女性の外貌醜状であっても男性と同様に扱われます。
外貌醜状の後遺障害等級が認められる条件
外貌醜状を後遺障害として認定してもらいたいと考えるのであれば、まずは医師に後遺障害診断書を作成してもらい、それに基づいて後遺障害等級を認定してもらう必要があります。
後遺障害等級認定の要件は以下のとおりです。
等級 | 障害の部位 | 傷跡の詳細 |
---|---|---|
7級12号 | 頭(頭部) | 頭部に残った手のひら大以上の瘢痕または頭蓋骨の手のひら大以上の欠損 |
顔(顔面部) | 顔面部に残った鶏卵大面以上の瘢痕または10円硬貨大以上の組織陥没 | |
首(頚部) | 頚部に残った手のひら大以上の瘢痕 | |
9級16号 | 顔(顔面部) | 顔面部に残った長さ5cm以上の線状痕 |
12級14号 | 頭(頭部) | 頭部に残った鶏卵大以上の瘢痕または頭蓋骨の鶏卵大以上の欠損 |
顔(顔面部) | 顔面部に残った10円硬貨以上の瘢痕または長さ3cm以上の線状痕 | |
首(頚部) | 頚部に残った鶏卵大以上の瘢痕 | |
14級4号 | 腕(上肢) | 上肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの |
14級5号 | 足(下肢) | 下肢の露出面に手のひらの大きさの醜いあとを残すもの |
隠れる部分は醜状として認められない
瘢痕、線状痕、組織陥没があったとしても、眉毛や髪の毛で隠れる部分については外貌醜状には該当しないとされます。例えば、6センチメートルの傷のうち2センチメートルの傷が隠れるのであれば、4センチメートルの傷として扱われます。また、化粧をすればごまかせる程度の傷跡であった場合には、外貌醜状であると認定されないおそれがあります。そのため、傷が残ったとしても、どの範囲を外貌醜状として認めるかについては、審査する者の主観の影響が生じ得ます。
手のひら大は被害者の手が判断基準
外貌醜状の大きさとして、手のひら大の傷と言えるのかが重要です。その基準となる手のひらは、被害者の手から指を除いた部分の大きさを基準として認定します。傷の大きさが同じでも、人の大きさが異なれば外見の印象は変わること等から、このような基準が採用されています。
なお、仮に細長い傷があって、手のひらで覆えないほどの長さであったとしても、その傷は手のひら大であると言えません。手のひら大であるといえるためには、傷の面積が手のひら以上の広さであることが必要です。線状の傷については、異なる基準で認定されます。
鶏卵大の大きさはどれくらいか
鶏卵大とは、鶏の卵程度の大きさということです。スーパーで売っている卵にはSやLといったサイズがあるため曖昧だと感じるかもしれませんが、平均的な卵の大きさのイメージとなります。
線状痕とは
線状痕とは、交通事故で切り傷を負ったり、治療のためにメスで肌を切ったりした場合に、傷が治っても残る傷跡です。線状痕が途中で曲がっていれば、直線にしたときの長さを調べます。長さに関し、複数の傷跡がある場合は、印象上でひとまとめとみられる場合は合算されることとなります。
欠損とは
欠損とは、交通事故によって、まぶたや鼻、耳等が欠けてしまうことです。欠損による視力や嗅覚、聴力等の低下、喪失という障害の外、外貌醜状としての後遺障害等級認定の対象となる可能性もあります。同じ損傷により、欠損による機能障害と外貌醜状の両方が生じた場合には、より等級の重い方が採用されます。
組織陥没とは
組織陥没とは、身体の組織がへこんで窪みができた状態のことです。7級12号において、顔に生じた瘢痕と組織陥没を比べてみると、瘢痕と比して組織陥没の方が認定に必要な面積が小さく、その分外貌醜状と認定やすくなっています。
瘢痕とは
瘢痕とは、外傷による傷跡ややけどによる痕跡、手術の際の切創跡等が、組織の変異により傷跡として残ったものです。浅い傷の瘢痕は、傷が完治したときには薄くなっているのが通常でが、深い傷は、治る際に細胞が異常な増殖をして盛り上がってしまうことがあり、完治した後も目立つ瘢痕になってしまいます。瘢痕は、触感的にも通常の皮膚と異なり、つるりとした感触になります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
等級認定には後遺障害診断書が必須です
後遺障害等級認定を受けるためには、まず主治医に後遺障害診断書を作成してもらい、それと他必要書類をそろえて後遺障害等級認定の申請を行う必要があります。
医師には、後遺障害診断書に、瘢痕等がある部位や大きさを記載してもらいます。ただ、それは後遺障害診断書のみに記載があればいいというわけではなく、治療開始当初から診断書に傷の推移や状態を随時記載してもらうべきです。後遺障害診断書の記載事項は、書面審査に用いられるだけでなく、被害者が自賠責調査事務所に呼び出されて行われる面接調査の際にも用いられます。
仮に、主治医が後遺障害診断書の作成について消極的であったり、事実があるのに必要な記載をしてくれなかったりする場合などは、他の病院をあたることがやむない場合もあり得ます。
自賠責損害調査事務所の審査面接について
自賠責保険の請求の際に行われるのは、原則として書面審査ですが、外貌醜状については審査面接が行われます。この面接の際には、傷があることを確認するだけでなく、その傷が人目に付くか、大きさはどの程度であるか等について確認されます。場合によっては、絶対的な傷跡そのものの大きさよりも、狭い範囲のみが外貌醜状として認定されることになり得ます。
基準より少しでも傷が小さくなったり短くなったりすると、低い等級でしかなくなったり、非該当とされるおそれがあります。この辺りは、醜状についてはいつ症状固定として後遺障害認定申請に進むのかなどの判断が関係してきます。
外貌醜状は逸失利益が問題となることが多い
外貌醜状は、被害者の運動能力に影響を及ぼさないため、逸失利益の認定が簡素単純ではありません。俳優やモデル、ホステス、営業職等であれば、顔に大きな傷が残ったことによる影響を主張しやすいですが、仕事をする際に容姿が直接影響しないのであれば、労働能力を失っていないと認定されるおそれがあります。
今後の収入への差しさわりの蓋然性、程度について的確に主張、立証していくこと、協議だけでなく訴訟等への手続移行を予め織り込んでおくことなどが重要です。必要なら、弁護士の助力も得るべきでしょう。
傷跡が残ってしまったら弁護士にご相談ください
事故による負傷で大きな傷が生じ、それが後となって残ると見通される場合は、弁護士にご相談ください。外貌醜状は、交通事故の被害者にとって、今後の人生に大きな影響を及ぼしかねない後遺障害です。しかし、その仕組みをよく知らないままで、相手方の保険会社に任せきりとしてしまうと、今後の人生への影響を評価されずに流され、本来であれば受け取ることが可能だった逸失利益や然るべき慰謝料を受け取ることができなくなってしまうかもしれません。
交通事故に詳しい弁護士であれば、醜状について等級認定等のサポートを行うことができるので、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(栃木県弁護士会所属・登録番号:43946)